SGLT2阻害薬の最新情報~腎保護効果~②
猪岡内科
糖尿病療養指導士 中村郁恵
前回に続き
欧米の学会で発表された最新の糖尿病薬“SGLT2阻害薬”の研究結果では、
薬の作用で糖尿病患者さんの腎機能をみる指標である“eGFRの低下”が改善したという腎臓にとって良い結果でした。
この効果は単純なものではなく、たくさんの仕組みが連なって良い結果となっています。
今回は、少しディープな生化学のお話しになりますが、
現在解明されている“SGLT2阻害薬への期待”とその仕組みの一部を紹介します。
・今回はケトンの話
【SGLT2阻害薬とケトン体】
SGLT2阻害薬で糖分が尿に捨てられると、体はブドウ糖不足を感じます。エネルギーを確保しようと肝臓ではケトンがたくさん作られます。
このときに脂肪肝などの本来であれば脂肪がつくべきでない“異所性脂肪”などからもケトンがつくられます。

【エネルギーの話】
人間の身体は、体温を保ったり、筋肉を動かしたり、休んでいるときでもエネルギー(ATP)を消費して生きています。
そのエネルギー(ATP)は、食事からとったブドウ糖、次いで体に蓄えられている脂肪酸、筋肉に含まれるたんぱく質からつくられます。

このエネルギー効率について考えてみます。
【エネルギーの効率】
身体の細胞の中のミトコンドリアではブドウ糖や脂肪酸からエネルギーのATPが作られます。
この時に酸素を消費して作られますが、脂肪酸とブドウ糖では使う酸素の量が異なり、
酸素1分子あたりにつき脂肪酸(2.33分子)よりもブドウ糖(2.58分子)のほうが多く効率的に作られます。

しかし、糖尿病でインスリン抵抗性が高い状態では体でブドウ糖が充分に利用できずに、エネルギー効率の悪い脂肪酸が多く使われています。

そこで、第三のエネルギーとしてケトン体が登場します。
【ケトン体とは】
ケトン体は糖質が足らないときに体のエネルギー源になる物質です。
体は糖分不足を感じると「糖エネルギーをメインに使う」から、「脂肪酸エネルギーを使う」システムにシフトし、体内の中性脂肪を分解してエネルギーをつくり出します。
脂肪酸エネルギーでは、脂肪細胞で中性脂肪が分解されて血液に入り、全身を巡りながらエネルギーとして使用されます。
その中で肝臓に流れ着いたものは、他の臓器でもエネルギーとして使えるように脂肪酸が分解されて一部がケトン体になります。これがケトン体エネルギーです。
特にケトン体をどんどん消費するのが脳の神経細胞、心臓、腎臓です。
脳に行くときには血液脳関門という通り道があり、脂肪酸はそこを通れないため、糖質がなくなったらケトンが脳のエネルギー源になります。
そのほか、ケトン体は水に溶けやすい水溶性なので、特別なたんぱく質の助けがなくても心臓や筋肉や腎臓などに効率よく運ばれます。
このように脂質と比べて脳のエネルギーにもなり、心臓や腎臓でも使われやすいため、糖に代わる万能なエネルギーとして重宝されています。
【ケトン体の効率の良さ】
ケトン体は酸素1分子から2.50分子のATPをつくり出すことができ、脂肪酸(2.33分子)よりも効率が良いとされています。
そして、炭素2単位からケトン体では243.6kcalを得ることができるのに対し、同じ炭素2単位からブドウ糖では223.6kcalしか得られないので、ブドウ糖よりも代謝上有利とされています。(S,Mudaliarらの文献より)

つまり理論上、ケトン体は脂肪酸やブドウ糖よりも酸素・炭素の消費が少なく、効率の良いエネルギーとして使われます。
さきほど書いた“理論上効率のいいエネルギー”とされているケトン体が多く使われることで、体は酸素を節約できます。
“SGLT2阻害薬の酸素の節約”ということではもう一つ。
前回の復習になりますが“SGLT2阻害薬の最新情報①“で書いたように
尿細管で糖とNaClを“再吸収”するときに働いているポンプはエネルギー(ATP)を使って稼働しています。
SGLT2阻害薬はその“再吸収”を抑えるので、エネルギーや酸素消費の節約につながります。
このようにSGLT2阻害薬は血糖値を下げるだけでなく、エネルギーの節約(酸素の節約も)をしていますが
“酸素”に観点を当てた研究があります。
次回は知っておきたい、SGLT2阻害薬の値段と副作用を書きますので、その時に一緒に載せます。
2019-05-21 11:30:39
糖尿病の薬