糖尿病学会より日本人における2型糖尿病のアルゴリズム⑥
~日本での目標HbA1c値設定~
2023年11月
猪岡内科
糖尿病療養指導士 中村郁恵
次に日本での目標となるHbA1c値設定の決め方です。
【日本での目標HbA1c値設定】
JDSによるアルゴリズムでは次のようになっています。
・インスリンの適応の評価と目標 HbA1c の設定
2 型糖尿病の薬物療法は安全性を大前提とし、まずインスリンの絶対的および相対的適応があるかどうかを判断します。
・合併症予防の観点からはHbA1c 7 %未満が妥当であるが年齢や併存症等を考慮して目標となるHbA1cを個別に設定します。
HbA1cの目標値の決め方は、ガイドラインによるHbA1cの目標値、“厳格な血糖コントロール”を推奨する熊本スタディ、 J-DOIT3をもとにしたHbA1cの目標値、高齢者のガイドラインのHbA1cの目標値と様々なのでまとめていきます。
●糖尿病ガイドラインでのHbA1cの目標値
従来のガイドラインの糖尿病患者さんの血糖コントロールは、年齢、罹病期間、臓器障害、低血糖の危険性、サポート体制などを考慮して個別に設定されます。
下の図のように。
血糖正常化を目指すときはHbA1c6.0%未満を目指します。
合併症の発生と進行を抑えるために、治療強化が困難な場合を除き、できるだけ
HbA1c7.0%未満を目指しますが、治療の強化が困難である場合には
HbA1c8.0%未満を目指します。
●高齢者ガイドラインでのHbA1cの目標値
超高齢化社会と言われている日本では65歳以上の人口が30%に及びます。
そして2型糖尿病の半数以上は65歳以上の高齢者です。
高齢者の糖尿病ガイドラインでは “厳格な血糖コントロール”を推奨する熊本スタディ、 J-DOIT3などの結果とは裏腹に、低血糖のリスクを考慮して目標のHbA1cがもともとの糖尿病ガイドラインより、より個々に合わせてより緩めに設定されています。
注1) 認知機能や基本的ADL(着衣, 移動, 入浴, トイレの使用など), 手段的ADL(IADL:買い物, 食事の準備, 服薬管理, 金銭管理など)の評価に関しては,
日本老年医学会のホームページ(外部リンク)を参照する.エンドオブライフの状態では, 著しい高血糖を防止し, それに伴う脱水や急性合併症を予防する治療を優先する.
注2) 高齢者糖尿病においても, 合併症予防のための目標は7.0%未満である.ただし, 適切な食事療法や運動療法だけで達成可能な場合, または薬物療法の副作用なく達成可能な場合の目標を6.0%未満, 治療の強化が難しい場合の目標を8.0%未満とする.下限を設けない.カテゴリーIIIに該当する状態で, 多剤併用による有害作用が懸念される場合や, 重篤な併存疾患を有し, 社会的サポートが乏しい場合などには, 8.5%未満を目標とすることも許容される.
注3) 糖尿病罹病期間も考慮し, 合併症発症・進展阻止が優先される場合には, 重症低血糖を予防する対策を講じつつ, 個々の高齢者ごとに個別の目標や下限を設定してもよい.65歳未満からこれらの薬剤を用いて治療中であり, かつ血糖コントロール状態が図の目標や下限を下回る場合には, 基本的に現状を維持するが, 重症低血糖に十分注意する.グリニド薬は, 種類・使用量・血糖値等を勘案し, 重症低血糖が危惧されない薬剤に分類される場合もある.
高齢の方では、年齢や認知機能・身体機能、併存疾患、重症低血糖のリスク、推定される余命などが様々であり、一律の目標設定が困難です。
また、低血糖のリスクがある薬を使用する中で血糖コントロールを厳しくすることは、前述の通り高齢者では特に危険であり、血糖を下げすぎないように
目標の下限値を決めることが適切と考えられます。これらの考え方をもとに、2016年に高齢者糖尿病の血糖コントロール目標が作成されました。
治療目標は、年齢,罹病期間、低血糖の危険性、サポート体制などに加え、高齢者では認知機能や基本的ADL、手段的ADL、併存疾患なども考慮して個別に設定されます。
●熊本スタディ、 J-DOIT3の復習
熊本スタディは、1日4回注射の強化インスリン療法による厳格な血糖コントロールにより血糖値をより正常に近づけることで、糖尿病の合併症を抑制できるかを検討した前向き試験です。
対象患者には一次予防(腎症、網膜症ともなし)群と二次予防(単純網膜症あり、24時間の尿中アルブミン排泄量300mg未満)群の両方が含まれていましたが、
熊本スタディで明らかになった解析結果は「
両方の群で厳格な血糖コントローをして血糖値を正常に近づけることで糖尿病の合併症の発症と進展を抑えられる」ということでした
。
J-DOIT3は高血圧または高脂血症のある2型糖尿病患者さんを対象に、従来のガイドラインに沿った
従来療法または、従来の治療法よりも目標をより厳しく設定した
強化療法のどちらかを受けていただき、どちらが糖尿病に伴う大血管症(心筋梗塞や脳卒中)の発症や進行を防止できるかどうかを調べることを目的としています。
解析結果は、強化療法では介入期間中の主要評価項目(心筋梗塞・冠動脈血行再建術・脳卒中・脳血管血行再建術・死亡)の発症がおおいに抑制され、特に脳血管イベントについては58%有意に抑制されたということです。
【HbA1cの目標値まとめ】
ADAでの個別化した目標HbA1c値設定の基本方針を示している表の方が簡潔明瞭ですが、日本でも欧米でも共通して言えることは、糖尿病の合併症を考慮して7%未満を目標として治療方針を進めていき、低血糖のリスクも考慮してより厳格なHbA1cを目指せる方はより厳格な治療を進め、高齢やインスリンなどのリスクのある方はより緩めなHbA1cを設定していくという点です。
目標HbA1cが決まったところで次に治療方針についてです。
次回は欧米と日本、それぞれの治療方針についてまとめていきます。
2023-11-10 13:29:59
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