アメリカの動脈硬化の基準について①
猪岡内科
2024年5月
糖尿病療養指導士 中村郁恵
2024年の「Diabetes Care」誌の特集号では
「Cardiovascular Disease and Risk Management: Standards of Care in Diabetes—2024」
「
糖尿病患者における心血管疾患(ASCVD)のリスク管理」について掲載されています。
この特集号では、「個人個人の心血管リスクを評価してコントロールすることが、ASCVDの予防や進行を遅らせるのに効果的であること」が述べられています。
多くの研究では
複数の心血管リスク要因(血糖、血圧、脂質のコントロール)を同時にアプローチすることで大きな利益を得ることができ、その結果、動脈硬化の進行を抑えて血管年齢がよくなることが期待されています。
動脈硬化の主なリスクである
血圧、脂質、糖尿病、それぞれに焦点を当てながら、まとめていきたいと思います。
今月号は“どんなことが動脈硬化のリスクになっているのか?”
リスク因子についての概要と計算ツールの紹介です。
はじめに
【動脈硬化:ASCVDとは?】
ASCVDとは
アテローム性動脈硬化性心血管疾患
(atherosclerotic cardiovascular disease: ASCVD)の略称で代表的な疾患は
心筋梗塞や、狭心症、脳血管疾患です。
心臓病、脳梗塞は日本の3大疾患に入ると言われておりますが、2型糖尿病ととても関連が深く、糖尿病の発症ともリスク因子は共通するところが多いです。
さらに米国では2型糖尿病の方は生涯に約2/3の方がASCVDを発症するといわれています。
【ASCVDのリスク因子】
ASCVDのリスク因子では
糖尿病の罹病期間、肥満/太りすぎ、高血圧、脂質異常症、喫煙、早期冠状動脈疾患の家族歴、慢性腎臓病(CKD)やアルブミン尿の存在がリスク因子として挙げられています。下のリスクを一覧表をご覧ください。
こちらの表にご自身のリスクをあてはめてみましょう。
目安として、
“血圧は130mmHg / 80mmHg以下、
脂質の部分は
LDLコレステロール70㎎/dl以下”で低リスクです。
早期冠状動脈疾患の家族歴については
“父親が50歳の時に心筋梗塞になり、カテーテル治療を受けました。”
のような、比較的若い年齢で心筋梗塞などの冠動脈疾患を発症した方が、ご両親、兄弟・姉妹にいる場合はリスクが高いといえます。
早期冠状動脈疾患の家族歴のリスクは目安として
、60歳未満とされていますが、
ご自身の家族が早期に発症していたら、その分リスク因子が高いことが想定されます。
もっと詳しく知りたい方は、
【リスク計算機】
米国心臓病学会のASCVDリスク計算ツール(Risk Estimator Plus)は
心筋梗塞や脳梗塞などの
動脈硬化のイベント発生10年間の発症リスクを評価するためのツールです。
動脈硬化のリスク計算ツールで今後10年の動脈硬化のリスクがどのくらいあるのかを無料で評価してくれます。
注・下の表はそのサンプルですが画像が不鮮明です。
気になる方はこちらのHPをご覧ください。
tools.acc.org/ASCVD-Risk-Estimator-Plus
年齢、性別、人種、コレステロール、血圧、糖尿病歴、喫煙の状態
薬剤治療(高血圧薬、スタチン製剤、アスピリン製剤)を使用して計算し、
今後10年間に心筋梗塞や脳梗塞など動脈硬化のイベント発症リスクがどのくらいあるかを推定します。
スタチン製剤
(ロスバスタチン、アトルバスタチンプラバスタチン、ピタバスタチンなど)
アスピリン製剤(バイアスピリン、アスピリンなど)
糖尿病の罹病機関や早期冠状動脈疾患の家族歴は変えることができないので、
その他のリスク因子(糖尿病、高血圧、脂質異常症、慢性腎臓病、喫煙)1つ1つをコントロールして総合的に動脈硬化を改善していきましょう。
こちらの計算ツールのリンクは、猪岡内科の公式インスタグラム
(@inooka.naika)のハイライトにも掲載しています。
【日本の健康保険制度】
“尿微量アルブミン”は、アメリカでは動脈硬化のリスク因子に入っており、定期的に観察するべきという指標ですが、日本の健康保険では算定に限界があります。
尿検査で「尿たんぱくがマイナス」と判定された方でも尿微量アルブミンが検出される方はたくさんおり、
“尿微量アルブミン”は、初期の腎障害を判定することに長けている検査項目と言えます。
当院ではこのような研究結果に基づき、必要に応じて健康保険の範囲で検査させていただいています。
【動脈硬化のリスクまとめ】
動脈硬化が進行してしまうリスク因子は様々です。
病気(糖尿病、高血圧、高脂血症、慢性腎臓病)
習慣(喫煙、睡眠、食事、運動)
リスク(家族歴、ストレス)
年に1度血管年齢意を測定して1つ1つ向き合い、治療や生活習慣を評価してみましょう。
2024-05-26 14:01:11
糖尿病