SGLT2阻害薬の最新情報~腎保護効果~①
猪岡内科
糖尿病療養指導士 中村郁恵
まだ青森は雪が降り積もっている3月の初めに、糖尿病の進歩という学会に参加してきました。
そこで聞いた新しい話をまとめていきたいと思います。
【糖尿病治療薬の優先順位が変わった!】
2018年、アメリカや欧州の糖尿病学会で薬のアルゴリズムが改訂されました。
いままでは、7種類ある糖尿病治療薬の中でメトホルミン(商品名:メトグルコ)が第一選択薬で、第二選択としては、他の薬剤が並列に並んで、低血糖・体重・費用をもとに患者さんごとに選ぶような仕組みでした。

今回の改訂では、メトホルミン(商品名:メトグルコ)が第一選択薬というのは変わりありませんが、第二選択薬のところで大きく変わりました。
腎臓病や心疾患のリスクがある方、体重減量が必要な患者さんには優先してSGLT2阻害薬(次いでGLP1製剤→注射薬です)を選ぶように変わりました。
いままで並列だった第二選択薬ですが、SGLT2阻害薬(次いでGLP1製剤)が群を抜いて急浮上しているのは、心疾患や腎臓に対する有効性が証明されているからです。
今回は学会で聞いたSGLT2阻害薬の話を書きますが、最初にSGLT2阻害薬が作用する腎臓の仕組みについて書きたいと思います。
【腎臓の働き】
腎臓は血液が運んできた体の老化物をろ過して尿として外に排泄します。
ろ過を行う腎臓の糸球体は網戸のようになっており、タンパク質や血球などの大きいものはその網目を通ることが出来ません。
水や糖分、電解質(ミネラル)、老廃物は糸球体の網戸を一度くぐり尿のもととなりますが、体に必要な成分はあとで“再吸収”されます。
再吸収とは、1度捨てたけれども体に必要なので取り戻すようなイメージです。
それは腎臓のネフロンで行われており、労力=エネルギーが必要とされています。

【糖尿病の腎臓は過労気味!?】
前述のとおり、尿を作る過程で糖分も老廃物とともに血液から尿細管に流れ込みます。
しかし、糖はエネルギーのもとになるため体に必要な成分です。
糖尿病の方は“血糖値が高い”と言われているように血液中や尿細管にも糖分が多く含まれます。
そのため、糖尿病でない人と比べてたくさんの糖を再吸収しようとし“糖の再吸収ポンプ部門=SGLT2”が沢山必要になって現れます。
そして、その仕事量は多く過労な工場のような状態になっています。

人間社会も“過労”や“ブラック企業”が問題になっていますが、腎臓も同じです。
腎臓の仕事量が多く、過労な状態が続くと尿を作る1つの工場(=ネフロンといいます)はストレスがかかり壊れてしまします。
それでも仕事量は変わらないため、残りのネフロンに負荷がかかりまた1つのネフロンが壊れて腎臓の工場の稼働率が落ちていきます。
これを医学的にeGFR=糸球体濾過率と表し、腎臓病を診るときの指標になります。
このように腎症が進行していきます。
過労な状態の腎臓の“糖の再吸収ポンプ部門”の仕事量を抑える作用の薬がSGLT2阻害薬です。
【SGLT2阻害薬】
2014年に発売された“SGLT2阻害薬”は、糖尿病で肥満の患者さんが血糖値や体重をコントロールするために
“尿の中にエネルギーである糖を出させることで、血糖値を調整するお薬”として処方されています。
「血管の中に糖がありすぎるなら、その余分な糖を尿に出してしまおう」という今までにない薬です。その作用機序や、発売から5年間の研究結果を載せます。

【SGLT2阻害薬の作用機序】
SGLT2阻害薬の作用機序は、尿細管で糖の再吸収をしているSGLT2を阻害します。
その結果、糖は再吸収されずに尿にはいわゆる“尿糖”として排泄されて、血糖値を下げる働きがあります。
糖の再吸収が抑えられるため過労工場だったポンプたちの仕事量は通常に戻り、ストレスがなくなります。その結果として腎臓を保護することに繋がります。
実際の研究結果ではSGLT2を飲んでる群では、腎臓病がどのくらい進んでいるかの程度をみるアルブミン尿/たんぱく尿、eGFRの低下率が改善したという結果があります。

上の表は、SGLT2阻害薬を内服している人、そうでない人の腎機能をみたものです。SGLT2阻害薬を飲んでいる群(青色)は内服を始めてから過剰濾過が治まり一見腎機能が下がっているように見えますが、長い目で見るとグラフが右肩上がりになり、腎機能が改善していることがわかります。

SGLT2阻害薬と腎臓の保護効果について学会で聞いたことは
②に続きます
2019-05-21 11:13:50
糖尿病の薬