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善玉アディポカイン① 糖尿用療養指導士 中村郁恵 前回は脂肪細胞から産生されるアディポカインが、肥満をはじめとする動脈硬化や糖尿病などの生活習慣病に関わっています。そして、アディポカインは善玉と悪玉があり、現在600種類で作用は多岐にわたるということを書きました。 今回はそのなかでも代表的な善玉のアディポネクチンを紹介したいと思います。 <レプチン> レプチンは 脂肪細胞や消化管から産生されるペプチドホルモンで、アディポカイン研究に力が入ってきた頃の1994年に同定されて、ギリシャ語で『痩せる』を意味するλεπτός (leptos) から命名されました。 レプチンの代表的な働きは、消化管や血液などの栄養情報を脳の視床下部にある食欲制 御中枢に伝えて、ヒトに満腹感を感じさせます。 その結果、「食べたい」という欲求を抑えられます。 そして、レプチンは体脂肪率と正の相関があります。 脂肪が増えるとレプチンの分泌量も増えて、ある程度の脂肪が蓄積すると、レプチンの血中濃度は増えて体が肥満していることを脳に伝える「肥満信号」の役目を果たします。 しかし、レプチンには強力な食欲抑制効果があるのにも関わらず、肥満が進むと食欲が強くなり、さらに肥満になります。 それは、肥満患者の多くがレプチンに対する反応性が鈍くなる「レプチン抵抗性」となっ て十分な機能が発揮できていないためです。 血中のレプチン濃度は十分あるのに、脳内のレプチン量が少ないということが確認されているので、肥満のレベルが一定を超えるとレプチンが脳に届きにくくなるようです。 さきほども書いたように、レプチンの働きで特徴的なのは食欲を抑えることでした。 そして肥満患者さんはレプチン抵抗性があるために食欲も抑えられておらず、満腹感を感 じにくいようです。 糖尿病でもインスリン抵抗性という現象がありますね。 レプチンやインスリンなど、モノは分泌されているのに反応性がなくなるという現象が病態に関与するのはとても興味深いことです。 現在、レプチンを抗肥満薬として用いることができるようにするために、レプチン抵抗性を解除するさまざまな試みがなされています。 <アディポネクチン> 最近の健康番組などでは「やせホルモン」「長寿ホルモン」などといわれているアディポネクチンですが、一度は耳にしたことがあるでしょうか。 アディポネクチンは1995年に同定された脂肪細胞から最も多く分泌されるアディポカインです。アディポとは「脂肪」ネクチンは「くっつく、接着」という意味で、血管の壁などにくっついて修復するという性質があることからアディポネクチンと名付けられました。 動脈硬化は、炎症反応を起こしながら血管の壁が厚くなるのですが、アディポネクチンは その名前の由来のとおり、炎症が起きた血管の壁を修復して動脈硬化を防ぐ働きをしています。 動脈硬化の成り立ちについては、そのうち詳しく特集します。 そのほかにも肥満ではない状態で多く存在する「小型の脂肪細胞」から分泌されて、インスリン感受性を高めて糖の代謝を促進させます。 実際、2型糖尿病でアディポネクチンの分泌が少なくインスリン抵抗性の状態にアディポネクチンを補充すると、糖尿病が改善されたという研究もあります。 最近では血糖値の高低により、食欲を亢進したり抑制したり切り替わる機能についても注目されています。 その他にも抗肥満、抗炎症作用、血管をひろげる働きを持つため血圧上昇を抑制するなど沢山の働きがあります。 このように体に良い作用をもたらす良いアディポカインです。 しかし、内臓脂肪が蓄積して脂肪細胞が肥大化すると、その分泌量が低下します。 その結果、糖尿病や高血圧が誘導されます。 実際に肥満、糖尿病などの患者さんでは血中アディポネクチン値が低いという結果が出ています。 また、長生きしている人は血中アディポネクチン値が高いという報告もあります。 こうしたことから動脈硬化の治療薬として期待されていて、開発がすすんでいるようです。
2018-05-15 22:18:03
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