マスクの効果と熱中症 7月号
猪岡内科
糖尿病療養指導士 中村郁恵
気象庁より今年は例年より早く梅雨明けが発表されて、6月末より猛暑が続いています。
マスクを着けて過ごす3度目の夏がやってきました。マスクをつけながらも今年からは宮祭りや花火大会が開催される予定で街には少しずつ活気が戻ってきています。
日本医師会では、混雑していない屋外ではマスクを外すことを容認していますが、そうした考えはまだ受け入れられておらず、なんとなく周囲を気にしながらマスクを着用して歩いていることでしょう。
【マスク?脱マスク?】
「withコロナの状態でマスクを外す時期は日本において来ないと思っている」。日本医師会の会長は4月20日、海外での「脱マスク」の広がりを受け、そう牽制しました。
これに対し、新型コロナ対策担当大臣は同22日、将来的なマスク生活の必要性を「当然議論していかなくてはいけない」との考えを示しました。
これからの季節は、
熱中症のリスクを考えなければならないため、日本でもどのようにして「マスク」と付き合っていくべきか、海外のマスク事情や科学的なエビデンスとともに今の見解をお示したいと思います。
【
「脱マスク」も「いつでもどこでもマスク」?】
それぞれの意見があると思いますが、全面的な「脱マスク」は正解ではなく、「いつでもどこでもマスクを着用」も正解ではないようです。
withコロナのマスク生活で、押さえておくべき基本は3つあります。
- 換気の不十分な屋内や公共交通機関ではマスクを着用する
- 夏は熱中症のリスクが増すため、屋外ではマスク不要
- 赤ちゃんは基本的にマスク不要

日本ではマスク着用は義務ではありませんが、まわりを見てなんとなくマスクが着用義務になっているように感じられます。
特に、換気が十分でない屋内や、密になりやすい公共交通機関では、マスクは有益といわれています。
屋外ではマスクを外してコロナ前の日常を取り戻しつつ、換気が不十分な屋内ではしっかりとマスクをして感染予防に努めることが大切です。
【マスクの効果について、コロナを機に変わった科学界の認識】
マスクの呼吸器感染症から身を守る効果については、新型コロナを機にエビデンスが急速に集積しました。
かつての科学界では、マスクは「感染者がウイルスをばら撒かないためのもの」と認識されており、予防効果はないとされていました。
昨年12月に発表された論文では、飛沫感染だけでなく空気感染も考慮した検証が行われています。
結果は、感染リスクの高い順に以下のとおりです。
・
感染者と非感染者がともにマスクなしで1.5mの距離で会話をした場合
⇒非感染者の
感染リスクは1分半で90%に到達した。
・非感染者のみがサージカルマスクを着用し、
マスクなしの感染者と会話した場合 ⇒
1分以内に感染リスクが生じ、30分で90%に達した。
・両者ともサージカルマスクを着けて会話した場合
⇒
1~2分間は感染リスクが1%未満に保たれた。
時間とともに徐々に感染リスクは上がったが、
20分経過で10%、1時間でも20%未満だった。これは、両者マスクをせず1.5mの距離で終始黙って向き合っていた場合と、ほぼ同等でした。
・両者あるいは非感染者が
サージカルマスクをして2人とも黙っていた場合
⇒
5~10分間は感染リスク1%未満、1時間経っても10%未満に抑えられた。

このような結果より、
感染者のみでなく、非感染者でもマスクを着用することで一定の予防効果があり、「マスクは有効な予防手段となる」というのがマスクに対する世界の共通認識となりました。
一方で、明らかにマスクを外すべき要素も2つあります。
それは、
「熱中症」と「子ども」です。
これからの熱中症シーズンでは、顔や呼気からの熱の放散がマスクで妨げられて内側は高温多湿となります。
マスクを着けていることで体温の調節が難しくなるだけでなく、喉の渇きも感じにくくなり脱水のリスクが高まります。
2020年6月には国も
「屋外で人と2m以上離れているときは、マスクを外しましょう」と熱中症への注意を呼びかけました。
蒸し暑い梅雨や夏はもちろん、急に気温が上がる日のある初夏も熱中症のリスクが増しています。
のどが渇いていなくても定期的な水分補給を心掛けて、木陰などの涼しいところで休憩をとりましょう。
【海外の「脱マスク」の報道では】
欧州では、屋内の着用義務は大部分解除されました。
一方で、公共交通機関や病院など着用の必要性の高い公共の場では、マスクの着用義務を残している国がほとんどです。
例えばフランスやスペイン、イギリスでは、屋内でのマスク着用義務(6歳以上)を原則解除したが、
公共交通機関や医療機関、高齢者施設、薬局では、着用義務が継続となりました。ただし、駅構内やホームなどで周囲の人と1.5mの距離が保てる場合は外せるとのことです。
スペインの新聞社のアンケートでは
「商業・娯楽施設や職場、飲食店でも、感染防止のために自主的にマスク着用を続ける」との回答も6~7割に達したようです。
フランスの市場調査でも、
「公共の場ではマスクを着用する」と回答した人は48%でした。
アメリカではマスクの着用義務化が解除されて、大手航空会社は次々に乗客や乗務員の着用義務を解除する一方で人口の多い地域では感染拡大の予防のためにもマスクの着用を推奨するべきとされています。
【日本で「脱マスク」について】
海外ではもともとマスクへの抵抗感が強い人が多く、それでも科学的エビデンスに基づく着用義務により従ってきましたが、オミクロン株以降の軽症化や、ワクチンや感染による免疫獲得の進展もあり、人々は脱マスクに向けて動き始めたように見受けられます。
日本でのマスクを外せない理由として、「他人の目が気になって、マスクを外せないでいる」といった同調圧力が強いように感じられて例え屋外でもマスクを外すことは勇気がいるように感じられます。
正しい知識を社会で共有して、状況に応じてマスクのオン・オフを適切に切り替えられるような夏になるといいでしょう。
2022-08-09 11:30:11
コロナウイルス