糖尿病薬 GLP1製剤について① 4月号
猪岡内科
糖尿病療養指導士 中村郁恵
今年の2月に、世界初の経口GLP-1受容体作動薬リベルサス(セマグルチド)が発売となりました。
リベルサスは、体内にあるGLP-1というホルモンに似た作用を持ち、血糖値に応じてすい臓からインスリンを分泌させて血糖値を下げる糖尿病治療薬です。
GLP-1受容体作動薬は、いままで注射薬しかなく、経口薬の開発は難しいとされていましたが、ある工夫をすることで実用化に成功しました。
今回は、GLP-1についてとリベルサスの特徴についてまとめていきたいと思います。
【すい臓でのGLP-1の働き】
GLP-1はGlucagon Like Peptide-1(グルカゴン様ペプチド-1)という消化管ホルモンで、小腸や大腸に存在しています。
食事をして、消化管の中に食べ物が入ってくると、小腸からGLP-1が分泌され、その一部は、血液の中を流れてすい臓に運ばれます。
すい臓にたどりついたGLP-1は、すい臓に働きかけて、血糖値を下げるホルモンであるインスリンの分泌を促します。
分泌されたインスリンは、細胞に作用することで血中のブドウ糖を細胞内に取り込み、結果的に血糖値を低下させます。
この仕組みはよくできていて、
食事をしていないとき=血糖値が高くないときにはGLP-1は分泌されず、インスリンも出てきません。
また、注射薬で体内にGLP-1を補っても血糖が正常な場合はインスリンは分泌されません。
そのため、低血糖を起こしにくいという特徴があります。
また、すい臓から血糖値を上げるホルモンであるグルカゴンの分泌を抑制することでも、血糖値を下げる働きを持ちます。
【GLP-1のすい臓以外への作用】
GLP-1はすい臓に働きインスリン分泌を促す以外にも糖代謝に重要な働きをしていることが知られています。

1. 胃運動抑制作用:胃の消化運動を遅らせることで食後血糖値の上昇を抑えます
2. 食欲抑制:中枢神経系に働き、食欲抑制効果を介して体重を減少させます。
インスリンを介しての直接的な血糖コントロール改善効果だけでなく、これらの従来の糖尿病薬にはない体質改善効果ともいうべき働きもあることからGLP-1製剤は注目されています。
【従来は注射薬しかなかった】
いままでGLP-1製剤は、胃から吸収されにくく、また消化酵素により分解されてしまうため、飲み薬で効果を発揮することがとても難しく、注射薬しか発売されていませんでした。
注射薬としては6種類の薬が登場していますが、
当院では
「ビクトーザ」「トリルシティ」を院内薬局にて取り扱いしています。
今回、経口GLP-1製剤として登場した「リベルサス」はGLP-1製剤の中の「オゼンピック」が飲み薬になったお薬になります。
それでは、今までは経口投与に適さなかったGLP-1製剤がどのような過程で経口投与が可能になったのか、吸収されるメカニズムをみてみましょう。
【リベルサスの吸収メカニズム】
リベルサス(セマグルチド)は分子量約4,000のペプチド構造です。

ペプチドを口から飲むとすると、通常は胃内の酸やペプシン等の消化酵素によってバラバラに分解されてしまいます。
これは、食物に含まれるタンパク質やペプチドも胃内でバラバラに分解されてアミノ酸になってから小腸で吸収される過程と同じです。
従って、そのままセマグルチドを経口投与しても胃内で速やかに分解されてしまい、薬効を発揮できません。
そこで、リベルサスの錠剤には吸収を補助するために
サルカプロザートナトリウム(通称
SNAC:スナック)と呼ばれる
吸収促進剤が配合されています。
SNACは水になじむ親水基と油になじむ新油基の両方の性質を持つ「両親媒性」です。
薬に配合されている
セマグルチドと
SNACが胃内に到達すると、セマグルチドにSNACが結合した複合体になります。
複合体は胃酸よりもpHが高いため、セマグルチド周囲の
pHを上昇させ、酸やペプシンによる分解から保護する作用があります。
また、SNACは両親媒性であり、弱酸性の界面活性剤の一種で、緩衝作用も示すためセマグルチドを胃内で単量体にします。
また新油基の働きにより胃の粘膜に効果的に入ることができるため、セマグルチドの
胃壁細胞内への直接吸収を可能にしています。
リベルサスはSNACのおかげで胃の中で分解されにくくなり、速やかに吸収されやすくなったため、飲み薬として飲むことが可能になりました。
次回以降には、飲み方の制限、ほかの薬剤との比較、副作用や薬剤単価などを比較検討します。
現在ビクトーザ、トリルシティ、またはその他のGLP-1製剤の注射薬を使っていて飲み薬が気になる方はもう少々お待ちください。
2022-03-29 11:59:10
糖尿病
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