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糖尿病学会より日本人における2型糖尿病のアルゴリズム⑤ ~欧米での目標HbA1c値設定~

糖尿病学会より日本人における2型糖尿病のアルゴリズム⑤ ~欧米での目標HbA1c値設定~

糖尿病学会より日本人における2型糖尿病のアルゴリズム⑤
~欧米での目標HbA1c値設定~
2023年10月
猪岡内科
糖尿病療養指導士 中村郁恵
 
糖尿病のアルゴリズムでは“‌日本と欧米の 2 型糖尿病に対する治療戦略の違い”について前回までにお話ししたように欧米人の2 型糖尿病の多くはインスリン抵抗性が主たる病態ですが、日本人 2 型糖尿病はもともとインスリン分泌能が低く、インスリン抵抗性とインスリン分泌不全の程度に個人差があることが特徴でした。
今年改定された部分も含めて欧米と日本での目標とするHbA1cの決め方や治療法の違いについて話していきたいと思います。
これから糖尿病を治療しようとする患者さんにはまず目標となるHbA1cの設定をします。
 
【欧米での目標HbA1c値設定】
 ADAでの個別化した目標HbA1c値設定の基本方針は下の図のようになっています。

1ページの表をご覧ください。
目標となるHbA1cは7%を基準にして、上から順に低血糖や薬物副作用のリスク、罹患期間、余命、重大な併存疾患、血管合併症、患者の志向、経済面も含めた資源や支援の体制を考慮しながら個別に設定します。
例えば、低血糖のリスクが少なく、罹患期間も短くて、合併症も少なくて、年齢が若い患者さんには目標となるHbA1cを低めに設定します。
反対に、高齢で罹病期間が長くて合併症があり、低血糖時にリスクのある患者さんには目標となるHbA1cを緩めに設定します。
欧米での目標HbA1c値設定はとてもシンプルでわかりやすいのが特徴です。
 
近年では徐々に自己血糖測定器や持続グルコース測定器が進化と普及したことでtime in range(TIR)という指標がさらに重視されています。

米国糖尿病学会によると、time in rangeとは“血糖値の目標範囲”のことです。
一般的に70〜180 mg / dlで、これには食前と食後の血糖測定値が含まれます。
連続血糖モニター(CGM)や自己血糖測定を行っている人は身近な話かもしれません。
目標となる血糖値の範囲が70〜180 mg / dlですので、次のステップは、自分の随時血糖値がこの範囲内に何パーセントくらい収まっているのかを算出してみます。
そして、目標としてクリアできそうな範囲を設定してフィードバックしていきます。
次ページの図はどれもHbA1cが7.0%の方ですが、右のグラフは低血糖もなく食後の血糖値もなだらかに見えるのに対して、左のグラフでは低血糖が頻発しており食後の血糖値も高くなっていますね。
できるだけ右側のグラフに寄せられるように、食後の高血糖や低血糖を補正して平坦になるような治療目標を個別的に立てていきます。

 
特に今回のADAの改定では、低血糖頻度や重症度の指標となる
time below range(血糖70mg/dL未満の時間が4%未満目標)の意義が強調されています。
 
【グルコーススパイクについて】
血糖値の数値の乱高下の波を“グルコーススパイク”と呼びます。
上のグラフをみると、一番左の血糖の波が激しく、一番右の血糖値の波が平坦なことがわかります。
この数値は健康診断などではわからず、連続血糖モニター(CGM)や自己血糖測定を行っている人などはご自身で把握することができます。
 
グルコーススパイクは、インスリンの分泌が大きく影響しています。
インスリンを分泌する能力が衰えると、分泌量が減ったり、分泌するタイミングが遅くなったりします。
すると、細胞がブドウ糖を取り込むことができず、血糖値の急激な上昇を招きます。さらに急上昇した血糖値を抑えるために、後からインスリンが大量に出てしまうと、今度は血糖値の急降下を招きます。
 
 
ところが、食後血糖値の検査は一般的ではないので、糖質の多い食品を大量に一気に食べ、我が身に血糖値スパイクが起こっているかもしれないことを、ほとんどの人が気づいていません
グルコーススパイクが起きると血管の中ではどのようなことが起こるのでしょうか。

グルコーススパイクが起こると、活性酸素が大量に発生し、血管内皮細胞を傷つけます。傷ついた血管を元に戻そうと、免疫細胞が血管壁に張り付き中に入り込みます。
この免疫細胞により血管の炎症が治まれば修復されますが、治まらなければ免疫細胞の死骸や修復材料のコレステロールなどが酸化して、酸化型コレステロール(=超悪玉コレステロール)ができます。これが、血管内壁に付着し、盛り上がり、血管の内壁が硬くなる動脈硬化となります。
動脈硬化が進むと、血管が狭くなり詰まってくる状態になると、心臓や脳に十分な酸素などが供給されなくなり、心筋梗塞、心不全や脳梗塞などを引き起こします。この機序についてはそのうち深堀します。
 
time in rangeではできるだけ平坦な血糖値を目指すことが新たに重要な指標として強調されているのは、動脈硬化の観点からも大切なことだと考えられます。
 

2023-11-10 13:21:51

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