SGLT2阻害薬の最新情報~腎保護効果~③
猪岡内科
糖尿病療養指導士 中村郁恵
SGLT2阻害薬のまとめ③です。
作用機序など載せていきましたが、今回は“SGLT2阻害薬と低酸素”、値段のことや副作用についてまとめました。
難しい話を除きたい方は2枚目からご覧ください。
【低酸素とSGLT2阻害薬】
下の写真では右と左の腎臓の色を比較していますが、右の腎臓は寒色系の色が多く、これは低酸素を表しています。

腎臓病が進みやすい人は腎臓が低酸素になっていることが分かりました。
その理由として、糖を再吸収するときにはエネルギーが使われますが、そのエネルギーを作る時に酸素が使われます。糖尿病の過労な腎臓では多くのエネルギーと酸素が必要なため、酸欠になっているのではないかという仮説があります。
そして、腎臓が低酸素になると腎症の進行が悪化しやすいという悪循環に陥ります。
現在、SGLT2阻害薬を用いた動物実験では腎臓の低酸素が改善した報告があります。
その理由は上にも書きましたが、SGLT2阻害薬には次のようなことが期待されています。
・尿細管でエネルギーを使う“糖の再吸収”を抑制すること。
・体ではエネルギー効率のいいケトン体が多く使われること。
人間でも腎臓の低酸素を改善して腎症の悪化を防ぐことが見据えられています。
次は良いことばかりでない、副作用と値段のこともきちんと知っておきましょう。
【値段】
新薬ということもあり値段が気になる方も多いと思いますので、SGLT2阻害薬と
糖尿病薬でよく使われるDPP-4阻害薬とメトホルミンの比較をしたいと思います。
・SGLT2阻害薬
薬剤名
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薬価(1錠)
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3割負担
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1割負担
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ジャディアンス10㎎
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198.7円
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59.6円
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19.9円
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カナグル100㎎
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190.5円
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57.2円
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19.5円
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SGLT2阻害薬はすべて1日1錠内服する。
・DPP-4阻害薬
薬剤名
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薬価(1錠)
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3割負担
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1割負担
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エクア50㎎
朝・夕で内服
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75.3円
朝夕で150.6円
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45.2円
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15.1円
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ネシーナ25㎎
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167.3円
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50.2円
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16.7円
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トラゼンタ5㎎
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155.4円
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46.6円
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15.5円
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エクア以外は1日1回内服する。
・SGLT2阻害薬+DPP-4阻害薬配合剤
薬剤名
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薬価(1錠)
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3割負担
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1割負担
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トラディアンス
(トラゼンタ5㎎+ジャディアンス10㎎の配合剤)
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283.3円
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84.5円
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28.3円
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・上の表にある
SGLT2阻害薬とDPP-4阻害薬の配合剤です。
・
2剤を合計すると354円なのでDPP-4阻害薬も併せて飲んでいる方は、トラディアンス配合剤の方が2割くらいお得な計算です。
・メトフォルミン
薬剤名
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薬価(1錠)
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3割負担
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1割負担
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メトグルコ250㎎
通常1500㎎
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9.9円
×6=59.4円
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17.8円
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5.9円
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メトグルコ500㎎
通常1500㎎
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15.4円
×3=46.2円
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13.9円
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4.6円
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・メトグルコは通常1500㎎で内服します。
当院では高齢でない、腎機能が悪くないなど「適応のある人」に最初に使うのを考えます。お腹の副作用が出なければ安くていい薬です。
・1カ月の平均負担額
薬剤名
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3割負担
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1割負担
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SGLT2阻害薬
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1752円
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584円
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DPP-4阻害薬
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1362円
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454円
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SGLT2阻害薬+ DPP-4阻害薬配合剤
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2535円
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849円
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メトホルミン
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475.5円
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158.5円
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薬価を中心に言うと、メトホルミンを内服して副作用なければとてもいい薬です
※
薬剤は値段以外に患者さんの年齢や腎機能、肝機能、治療のステップ、飲み合わせを考えて医師が患者様にあったものを選択します。
例えばインスリン抵抗性のありそうな2型糖尿病の方は最初にメトフォルミンを候補にします。食後の高血糖が目立つやせ型の方にはDPP-4阻害薬を候補にします。
腎臓の保護が必要な人や肥満の人は治療のステップでSGLT2阻害薬を考えます。
食生活の改善や運動をふやしてもなお、血糖値が悪化する場合は他の薬と併用していきます。
血糖値が悪くならないように食生活と運動を見直していくことが一番の節約ですね。
そして余談ですが、患者様から頂いた薬価分のお金はすべて病院から製薬会社へと支払われます。
そのため、病院は高い薬を売ると儲かる仕組みではなく、たくさんの患者様を診察した“診察料“でなり立っています。
SGLT2阻害薬は新薬なので高価ですが、今回の学会で腎臓を保護していることや体重が減ることなど“お値段以上”といえる効果があったのでこれを患者様に知ってもらうために、この記事をまとめました。
【SGLT2阻害薬の副作用】
・脱水について
糖が排泄されるときに、より多くの水分が尿として出ていくため、
脱水に注意が必要です。
その分、
糖分の入っていない水やお茶を多めに水分をとることが大切です。
下痢や嘔吐をくり返したり、食欲不振で食事や水分が取れないことが続くときは、医師に相談しお薬をいったん中止します。
高齢の方・お薬の飲み始めの時期・夏場は特に意識して水分補給をお願いします。
特に高齢者で利尿剤(例えば:ラシックス・ナトリックス)を飲んでいる方は注意が必要なので、他院でもらっている薬があれば必ずお薬手帳を見せてください。
・尿路感染症・性器感染症について
特に女性で
膀胱炎などの尿路感染症、陰部のかゆみや炎症などの性器感染症が起こる可能性があります。体を清潔に保ち、尿や体に異常を感じたらすぐ医師に相談してください。
・低血糖
SGLT2阻害薬のみで低血糖はおきにくい薬ですが、
インスリンや他の薬剤との併用で低血糖が起こる可能性があります。低血糖の症状が見られたら、糖分の入っている飴、ジュースを飲んで症状が治まるまで休んでください。
・体重が減ります。
これは、副作用というか作用を期待して内服することが多いですが、余ったエネルギーを外に出すので、おおむね1-2㎏体重が減るといわれています。
「やせる薬を飲んでるから」といって、たくさん食べてしまっては意味がありません。
食事・運動・お薬とバランス良く治療していくことが大切です。
・発疹、吐き気、嘔吐、腹痛、異常な口の渇き、体の疲労感、呼吸困難などの症状がみられる場合はすぐ医師に相談してください。
・食事がとれないほどの風邪や高熱で寝込んでいるとき、下痢や嘔吐をくり返しているときなど“シックデイ”の時には一度薬を中断します。このような病気の時には医師に相談してください。
2019-07-23 19:38:24
糖尿病の薬