糖尿病学会より日本人における2型糖尿病のアルゴリズム⑧
~日本人での糖尿病治療薬~
2024年1月
猪岡内科
糖尿病療養指導士 中村郁恵
次に日本人での治療薬の選択についてです。
【日本人の治療選択】
日本人ではインスリン分泌能が低下している病態の方、インスリン抵抗性が主な病態の方、2つの病態が混ざり合っている方など糖尿病の病態が個々によって異なります。
そのため。日本での2 型糖尿病の治療薬の選択においては、患者さんのインスリン分泌およびインスリン抵抗性、年齢や肥満の程度、慢性合併症の程度を考慮して、全てのクラスの薬剤から初回治療薬として選択することを可能としている点が特徴的です。
JDSより、より個人に合わせて薬剤を選択するために次のページのようなアルゴリズムが作成されました。
日本人糖尿病の薬剤治療選択
アルゴリズム⑥でまとめたように、最初にインスリンの絶対的および相対的適応があるかどうかを判断して個人個人によって目標となるHbA1c を設定します。
その後、薬剤の選択に進みます。
・Step 1 病態に応じた薬剤選択
インスリン分泌不全および インスリン抵抗性を臨床的に評価するには、
HOMA-βやC-peptide index などのインスリン分泌能に関する指標や
HOMA-IR な どのインスリン抵抗性に関する指標が有用ですが、
簡便なものでは2 型糖尿病の病態をある程度判別できる臨床指標として
肥満の有無があります。BMI 25以上の肥満のある方をインスリン抵抗性がある、非肥満の方をインスリン分泌能が落ちていると想定して薬剤を選択していきます。
肥満症例における薬剤の候補としてはインスリン抵抗性改善系のビグアナイド薬(メトホルミン)、糖の排泄を調整するSGLT2 阻害薬、インスリン分泌促進系薬剤の中では体重減少効果が期待できるGLP-1受容体作動薬などが良い適応であると考えられます。
非肥満の 2 型糖尿病の多くは、インスリン分泌不全が病態の主体であるため、インスリン分泌促進系薬剤を中心に薬剤選択を行います。
DPP-4 阻害薬は本邦の 2 型糖尿病の初回処方として最も多く選択されており、安全性も高いために中でも高齢者での処方割合は極めて高い薬剤です。
アジア人においては血糖降下作用がより強いとする報告も見られ安全性と有効性の観点から非肥満の2 型糖尿病には良い適応であると考えられます。
SU薬(アマリール)は血糖非依存性のインスリン分泌促進薬であり、インスリンと同様に低血糖のリスクがあります。
食後高血糖が高い場合にはグリニド薬(グルファスト)や α-グルコシダーゼ阻害薬(グルコバイ、ベイスン、セイブル)も良い候補薬となります。
また、メトホルミンは非肥満においても肥満と同程度の HbA1c 低下作用を示すことから、非肥満例でも候補薬 の一つとなります。
次にStep2へ進みます。
・Step 2 安全性への配慮
低血糖のリスク、高齢者、腎機能の障害がある方、心不全がある方ではそれぞれ、リスクのある薬剤を避けます。(次ページの表に一覧でまとめました)
例えば、ビグアナイド薬(メトフォルミン)は安価で経済的に助かる反面、腎臓、心臓に合併症を持つ患者さんや、高齢者に使用するときには注意が必要という特徴があります。
次にStep3へ進みます。
・Step 3 Additional benefits(追加する利点)を考慮します。
海外を中心に SGLT2 阻害薬、GLP-1 受容体作動薬の慢性腎臓病、心血管疾患、心不全に対する効果を検証した大規模臨床試験の成績が多数報告され、その有用性が示されています。その研究については後述します。
つぎにSTEP4に進みます
・STEP4 考慮すべき患者背景
考慮するべき患者背景として、服薬遵守率と医療費があげられます。
糖尿病の患者さんにとって、薬をきちんと服薬できているかは血糖コントロールに影響するのみならず、心血管疾患、入院リスクとも関連します。
飲み忘れしにくいような薬剤を選ぶことで服薬遵守率をあげる配慮が大切です。
医療費については各薬剤の薬価に加えて、それ以外の医療費も考慮する必要があります。糖尿病は長期にわたって薬物療法が必要になるため、患者さんの経済的負担を軽減するために、ビグアナイド薬(メトフォルミン)が適応であるかどうか、配合薬への切り替えを考慮します。
2024-02-24 17:30:56