悪玉アディポカイン2023年2月号
猪岡内科
糖尿病療養指導士 中村郁恵
深々と冷え込む季節になりました。皆さん暖かくしてお過ごしでしょうか。
さて、前回はアディポカインに善玉と悪玉があり生活習慣の乱れにより肥満となることで悪玉アディポカインが増えてしまうことをお話ししました。
今回は代表的な悪玉アディポカインについて紹介したいと思います。
【代表的な悪玉アディポカイン】
TNFαとIL-1β
炎症を引き起こす作用のある
TNFαと
IL-1βは主に白血球の一種であるマ
クロファージから分泌されていますが、貯まった内臓脂肪の中にある大型脂肪細胞からも分泌されています。
そのため、
肥満となり脂肪細胞が大きくなると悪玉アディポカインが多く作られてしまいます。
●TNFα
TNFαは Tumor Necrosis Factor-αの略で和訳すると腫瘍壊死因子です。
名前の通りに「がん細胞に対して出血性の壊死をさせるように働きかける因子」として同定されました。
「がん細胞を破壊してくれる因子」と聞くといい細胞のような気がしてしまいますが、代表的な悪玉なのでその働きについて述べていきます。
●TNFαと疾患の関連
【TNFαと骨粗しょう症】
骨の代謝は
新しい骨を作る働きのある骨芽細胞の骨形成と
古い骨を壊す働きのある破骨細胞の骨吸収によりバランスを保っています。
TNFαはこの破骨細胞を増やす働きがあり、保っていたバランスが崩れて骨を壊す側に傾くために骨粗しょう症になりやすくなります。
TNFαのほかにも女性ホルモンが減ってくると破骨細胞を止められなくなる働きがあります。
【TNFαと関節リウマチ】
リウマチは自分の免疫が自分を攻撃してしまう、炎症性の自己免疫疾患です。
免疫や炎症に関わるTNFαは、リウマチの患者さんの関節の中でたくさん生産されます。
そして、TNFαは関節の痛みや腫れ、関節破壊を起こします。
それだけでなく、されにほかの炎症を起こす物質(炎症性サイトカインといいます)を作らせて関節リウマチを悪化させる働きもあります。
治療にはこのTNFαを抑える薬が使われています。

【TNFαと糖尿病】
インスリンと糖の取り込みについて
膵臓から分泌されたインスリンは、筋肉や肝臓にあるインスリン受容体に結合します。そして、細胞内のシグナル伝達機構を活性化させて細胞の中に糖を取り込みます。
TNFαはインスリンを細胞の中に取り込むためのインスリンの受容体や、細胞内にあるシグナル伝達機構のGLUT4を抑制します。(図参照)
そのため、インスリンは出ているのにうまく細胞の中に取り込めない状態であるインスリン抵抗性の状態になります。
インスリン抵抗性についてはそう簡単ではないためTNFαと関係のある代表的な例をお示ししました。

トランスロケーション (translocation) とはタンパク質の移動のこと。
例えば、糖輸送体のGLUT4はインスリンの刺激によって細胞内から細胞膜へと移動するトランスロケーションを起こします。
しかし、TNF-αによりその働きは阻害されます。
減量をかんばって肥満から適正体重になると肥大していた大型肥満細胞は小さくなり、悪玉アディポカインの分泌が減ります。
悪玉アディポカインの代表であるTNFαが減ると、インスリン抵抗性の改善が期待されます。
実際に自分のインスリンがきちんと出ている人では減量すること数か月で、お薬をのまなくてもよい状態にまで糖尿病のコントロールができることがあります。
【ストレッチ】
長期的な運動習慣は炎症性のアディポカインを減らし、抗炎症性アディポカインを増やすという結果が出ています。
寒い冬に負けないように室内でできるヨガのポーズを紹介します。

英雄のポーズ
期待できる効果☆
肩こり・腰痛の予防
脚のむくみの予防
歩行時のふらつき・つまずき予防
- イスに浅く腰かけ、骨盤を起こせる程度に脚を大きく開きます。
かかとを軸に、左つま先を横に向けます。左ひざとつま先を同じ方向に向けましょう。
- 両手を腰におき、できるだけ骨盤を起こし、背中をまっすぐにしましょう。
- 息を吸いながら左手を真横に上げ、目線を右側に向けます。余裕がある方は、右手も肩のラインまで上げます。3〜5呼吸キープしましょう。お腹の力を使って上体を保ちます。肩の力は抜いて、リラックスしましょう。
- 息を吐きながら両腕を下ろし、正面を向きます。
反対側も同様に2〜5をおこないます。
寒さに負けずに体を動かして暖めていきましょう。
2023-03-03 11:50:56
アディポカイン