30分に一度は動こう! ~運動のすすめ~
2025年7月
猪岡内科
糖尿病療養指導士 中村郁恵
【座りっぱなしとその健康リスク
】
日本人は1日に約7~8時間を“座って”過ごしているといわれています。
しかし、その“座りっぱなし”の時間が、糖尿病、心血管疾患、そして、認知症リスクを高める可能性があります。
アメリカ糖尿病学会(ADA:American Diabetes Association)では先月に特集した
「週に150分の運動を推奨すること」に加えて、
「長く座りすぎないように30分に一度は体を動かすこと」を推奨しています。
これは、こまめに体を動かすことで食後の血糖値の上昇を緩やかにしたり、インスリンの効きをよくするという研究結果が増えてきたことが背景にあります。
暑くなってきた今月は
「室内で30分に一度体を動かすこと」をテーマにしようと思います。

【少し前までは】
2015年、ADAの『糖尿病ケア基準(Standards of Medical Care in Diabetes)』では
「90分に一度は座りっぱなしをやめ、軽く動くこと」を推奨しました。
デスクワーク中心の生活で長時間座る人ほど、2型糖尿病や心血管疾患のリスクが高まることがわかってきましたが、座りっぱなしをやめて
数分間の軽い歩行を促したところ食後の血糖値やインスリンの反応が良くなったという研究が背景にありました。
【近年の研究では】
さらに研究が進み、アメリカ糖尿病学会(ADA)の2022年版『糖尿病ケア基準(Standards of Care in Diabetes)』では、
「30分ごとに座りっぱなしを中断すること」が新たに推奨されました。
このきっかけとなった代表的な研究は、Dempseyらによる2016年の研究です。
Dempseyらの2016年研究(Diabetes Care)
2型糖尿病の患者さんを対象に、
30分ごとに3分間の軽いウォーキング群
30分ごとに3分間の簡単な筋肉トレーニングをした群
8時間連続で座り続ける群
の3グループにわけて1日の血糖値の変動を比較しました。
結果は、
①②の30分に一度体を動かした群で、血糖値とインスリン反応が有意に改善しました。さらに、②の筋トレ群では、中性脂肪も低下しました。
【ここまでのまとめ】
アメリカの糖尿病学会ADAで
「Break up sedentary time=座りっぱなしの時間をこまめに中断する」ことが推奨されて、徐々に各国でも推奨されてきました。
そして、その頻度は
「dose-response relationship=用量反応関係」にあります。
今までの「90分に一度」よりも、新たな推奨基準の
「30分に一度の軽い運動をする」方が血糖値の改善により効果的なため、このように推奨基準が変わりました。
なぜこまめな運動をすると糖が消費されるのでしょうか。
【筋肉と糖の取り込み】
私たちの体でもっとも多くの“糖”を使っているのは、
筋肉です。じっと座っていると、筋肉はあまり動かず、血液中の糖はなかなか使われません。でも、少し立ち上がって歩いたり、スクワットを数回するだけでも、筋肉は
「糖を取り込んで使おう」と働き始めます。
このとき筋肉の中では、糖が
「GLUT4(グルコース輸送体)」という、通り道のようなものを通り細胞に入ってミトコンドリアに送られます。
GLUT4は、普段はインスリンの刺激で働きますが、運動による筋肉の収縮でも刺激されて、糖を取り込みやすくなります。
ミトコンドリアでは糖や脂肪を酸素と一緒に燃やしてたくさんの
エネルギーが作られています。
継続して運動することで、さらにミトコンドリアの数が増えて、活発に働き、より多くの糖が消費されるようになります。
運動をすると筋肉の中では
「糖はGLUT4により取り込まれ→ミトコンドリアでエネルギーに変える」という流れが数分間のうちに始まります。
その結果、血液中の糖が効率よく使われるのです。
このしくみは「インスリンに頼らない糖の取り込み」とも呼ばれ、食後の血糖値を下げるのにとても効果的です。
つぎに、運動の実践と習慣化できる方法について考えてみたいと思います。
【家の中でできるながら運動】
30分に数分間、体を動かすために、家の中で手軽に取り組める運動をいくつかご紹介します。
・椅子スクワット
・かかと上げ
・肩ストレッチ
・立ち上がってその場で足踏み
・背伸び&深呼吸
・腰ひねりストレッチ
・階段の上り下り
【座りっぱなしになる時間を思い出してみましょう】
まずは、普段の生活の中で30分以上座りっぱなしになってしまう時間帯を思い出してみてください。
朝食後にゆっくりしているとき
デスクワークで座りっぱなしのとき
車やバスでの長い移動があるとき、
昼食後に眠たくなりうとうと座っているとき、
夕食後から寝る前にソファでくつろいだり読書をしているとき
などがあげられると思います。
その中で、30分ごとの軽い運動(1分でもOK)を入れられるタイミングや
立ち上がるきっかけを作るアイディアを探してみましょう。
・トイレに行った後のタイミングで肩を回す
・お茶を飲みに立つついでにスクワット
・テレビを見ている場合はCMの間だけ体を動かす
・いつもより少し遠い駐車場に車を止める
・デスクワーク中に時間を見てかかとの上げ下ろしをしてみる

【最後に】
糖尿病と向き合う生活は、ストイックになりすぎずに自分のリズムの中にちょっとした運動の習慣化をしていくことが長続きのコツです。
「今日はどの時間帯に長く座っていたかな?」と一日の終わりに振り返ってみて
明日は、“できるときに” “できる分だけ” 無理のない範囲で体を動かしてみましょう。
2025-06-26 09:50:41
運動療法