アメリカの動脈硬化の基準について
~血圧のコントロール編①~
2024年6月
猪岡内科
糖尿病療養指導士 中村郁恵
先月に引き続き、「Cardiovascular Disease and Risk Management: Standards of Care in Diabetes—2024」
「
糖尿病患者における心血管疾患(ASCVD)のリスク管理」
今月は“血圧の部分”についてまとめました。
【高血圧】
高血圧は、
≥130 /80mmHgと定義されます。
2回以上測った測定値の平均を出しますが、 血圧が
≥180/110 mmHg で心血管疾患のある人は、1 回の診察で
高血圧と診断されます。
これは、米国心臓病学会および米国心臓協会による高血圧の定義と一致しています。
高血圧は、糖尿病の方にもよく見られますが
アテローム性動脈硬化性心血管疾患(atherosclerotic cardiovascular disease: 以下 ASCVD)の主要な危険因子でもあります。
多くの研究により、血圧を下げる降圧療法は心筋梗塞などのASCVDイベント、および糖尿病の合併症である微小血管合併症を減少させることが判明しています。
【白衣性高血圧と自宅血圧】
また、普段自宅で測る血圧は高くないけれど医師の前だけで血圧が上がってしまう
“白衣高血圧”の方もいます。
そのような方は“ストレスや緊張による血圧の変動”を受けやすい体質で、徐々に高血圧へ移行する場合があります。
自宅の血圧測定は、外で測る血圧よりもASCVDリスクとの相関が高いことが判明しており、日本の高血圧学会やアメリカの各学会でも
「自宅での血圧測定」は推奨されています。
自宅血圧と病院での血圧の差は一般的に5mmHgほどです。
そのため、自宅血圧では高血圧の基準が125mmHg以上を目安とします。
それ以上に血圧の差がある場合には、まず血圧計が正しくつけられているかを確認しますが、それでも差がある場合には白衣性高血圧の可能性を考えます。
・自宅血圧測定方法
1回目 朝起きて、済ませた後。ごはんや薬を飲む前に測定
2回目 夜寝る前
可能であれば2回測定します。
ご希望の方には血圧手帳を配布していますので、自宅で血圧をつける習慣をつけてみましょう。
自宅血圧が正常範囲であるのに病院で血圧が上がってしまう方は血圧手帳を持参して医師にご相談ください。
【治療目標】
糖尿病のある方の血圧の目標は 130/80mmHg以下です。
血圧の研究ではSPRINT、ACCORD BP試験、ADVANCE試験などが有名ですが、どの研究でも高血圧の患者さんを対象に
- 標準的な血圧治療群
- ①よりも目標血圧を下げて厳格な治療をした群
に分けて、脳梗塞、心筋梗塞、心不全などのイベント発症の差、薬剤による副反応の差を調査しています。
その結果より「
血圧の目標は 130/80mmHg以下」とされました。
また、厳格すぎる治療により血圧が下がりすぎてしまうと、個人によっては低血圧、失神、徐脈、高カリウム血症、血清クレアチニンの上昇などの副作用がおこりうる可能性があります。
それも踏まえて、お薬での治療介入の目安は血圧が130/80mmHg以上が目安となっています。
【治療戦略】
ライフスタイル介入
高血圧とは診断されないけれど血圧が120/80mmHgを超える方は、まず生活習慣を見直してみましょう。
生活習慣の管理は主に、
運動、食事、禁煙の3つです。
●運動
運動面では、“適正体重” “活動の増加”を意識します。
糖尿病の基準に準じて
週に150分の有酸素運動がすすめられています。
「毎日少しずつ“30分×週に5回”」「まとめて“50分×週に3回”」
ご自身のライフスタイルに合わせて
習慣化しやすい方法を考えてみてください。
●食事
食事面では主に“ナトリウム”と“カリウム”を意識します。
アメリカのガイドラインでは、ナトリウム摂取量
(<2,300mg/日=5.85g)がすすめられています。
しかし、栃木県の平均塩分摂取量は<男性10.7g、女性9.1g>と倍量近くあります。
まずは、厚生労働省が示す<1日の塩分摂取
8.0g>を目標に満足いく味付けの範囲で減らしてみましょう。
アメリカでは1㏖を基準に考えられています。
㏖は国際単位系における物質量の単位です。
Na=23 Cl=35.5
NaClの分子量58.5がそのまま58.5gという質量になり、
その1/10がナトリウム摂取量
(<2,300mg/日=5.85g)という基準になりました
。
当院では定期的に、塩分チェック表、1日の塩分摂取量の尿検査も行っています。
高血圧を予防するための食事療法(DASH食)については後で解説します。
●禁煙
タバコを吸うと血管が収縮して血圧があがることは一般的に知られています。
実際に心筋梗塞になると“これを機に”とスパッとタバコを辞められるものの、
”強いきっかけ”がないとなかなか難しいものです。
健康に悪いとわかりながらも吸い続けてしまうのは、ニコチン中毒の怖いところだと感じます。
“浮いたたばこ代で何を買おうかな?”“旅行に行こうかな?”と禁煙することをプラスに考えてみるといいかもしれません。
このような生活習慣の改善に加えて、さらに血圧が
130 / 80 mmHg以上の方は内服薬にも頼ってみましょう。
さらに、血圧が
≥150/90 mmHg以上の方は2種類以上の薬を飲み合わせる治療法もすすめられています。
次回は血圧の薬についてです。
2024-05-26 14:15:20
糖尿病