糖尿病の災害時について③
2024年4月
猪岡内科
糖尿病療養指導士 中村郁恵
前回は、災害時には“小さいポケットサイズのお薬手帳”が便利だったので、
お薬手帳を持っていない方は、この機会に小さいサイズのメモ帳などで自作してみましょうというお話でした。
2011年、東日本大震災で診察にあたっていた医師のお話をします。
実際の診察では、使っているインスリン、糖尿病のタイプ、病歴などそれぞれ違う患者さんが多く、初めてお会いする方も多く、情報源になるカルテもないような状態でした。
決められた一日の時間で多くの糖尿病の患者さんの診察にあたり、また、インスリンの本数にも限りがあったそうです。
その中で医師は
“緊急時のインスリンの打ち方”を患者さん全員に指導したそうです。下記にまとめました。
【緊急時のインスリンの打ち方】
緊急時はどなたでも“持続性のインスリンを10単位”打ちましょう。
但し、いつも打っている持続インスリンが10単位未満の方は、いつも打っているインスリンの量の半分くらいを目安にしましょう。
災害時などで手持ちのインスリンが限られている場合は、
“血糖コントロールよりもインスリンを切らさないこと”を優先します。
もし震災が起きてしまい避難生活が始まったとき、手持ちのインスリンが残り少なかったとします。
その場合はインスリン不足などの事態に備えて、一時的に血糖コントロールよりも命をつなぐインスリンの打ち方を優先します。
インスリンが足りなくて命を落とすことなのないように
“持続インスリンを10単位だけ打つ”という緊急時の生き抜き方を覚えておきましょう。
また、普段インスリンを打っている量が多くて心配な方は、あらかじめ“災害時の自身のインスリンの打ち方”について医師に確認して指示をもらっておくと良いでしょう。
災害の急性期が過ぎて、インスリンや食事の供給量が安定し低血糖対策の雨やジュースを確保することができたら、徐々にインスリンの量を元の単位に戻していきます。
この場合は急激に血糖値を下げると、糖尿病の合併症が起きやすくなるので
“3日で2単位ずつ上げる”のを目標にすると良いです。
【持続インスリン一覧】
災害時は、もしかしたらご自身の処方されている持続インスリンと異なる名前の薬剤が処方されるかもしれません。
同じ持続性インスリンの仲間ですがそれぞれ特徴があるので、もしもの時のためにこちらのグループを覚えておくと良いです。
また、同じ名前の薬剤でペンタイプ、カートリッジ式のものがありますが、
インクが切れたら廃棄の使い捨てのボールペンか万年筆のような入れ替え式かという違いなので、薬効は同じです。
薬効は24時間ですが、持続性インスリンの中ではピークの時間があるものです。薬が効き始めるまで1時間、ピークはインスリンを打ってから3-14時の間で、その後は徐々に効果がうすれていきます。
当院では取り扱っておりませんが、緊急時のために同じ持続インスリンの仲間として知っておくと良いです。
薬剤名:レべミル
明らかなピークはなく、24時間の薬効がある持続性インスリンです。
薬が効き始めるまで1時間ほどかかります。
薬剤名:ランタス、グラルギン、ランタスXR
持続インスリンの中でも特に長く効くタイプと言われています。
薬剤名:トレシーバ(反復投与により42時間の薬効)
【災害時!種類の違うインスリンをどう使う?】
避難生活でインスリン不足があると、持続インスリンの中、超速攻型インスリンの中でも自分の使用しているインスリンと同じグループのインスリンへ種類を変更しなければならないことがあります。
災害時にやむなく薬剤を置換する場合の“インスリン”の調整についてお話ししたいと思います。
なお、こちらは、災害の緊急事態を乗り越えて、インスリン不足の状態から解消され、
命つなぐインスリン→血糖コントロールを徐々に元に戻していくインスリン段階、またはインスリンの流通は十分だけれども種類が限られており、ご自身の使っているインスリンの種類が変わってしまった時に参考に覚えておいていただきたいお話です。
●持続性インスリンの災害時の変更について
① 持続インスリンの中の
ランタスと
グラルギンはほぼ同じと考えます。
ランタスからグラルギンに変わる場合、またその逆についても、いつもと同じインスリンの量を打ってかまいません。
- レべミルからランタスXRやトレシーバに変更する際はいつもの70-80%量に減らしてください。
例えばレべミルを10単位打っていたら、ランタスやトレシーバは7,8単位に減らします。
- ランタスからランタスXR,トレシーバに変更するときにはいつもの80%量を目安に打ちます。
例えばランタスを10単位打っている場合には、ランタスXRトレシーバは8単位に減らします。
また来月に続きます。
2024-05-26 13:50:13
糖尿病