猪岡内科コラム
新しい糖尿病薬 マンジャロ
2025年10月
猪岡内科
糖尿病療養指導士 中村郁恵
糖尿病の治療は、この10年ほどで大きく進歩してきました。
たとえば、飲み薬の種類が増えたり、週に1回の注射薬(GLP-1製剤)が登場して、血糖値だけでなく体重や心臓・腎臓にも良い影響があることがわかってきています。
生活習慣の工夫は治療の基本ですが、それだけでは血糖値のコントロールがむずかしいこともあります。
そんなときに役立つ薬の選択肢が広がっており、その中でも最近「マンジャロ」という新しい薬が登場して注目されています。
今回は、このマンジャロについて、従来の薬との違いや働き方を、わかりやすくご紹介していきます。
【マンジャロとは】
マンジャロとは新しく発売された糖尿病の治療薬で、
週に1回、皮下に自己注射を行います。
インスリンの「ヒューマログ」でもおなじみのアメリカにあるイーライリリー社によって開発された「
インクレチン」といわれる
GIPとGLP-1が両方含まれている薬です。
日本国内では2型糖尿病に対する治療薬として2023年に承認された新しい薬剤ですが、特に肥満傾向があり、従来の薬で血糖管理が思わしくない方に適しています。

【従来の糖尿病薬との違い】
従来のGLP-1製剤といわれる糖尿病治療薬は「
GLP-1」のみに働きかけていました。
GLP-1受容体作動薬である「ビクトーザ」「オゼンピック」「リベルサス」は
血糖値を下げる薬としてスタートしましたが、今では血糖改善に加えて
心臓・腎臓の保護もあることから[
additional benefits 追加効果] が期待できる薬としての地位を確立しています。
そのため、2型糖尿病の患者さんの
長期的な健康にも役に立っています。

そして、新薬である「マンジャロ」は「
GLP-1」のみでなく「
GIP」にも作用することが特徴です。この2つの作用により、
より強力な体重減少と
血糖値の改善を見せて驚くほどの効果を見せています。
GLP-1と
GIPは合わせて
インクレチンと呼ばれています。
【インクレチンとは】
インクレチンは、
食べ物を消化する腸から出るホルモンです。
食事をしたり、糖分のある飲み物を口にすると腸からインクレチンが分泌されて、血糖値を下げる働きのあるインスリンを出す膵臓のβ細胞に「そろそろインスリン出して」と伝えます。
食べるサインによって体が自然に血糖をコントロールできるように助けてくれるような仕組みです。

インクレチンとして今認められているのは
「
GLP-1=グルカゴン様ペプチド
」と
「
GIP=グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド
」の2つです。
【GLP-1とGIPって、なにが違うの?】
GLP-1とGIPは、どちらも「インクレチン」と呼ばれるホルモンです。
インクレチンは
食事をとったときに小腸から分泌されるホルモンで、膵臓に「インスリンを出して!」と伝え、食後の血糖値の上昇を抑える大切な役割を持っています。
● GLP-1の特徴
・膵臓のβ細胞に働き、
インスリン分泌を促す
・膵臓のα細胞に作用し、
グルカゴン(血糖を上げるホルモン)を抑える
・胃の動きをゆっくりにして、食後の血糖上昇を抑える
・脳の食欲中枢に働き、
食欲を抑える
そのため、ビクトーザ、オゼンピック、リベルサスなどのGLP-1製剤は、
血糖値を下げるだけでなく、体重減少効果も期待されています。
多くの臨床試験で、HbA1cを1〜1.5%ほど下げ、体重も3〜5kg減ることが確認されています。
●GIPの特徴
・同じく膵臓のβ細胞に作用して
インスリン分泌を促進
・脂肪細胞に働き、脂肪をためこむ
・骨や脳にも作用し、エネルギー代謝を調節する働きの可能性
・GIP
単体だと食欲を増進させるがGLPと合わさると食欲減退に働きかける
ただし、過去の研究では、2型糖尿病の人ではGIPのインスリン分泌促進効果が
かなり低下していることが分かっており、
「効果が弱い」「肥満を助長する可能性がある」として、長い間、
GLP-1ほどは研究されてきませんでした。
(参考:Nauck et al., Diabetologia. 1993; 36(8): 741–744)
【なぜGIPが今になって見直されているのか?】
近年の研究で、
GLP-1とGIPを組み合わせると、それぞれの効果が補い合い、より大きな効果が出ることがわかってきました。
GIP単体だと食欲増進させる働きがありますが、GLP1製剤と合わせることで食欲が抑えられます。
とくに、マンジャロの研究(SURPASSシリーズ)では、以下のような結果が報告されています
項目
|
GLP-1製剤
|
GLP-1+GIP薬
|
HbA1cの平均改善値
|
約 -1.9%
|
約 -2.6%
|
体重の平均減少量
|
約 -6kg
|
約 -11kg
|
吐き気などの副作用
|
ややあり
|
GIPの影響で軽減される傾向
|
・血糖値の改善
GLP-1製剤でもHbA1cは下がりますが、GLP-1+GIP薬ではさらに大きく、平均
約2.6%低下しました。(GLP-1製剤は
約1.9%)。
・体重減少効果
GLP-1製剤で
約6kg減少、GLP-1+GIP薬では
約11kg減少と効果が大きく示されました。
・副作用の違い
GLP-1製剤で多い吐き気は、GLP-1+GIP薬では GIPの作用で軽くなる傾向です。
このように、GIPはGLP-1と組み合わせることで、血糖値・体重・副作用の面でより良い効果を示すことがわかってきました。
かつてGIPは「効きにくい」「太りやすい」と思われていましたが、マンジャロの成果により “GLP-1と一緒なら有効” という新しい評価が広がっています。
【まとめ】
マンジャロは、GLP-1とGIPという2つのホルモンの働きを活かした新しい糖尿病治療薬で週1回の注射で、血糖値の改善と体重減少の両方に効果が期待できます。治療法は一人ひとりに合わせて選ぶことが大切ですので、気になる方は主治医にご相談ください。
2025-10-29 11:24:16
転ばぬ先のやわらか運動! ~柔軟性・バランスのすすめ~
2025年9月
猪岡内科
糖尿病療養指導士 中村郁恵
「最近、ちょっとした段差でつまずくことが増えた気がする」と感じたことはありませんか?
年齢を重ねると筋力や柔軟性、バランス感覚が少しずつ低下していくのは自然なことですが、
糖尿病がある方はそれがより進みやすいといわれています。
特に注意が必要なのが、糖尿病の三大合併症のひとつである「
神経障害」です。
足のしびれや感覚の低下があると、ちょっとした段差にも気づきにくくつまずきや転倒のリスクが高くなります。
そのため、アメリカの糖尿病学会(ADA=American Diabetes Association)
でも
「転ばない体づくり」のために「柔軟性・バランス力を高める運動」の継続が勧められています。
【ADAの運動5本柱~2022 ADAスタンダードより~】
① 有酸素運動(Aerobic Exercise)
→ 中~強度の運動を週150分以上(例:ウォーキング、サイクリングなど)
② 筋力トレーニング(Resistance Exercise)
→ 週2~3回、大筋群の推奨(太もも・お尻・胸・背中など)
③ 座りすぎを避ける(Reduce Sedentary Time)
→ 30分に1回は体を動かすことが望ましい
④ 柔軟性運動(Flexibility Exercise)
⑤ バランストレーニング(Balance Exercise)

なかでも「④柔軟運動 ⑤バランス運動」は運動習慣のない方、ご高齢の方にとって始めやすく安全性の高い運動として推奨されています。
●柔軟性運動(Flexibility Exercise)について
関節や筋肉が硬くなると、日常生活での動作が制限されたり、つまずき・転倒リスクが高まることがあります。
柔軟性を保つことで、関節の可動域が広がり、階段の昇降・洗濯物干し・しゃがむ動作などがスムーズになります。
また、筋肉がかたくなっていると関節に負担がかかりやすく、膝や腰の痛みの原因にもなります。ストレッチをすることにより痛みの緩和やケガの予防も期待できます。
柔軟運動をウォーミングアップとして取り入れることで、運動中のケガを防ぐ効果もあり、他の運動(有酸素や筋トレ)との組み合わせによって血糖コントロールの改善にもつながると報告されています。(ADA 2022, ACSM 2021より)。
推奨頻度:週2~3回
おすすめのタイミング:お風呂上がりなど、筋肉が温まっているとき
●バランストレーニング(Balance Exercise)について
バランス能力とは、身体の重心をコントロールし、安定した姿勢を保つ力のことです。
この力が低下すると、ふらつきや転倒が起こりやすくなります。
高齢になると、加齢による筋力の低下に加えて、
糖尿病による神経障害や足の感覚障害があることで、よりバランスを崩しやすくなります。
実際に、
足底の感覚が鈍くなっている糖尿病患者では、転倒リスクが2倍近くなるという報告もあります(Diabetes Care, 2019)。
バランス運動を行うことで、
筋肉や体幹が鍛えられ、転倒予防に役立つだけでなく、他の運動(筋トレや有酸素運動)をより安全に行うことにもつながります。
推奨頻度:週2~3回
室内の手すりやテーブル、いすの近くで行いましょう。
【柔軟運動とバランス運動の相乗効果】
この2つの運動を組み合わせることで、
「転びにくい体づくり」「日常生活の動作のしやすさ」「他の運動効果の向上」
といった
複数のメリットが得られます。
特に、
股関節の柔軟性が高まると歩幅が広がり、有酸素運動の効率がアップしたり、
バランス力がつくとスクワットや筋トレも安定して行いやすくなります。
【
家でもできる!やさしい柔軟&バランス運動】
▶ 柔軟運動(週2〜3回)
①首回し・肩回し
方法→ 肩に手をおいて、肘で大きく円をえがく
ように回す。
前まわし・後ろ回しを各5回ずつ
②背中の丸め伸ばし運動
方法→ ①椅子に座って背中を丸めておへそを
見る(息を吐く)
②背中をそらして胸を開く(息を吸う)
呼吸に合わせてゆっくり5回繰り返す。
③開脚ストレッチ
方法→ 床に座って軽く足を開く。
背筋を伸ばして、息を吐きながら
体を前に倒す。
痛みがなければ20秒キープしましょう。
お尻の下に座布団を敷くと姿勢が安定しやすいです。
▶ バランス運動(各30秒〜1分、週2〜3回)
①~③までのトレーニングは、靴下は脱いだ状態で安全な場所で行います。
①片足立ち(壁やイスに手を添えて):体幹強化
方法→ 壁や椅子の背に手を添えて立ちます。
呼吸を止めずに左右30秒ずつキープしましょう。
慣れてきたら、手を片手→手放しへと
ステップアップしましょう。
②かかと歩き・つま先歩き:足の筋力アップ
方法→ 5~10歩ずつ前後に歩きます。
場所は廊下や壁沿いがおすすめです。
③クッションの上で立つ
方法→ 少し厚みのあるクッションの上に
両足で立ちます。
滑りにくい素材のものを選びましょう。
最初は両手を椅子や壁に手を添えて、
慣れてきたら片手、手放しでバランスを
取ります。
【まとめ】
柔軟運動とバランス運動は、
「 転倒予防」「運動効果の向上」「血糖改善作用」
といった面で非常に重要な役割を担っています。
“室内でできる” “短時間でできる”ということもこの時期の大きなメリットなので、運動の習慣がない方は、柔軟運動・バランス運動から始めてみましょう。
2025-09-12 10:12:18
大きな筋肉を動かそう! ~血糖コントロールのカギは筋肉~
2025年8月
猪岡内科
糖尿病療養指導士 中村郁恵
アメリカ糖尿病学会(ADA=American Diabetes Association)では、
「週に150分の有酸素運動」 「座りっぱなしを避けて30分に一度は動く」
を推奨していますが、加えて「大きな筋肉を意識的に使うこと」も推奨されています。
先月に続き運動特集していきたいと思います。
【クイズ 体の中で一番大きい筋肉はどちらでしょうか?】
① 腹筋
② 太ももの筋肉
答えは下にスクロール
【大きい筋肉5つ】
体の中で特に大きい筋肉と主な動きをまとめてみました。
筋肉の名前
|
場所
|
主な動き
|
①大腿四頭筋
|
太ももの前
|
ひざを伸ばす
立つ、歩く
階段を上がる
|
②大臀筋
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おしり
|
立ち上がる
股関節を伸ばす
歩く、ジャンプ
|
③広背筋
|
背中~わき腹
|
ものを引く
荷物を抱える
腕を伸ばす
|
④大胸筋
|
胸
|
腕を前に出す、押す
荷物を抱える
|
⑤ハムストリングス
|
太ももの裏
|
ひざを曲げる、股関節を伸ばす
|

ということで クイズの答えは【②の太ももの筋肉】でした。
腹筋は、面積的には大きくありませんが、姿勢を維持したり、起き上がったり、重いものを持ち上げたり、体幹を安定させる“重要な筋肉”です。
こちらも一緒に鍛えていきましょう。
【なぜ“大きな筋肉”を動かすと血糖値は下がるのか?】
ポイントは筋肉内で働く「ブドウ糖の通り道のような“GLUT4”」と、「エネルギーを作る“ミトコンドリア”」です。
●糖をたくさん使う筋肉
体の中で最も多くブドウ糖を消費するのは“筋肉”で、その割合は7~80%と言われています。
“糖”は筋肉にある「GLUT4(グルコース輸送体)」という糖の通り道のようなものを通ってミトコンドリアへ送られます。そして、脂肪や酸素と一緒にエネルギーへと変わっていきます。
● 運動すると「糖の通り道」が活発に!
運動をすると、このGLUT4の数が増えたり、働きが活発になったりしますが、この仕組みはインスリンとは別の経路(インスリン非依存性経路)で動くため、インスリンの効きが悪くなっている糖尿病の人でも運動をすることで血糖値が下がります。
特に、大きい筋肉ほど筋肉量も多いため糖もたくさん吸収されてより血糖値が下がりやすくなります。
●ミトコンドリアの力
取り込んだ糖を酸素や脂肪とともにエネルギーに変えるのは筋肉の中にあるミトコンドリアです。
継続して運動をするとミトコンドリアでは
①数が増える(ミトコンドリア新生)
②燃焼効率が高まる(働きが良くなる)
という2つの変化が起こり、運動直後~数日間の間、糖を効率よくエネルギーへ変える働きをします。
そして、糖尿病では、高血糖や運動不足によりミトコンドリアの働きが弱まる方がいますが、「大きな筋肉を動かすこと」でこの働きを良くすることができます。
このように筋肉を鍛えることは、血糖を一時的に下げる効果だけでなく、休んでいるときでも糖を使いやすい体づくり(=基礎代謝が高い体)につながります。
【今日からできること(大筋群を使ったエクササイズ)】
頻度:週に2、3回が目安
● 椅子スクワット(太もも・お尻)
椅子に浅く座って、立ち上がる、座る動作を繰り返す。10回×2セット
● 階段の上り下り(太もも・お尻)
1階分を上り下り×3回
● 背伸びプッシュ(背中・体幹)
壁に手をつけ、背筋を伸ばして壁に向かって腕立て伏せ
10回×2セット
つま先立ちで背伸びも加えて体幹も鍛えます。
腕立て伏せよりもグンと運動量が減るので取り入れやすいです。
● その場足踏み+腕ふり(太もも・ふくらはぎ・体幹)
その場で足踏み30秒×3回/日
大げさに腕を振って足踏みしてみましょう。
【宇都宮市で利用できる施設の案内】
①宇都宮市のブレックスアリーナでは、1回430円(6回2150円)でトレーニング室を利用することができます。
有酸素運動、筋肉トレーニング、ストレッチなどできるので、暑くて外に出られないときは気軽に室内の利用してみてくださいね。

② 運動プログラムに参加したいという時には
「宇都宮市スポーツ振興財団」の冊子にエアロビクス、ヨガ、ピラティスのクラスがあります。
ストレッチやウォーキングで健康づくりをする「いきいきスポーツクラブ」もおすすめです。

詳細については
「宇都宮スポーツナビ」で検索、または「028-663-1611」に問い合わせしてみてくださいね。
【まとめ】
・大きな筋肉を意識して使うことで効率よく血糖値を下げることができ、運動を継続することで筋肉量が増えて基礎代謝も上がります。
・太もも、背中、お尻などの大きな筋肉を意識して「週に2,3回」を目安に筋肉トレーニングをしてみましょう。
2025-09-12 09:58:01
30分に一度は動こう! ~運動のすすめ~
2025年7月
猪岡内科
糖尿病療養指導士 中村郁恵
【座りっぱなしとその健康リスク
】
日本人は1日に約7~8時間を“座って”過ごしているといわれています。
しかし、その“座りっぱなし”の時間が、糖尿病、心血管疾患、そして、認知症リスクを高める可能性があります。
アメリカ糖尿病学会(ADA:American Diabetes Association)では先月に特集した
「週に150分の運動を推奨すること」に加えて、
「長く座りすぎないように30分に一度は体を動かすこと」を推奨しています。
これは、こまめに体を動かすことで食後の血糖値の上昇を緩やかにしたり、インスリンの効きをよくするという研究結果が増えてきたことが背景にあります。
暑くなってきた今月は
「室内で30分に一度体を動かすこと」をテーマにしようと思います。

【少し前までは】
2015年、ADAの『糖尿病ケア基準(Standards of Medical Care in Diabetes)』では
「90分に一度は座りっぱなしをやめ、軽く動くこと」を推奨しました。
デスクワーク中心の生活で長時間座る人ほど、2型糖尿病や心血管疾患のリスクが高まることがわかってきましたが、座りっぱなしをやめて
数分間の軽い歩行を促したところ食後の血糖値やインスリンの反応が良くなったという研究が背景にありました。
【近年の研究では】
さらに研究が進み、アメリカ糖尿病学会(ADA)の2022年版『糖尿病ケア基準(Standards of Care in Diabetes)』では、
「30分ごとに座りっぱなしを中断すること」が新たに推奨されました。
このきっかけとなった代表的な研究は、Dempseyらによる2016年の研究です。
Dempseyらの2016年研究(Diabetes Care)
2型糖尿病の患者さんを対象に、
30分ごとに3分間の軽いウォーキング群
30分ごとに3分間の簡単な筋肉トレーニングをした群
8時間連続で座り続ける群
の3グループにわけて1日の血糖値の変動を比較しました。
結果は、
①②の30分に一度体を動かした群で、血糖値とインスリン反応が有意に改善しました。さらに、②の筋トレ群では、中性脂肪も低下しました。
【ここまでのまとめ】
アメリカの糖尿病学会ADAで
「Break up sedentary time=座りっぱなしの時間をこまめに中断する」ことが推奨されて、徐々に各国でも推奨されてきました。
そして、その頻度は
「dose-response relationship=用量反応関係」にあります。
今までの「90分に一度」よりも、新たな推奨基準の
「30分に一度の軽い運動をする」方が血糖値の改善により効果的なため、このように推奨基準が変わりました。
なぜこまめな運動をすると糖が消費されるのでしょうか。
【筋肉と糖の取り込み】
私たちの体でもっとも多くの“糖”を使っているのは、
筋肉です。じっと座っていると、筋肉はあまり動かず、血液中の糖はなかなか使われません。でも、少し立ち上がって歩いたり、スクワットを数回するだけでも、筋肉は
「糖を取り込んで使おう」と働き始めます。
このとき筋肉の中では、糖が
「GLUT4(グルコース輸送体)」という、通り道のようなものを通り細胞に入ってミトコンドリアに送られます。
GLUT4は、普段はインスリンの刺激で働きますが、運動による筋肉の収縮でも刺激されて、糖を取り込みやすくなります。
ミトコンドリアでは糖や脂肪を酸素と一緒に燃やしてたくさんの
エネルギーが作られています。
継続して運動することで、さらにミトコンドリアの数が増えて、活発に働き、より多くの糖が消費されるようになります。
運動をすると筋肉の中では
「糖はGLUT4により取り込まれ→ミトコンドリアでエネルギーに変える」という流れが数分間のうちに始まります。
その結果、血液中の糖が効率よく使われるのです。
このしくみは「インスリンに頼らない糖の取り込み」とも呼ばれ、食後の血糖値を下げるのにとても効果的です。
つぎに、運動の実践と習慣化できる方法について考えてみたいと思います。
【家の中でできるながら運動】
30分に数分間、体を動かすために、家の中で手軽に取り組める運動をいくつかご紹介します。
・椅子スクワット
・かかと上げ
・肩ストレッチ
・立ち上がってその場で足踏み
・背伸び&深呼吸
・腰ひねりストレッチ
・階段の上り下り
【座りっぱなしになる時間を思い出してみましょう】
まずは、普段の生活の中で30分以上座りっぱなしになってしまう時間帯を思い出してみてください。
朝食後にゆっくりしているとき
デスクワークで座りっぱなしのとき
車やバスでの長い移動があるとき、
昼食後に眠たくなりうとうと座っているとき、
夕食後から寝る前にソファでくつろいだり読書をしているとき
などがあげられると思います。
その中で、30分ごとの軽い運動(1分でもOK)を入れられるタイミングや
立ち上がるきっかけを作るアイディアを探してみましょう。
・トイレに行った後のタイミングで肩を回す
・お茶を飲みに立つついでにスクワット
・テレビを見ている場合はCMの間だけ体を動かす
・いつもより少し遠い駐車場に車を止める
・デスクワーク中に時間を見てかかとの上げ下ろしをしてみる

【最後に】
糖尿病と向き合う生活は、ストイックになりすぎずに自分のリズムの中にちょっとした運動の習慣化をしていくことが長続きのコツです。
「今日はどの時間帯に長く座っていたかな?」と一日の終わりに振り返ってみて
明日は、“できるときに” “できる分だけ” 無理のない範囲で体を動かしてみましょう。
2025-06-26 09:50:41
週に150分! ~運動のすすめ~
2025年6月
猪岡内科
糖尿病療養指導士 中村郁恵
みなさんは毎日の運動習慣はありますか?
「
糖尿病治療の3本柱」は、「
お薬・運動・食事」ですが、その中でもっとも実行されにくいといわれているのが
運動です。
日本糖尿病学会のガイドラインでは
「週150分以上の中等度の有酸素運動」が推奨されていますが、ほかの国ではどのような運動基準なのでしょうか?
アメリカ(ADA)を含む主要国・機関の糖尿病患者向けのガイドラインを比較して、
「週に150分の有酸素運動」が進められている理由について考えてみました。
【2型糖尿病への各国の運動療法のガイドライン】
アメリカ:ADA(American Diabetes Association:アメリカ糖尿病学会)
- 150分/週 以上の中等度〜高強度の心拍数が上がる有酸素運動で、その間隔は最低でも週3日以上、やらない日を2日以上空けない
- 筋トレは2〜3日/週 程度を推奨
- 長時間の座りっぱなしを避けて、30分に一度は軽い運動を挟む
カナダ:Diabetes Canada(カナダ糖尿病協会)
→理想は30分を週に5回だが、10分以上の運動にわけて積み重ねてもOK
- 筋トレは2~3日以上/週 程度を推奨
- 長時間の座りっぱなしを避けて、30分に一度は軽い運動を挟む
オーストラリア:Diabetes Australia(糖尿病協会)
- 150〜300分/週の中等度の有酸素運動(速歩、サイクリング水泳)、または75〜150分/週の高強度運動(ジョギング、エアロビクス、早いサイクリング)
- 筋トレは2~3日以上/週 程度を推奨
- 長時間の座りっぱなしを避け、30分に一度は軽い運動を挟む
WHO(世界保健機関)
- 中等度運動150〜300分/週 または、高強度運動75〜150分/週
- 筋トレは2日以上/週
表にまとめてみます。
各国の糖尿病への運動療法のガイドライン
国・機関
|
有酸素運動
|
筋トレ
|
日本(JDS)
|
150分/週以上(中強度)
|
週2~3回
|
アメリカ(ADA)
|
150分/週(中強度)
|
週2〜3回
|
カナダ
|
150分/週(中強度)
|
週2〜3回
|
オーストラリア
|
150〜300分/週(中強度)
または
75〜150分/週(高強度)
|
週2~3回
|
WHO
|
150〜300分/週(中等度)
|
週2回以上
|
このように主要な国ではほぼ共通して、
「週に150分の運動」と「筋肉トレーニング」が推奨されていますが、「週に150分の有酸素運動」が推奨されている理由には以下のような科学的・実証的な理由があります。
【アメリカの糖尿病予防プログラム】
2002年のDPP試験 (U.S Diabetes Prevention Program 糖尿病予防プログラム)は
「150分/週の有酸素運動」の有効性を初めて明確に示したランダム比較試験です。
●試験の概要
糖尿病の遺伝がありBMI平均34、糖尿病予備軍の参加者が
1. 生活習慣改善グループ(食事・150分の有酸素運動)
2. メトホルミン投与グループ(薬物治療)
3. プラセボグループ
の3つのグループに分けられてそれぞれ、1のグループには運動食事の生活指導(内容は後述します)、2のグループにはメトホルミンの薬物治療をしたときに、プラセボ群と比較して
どの程度2糖尿病の発症を予防できるかを比較した試験です。
●試験結果
糖尿病発症率の比較結果を表にします。
|
糖尿病発症率
|
生活習慣改善グループ
|
4.8%
|
薬物治療投与グループ
|
7.8%
|
プラセボグループ
|
11.0%
|
「150分の有酸素運動を取り入れたり食事を改善した生活習慣改善グループ」が最も糖尿病予防に効果的であることが判明しました。
●結果の考察
- 生活習慣改善グループは、プラセボ群と比較して糖尿病発症率を58%低下させて優れた予防効果を示しました。
- メトホルミン投与グループは比較して糖尿病発症率が31%低下し、生活習慣病改善グループには及ばなかったものの、「若年層、BMIが高い人」ではより顕著な効果が見られたことから、個別に合わせた治療という面で一定の価値が期待されます。
また、その後「生活習慣の改善は長期的な効果があるのか」を調べた
DPPの延長試験のDPPOS(DPP Outcomes Study)では
「生活習慣改善を持続している群」では糖尿病の発症予防のみならず、糖尿病の合併症のリスクも減っていることが確認されました。
(15年にわたり追跡されて現在も追跡中です)
【生活習慣改善群での介入内容】
実際の介入内容では「6か月で体重の7%減らす」
「週に150分以上の中強度の運動をする」という現実的な目標を基準に、食事指導、行動変容についての学習、個別サポートが行われ、
平均 5.6kgの体重減少が達成されました。
【それから】
ここから、複数の試験、メタ解析によっても裏付けされて、アメリカ糖尿病学会(ADA)が2006年の糖尿病のガイドライン(Standard of Medical Care in Diabetes)より「週に150分の中等度以上の有酸素運動」が推奨されました。
その後、研究が重ねられて各国のガイドラインの基礎となり、2019年より日本の糖尿病ガイドラインのでも「週に150分の有酸素運動」が推奨されています。
【中強度の運動とは?】
中強度の運動(moderate intensity exercise)とは「
少し息が弾むけれど、会話はできる程度の運動」のことを指します。
歩く → 普段よりやや早めのウォーキング
自転車 → 平地でのサイクリング、エアロバイク
家事 → 掃除機かけ、床拭きなどのやや息の上がる作業
軽登山 → なだらかなハイキング
ダンス → エアロビクス、リズム体操など
水中 → 水中ウォーキング、アクアビクス
【最後に】
長期的な生活習慣の改善はすごく効果的なことがわかりましたね。
糖尿病の治療は
「薬物療法・運動療法・食事療法」の3本柱です。
「6か月で体重の7%減」 「週に150分以上の中強度の運動をする」を目標に
、まずは
、1か月で2%の減量でも良いので
小さな成功体験を大切にして
無理なく、楽しく、継続していけるようなペースをつかんでいきましょう。
2025-06-26 09:49:06
体にいい油をとろう
~ローストアマニ粒について~
2025年5月
猪岡内科
糖尿病療養指導士 中村郁恵
数か月にわたり「体にいい油」のあまに油、えごま油について、お手軽に料理に使えるマヨネーズやドレッシングについて連載してきましたが、今回は「ローストアマニ粒」について紹介します。
【ニップンローストアマニ粒】
「アマニ油」は種をしぼって油を取り出したものですが、「ローストアマニ」は、アマニ油になる前の原料であるアマニの種を焙煎したものです。
種を丸ごと食べるので、αリノレン酸に加えて、タンパク質、食物繊維、ポリフェノールなどの栄養素も一緒にとれることが特徴です。
油やドレッシング、マヨネーズとは、応用できるレシピも異なりますので、後半のレシピにも注目です。
まずは、
「ローストアマニ」の3つの魅力について紹介していきます。
- 「オメガ3脂肪酸+食物繊維+ポリフェノール」栄養価が豊富
◆オメガ3脂肪酸
ローストアマニはドレッシングやマヨネーズと同様にα-リノレン酸を豊富に含んでおり、心血管の健康をサポートします。
油やマヨネーズと違っている部分は、食物繊維、ポリフェノールの一種であるアマニリグナンが含まれていることです。
◆食物繊維
食物繊維の含有量は
40g中9.2g 大さじ1杯あたり1.1g
アマニの種の
23%が食物繊維で、
ゴボウ、きなこ、アーモンドよりも多くの食物繊維が含まれています。(水溶性が9%、不溶性が15%)3:5の割合でバランスよく含まれています。
食物繊維の働きは、満腹感を得やすく、血糖値の急激な上昇を抑える効果が期待できます。
便秘の解消にも効果的です。
◆ポリフェノール
ポリフェノールの一種であるアマニリグナンは「植物性エストロゲン」ともいわれています。抗酸化作用はもちろんのこと、大豆などに含まれている「イソフラボン」と同様に女性ホルモンに似た働きがあります。
更年期やPMSなどのホルモンバランスのサポートとしても注目されています。
香ばしくローストされたアマニは、独特の食感と風味があります。
サクサクとした食感が食事にアクセントを加えて、スムージー、ヨーグルト、アイスにトッピングすることで、見た目にも楽しさをプラスします。
また、アマニ「粒」は比較的熱にも強くパンやクッキー、ホットケーキにも混ぜ込むことができ、
デザート系レシピにも使えるのも魅力の一つです。
- 個包装タイプで賞味期限を気にせずに「鮮度のいい油」をとることができる。
今まで「
αリノレン酸は二重結合が多いために酸化されやすく、期待できる健康効果の期間が短い」ということをお伝えしてきました。
具体的には、αリノレン酸の含まれる油、ドレッシング、マヨネーズには開封後1か月間で使用することを目安におすすめしてきました。
それは継続的にオメガ3系をとれる一方で弱点でもありましたが、5gのスティックで個包装することで酸化を防ぎ「18か月間」と長い鮮度を保てることが強みになりました。
ローストアマニを使用したレシピを2つ紹介します。
【レシピ】
★ローストアマニのヨーグルトボウル★
このレシピでとれるαリノレン酸の量 2.6g

●材料
プレーンヨーグルト 1カップ
お好みのフルーツ(バナナ、ベリー、リンゴなど) 適量
ニップンあまにロースト 大さじ2
はちみつ お好みで
●作り方
1. ボウルにプレーンヨーグルトを入れます。
2. お好みのフルーツをカットしてヨーグルトの上にトッピングします。
3. ニップンあまにローストを振りかけ、必要に応じてはちみつをかけて完成です。
★あまにローストのホットケーキ★
このレシピでとれるαリノレン酸の量 2.3g
●材料
ホットケーキミックス 1袋 200g
牛乳 150ml
たまご 1つ
バナナ 1本
ローストアマニ 大さじ1
蜂蜜(お好みで) 小さじ1
バター 適量
●作り方
- ホットケーキミックス、牛乳、たまご、ニップンアマニローストを混ぜる。
- フライパンにバターを溶かして弱火で生地を焼く。
- 生地をひっくり返して焼けたらお皿によそう。
- バナナをスライス、お好みで蜂蜜を加えて完成です。
【まとめ】
ローストアマニは3つの利点があります。
・「オメガ3脂肪酸+食物繊維+ポリフェノール」の栄養価が豊富です。
・比較的熱に強いため生地に練りこんでデザート系のレシピにも活用できます。
・個包装タイプで「鮮度のいい油」をとることができます。
2025-05-14 10:35:01
体にいい油をとろう
~あまに油・えごま油のドレッシング~
2025年4月
猪岡内科
糖尿病療養指導士 中村郁恵
今回はうちでよく作っているオメガ3系のマヨネーズサラダの紹介、キューピーの血圧の研究、市販のオメガ3系のドレッシングの各社の比較を紹介しようと思います。
★3色サラダ

材料 (4人分)
・きゅうり 2本
・コーン缶 半分
・ハム(ベーコン)1パック30g程度
・めんつゆ 大さじ1
・あまに油(またはえごま油)入りのマヨネーズ 大さじ4
作り方
塩分カットのため塩もみはしていません
- ハムを一口サイズに切り、コーン缶の半分と一緒にボウルに入れます。
- めんつゆ(4倍希釈の場合) 大さじ1、マヨネーズ大さじ4
をいれて和えてできあがり。冷蔵庫で冷やすとより美味しく召し上がれます。
このレシピでとれるオメガ3系油の量は 2.0g/1人分 です。
オメガ3系の油は、心血管の健康維持、脳機能の向上、炎症を抑える効果で動脈硬化を抑えたりしますが、キューピーではこんな研究もされています。
【αリノレン酸は血圧を下げる効果がある?】
血圧が高めの方(収縮期血圧平均135.9mmHg、拡張期血圧87.8mmHg)
111人を対象にした試験では
「1日当たり2.6gのαリノレン酸を摂取すると、血圧低下に効果的であった」という結果が得られています。

上の表のようにαリノレン酸を意識して摂取してから1か月くらいで降圧効果が表れて
「平均で収縮期血圧が10mmHg」くらい下がると報告されています。
そして、降圧効果は摂取を続けている3か月間は持続しました。
3か月の試験終了後にαリノレン酸の摂取を中断すると元の血圧に戻ってしまうようです。
血圧がやや高めで毎朝欠かさずに測定している方、αリノレン酸の降圧効果があったら是非教えてください。
(血圧の薬を飲んでいる方、血圧が下がったら自己中断をする前に必ず血圧手帳をお持ちの上、医師に相談してくださいね)
【αリノレン酸のドレッシング】
ここからはαリノレン酸のドレッシングについて紹介していきたいと思います。
ドレッシングは生野菜にかけるだけなのでマヨネーズとともに手軽にお使いいただけます。
【キューピー】
「和風玉ねぎ」「イタリアン」「ゴマ豆乳」
これらのドレッシングは商品に含まれる油のうち
100%あまに油を使用していました。
商品名
|
一食分20gのカロリー
|
20gあたりのαリノレン酸
|
和風玉ねぎ
|
66㎉
|
2.6g
|
イタリアン
|
67㎉
|
2.6g
|
ゴマ豆乳
|
71㎉
|
2.6g
|
1食分当たりのαリノレン酸はすべて2.6gで、一食分当たりのカロリーもあまり差がないので、作るサラダに合わせたり、好みで選んで大丈夫です。

生野菜以外にも「豚しゃぶ」にかけるとメインのおかずになるのでおすすめです。
「和風玉ねぎ」、「ゴマ豆乳」は豚しゃぶに、「イタリアン」はサーモンなどのお刺身に合います。
【日清オイリオ】
日清オイリオはドレッシングの種類が
「こく和風」「焙煎香味ごま」「青じそ」「黒ず玉ねぎ」「旨口チョレギ 」の5種類あり、ラインナップが豊富なことが魅力的です。
商品名
|
一食分20gのカロリー
|
20gあたりのαリノレン酸
|
こく和風
|
79㎉
|
1.7g
|
焙煎香味ごま
|
88㎉
|
1.7g
|
青じそ
|
76㎉
|
1.7g
|
黒酢玉ねぎ
|
57㎉
|
1.5g
|
旨口チョレギ
|
83㎉
|
1.5g
|
カロリーにもばらつきがあるので、気になる方は「黒酢玉ねぎ」を選ぶといいでしょう。
「旨口チョレギ」は冷ややっこ、茹でた鶏むね肉には「胡麻」ドレッシングでバンバンジー風にするとよく合います。

【考察】
キューピーのドレッシングに対して日清オイリオのドレッシングでは
全体的にカロリーはやや高めですが、
一食分20gあたりのαリノレン酸の量が少ない印象があります。
これは、キューピーのドレッシングは100%アマニ油が使用されていると表示されていましたが、日清オイリオの場合にはアマニ油以外の油、例えば、大豆油、なたね油が含まれている可能性があります。しかし、
日清オイリオは1日に必要なオメガ3系の半分の量が摂れること、味のラインナップが豊富なことが魅力的です。好きなレシピや一日のオメガ3系の摂取量のバランスを見て使ってみてくださいね。
2025-04-11 09:53:00
体にいい油をとろう
~あまに油・えごま油のマヨネーズ~
2025年3月
猪岡内科
糖尿病療養指導士 中村郁恵
先月号では「オメガ3系のあぶらは
“熱に弱い性質”を持つが、オメガ3系の油を含むマヨネーズは、熱を加えても“
分離せずに形状が残っている部分ではオメガ3の効果は維持できる”」という事実がメーカーとのやり取りで判明しました。
そこで、今月号では実践編です。
マヨネーズが形に残るようなオーブン焼きの検証をしたので、豆知識、レシピとともに紹介します。
【メカジキの豆知識】
メカジキの旬の時期は冬(11月~2月)です。冬になると脂がのり、身がしっとりして甘みが増します。
しかし、下記に示す「オメガ3脂肪酸含有量」の表の栄養成分をみてみると他の魚と比較してEPA・DHAなどのオメガ3系の含有量は決して多くありません。

また、
1日のオメガ3系油の摂取目安は「1日 2.2g」
(厚生労働省が推進する日本人の食事摂取基準2020年版)より
とされていますが、
メカジキ一切れ(80-100g)に含まれるオメガ3系は0.5g~最大1.2gと、
食事基準で示されるような
摂取目安には足りません。
そこで、加えてほしいのが「
オメガ3系のマヨネーズ」です。
調理に使用することで、味付けのみならず、
体にいい油を添加して摂取することができます。
【
マヨネーズの形を残す検証】
メーカーによると
「オーブン焼きのようにマヨネーズの形を残すとオメガ3の効果が残る」ということでしたね。
そこで、どのようなパターンで調理したらマヨネーズの形状が残りやすいかを2通り検証しました。
<アルミホイルの包み方の違い>
ホイルに包みオーブンに入れるときに

ホイルを開いたままオーブンに入れるパターンと ホイルを閉じてオーブンに入れるパターン
②
結果:ホイルを開いたままオーブンに入れた方がマヨネーズの形が残る。
ホイルを閉じた方はマヨネーズの形も崩れており、汁の中にマヨネーズが溶け出しています。
ホイルを開いたままオーブンで焼いた方は比較的きれいにマヨネーズの形状が残りました。
<マヨネーズと味噌のバランス>
メカジキにマヨネーズと味噌を塗るときに、味噌だけでは塗りにくいのでマヨネーズを混ぜてから塗るレシピが多いのですが、そのバランスを変えて焼いてみました。
レシピの材料は【マヨネーズ:味噌】が【大さじ3:大さじ1】の量です。
< >マヨネーズ(大さじ3)、味噌(大さじ1)を全て混ぜるパターンマヨネーズ(大さじ1)、味噌(大さじ1)を混ぜて塗り、その上に残りのマヨネーズ(大さじ2)をかけるパターン。

↑焼く前の写真 ↓オーブンで焼いた後の写真
結果:②の方がオーブンで焼いた後にマヨネーズの形状が残った
< >の方はマヨネーズの固形の部分の形が崩れてしまっていますが、の方はしっかりとマヨネーズの固形の部分の形が残りました。オーブンを200度に予熱する。メカジキをアルミホイルの上に置き、汁がこぼれないよう周りを高くする。味噌、マヨネーズを 各おおさじ1ずつまぜて、メカジキの表面に塗る。残りの大さじ2のマヨネーズを上からかける。オーブンの予熱か終わったら12分加熱する。オーブンにより10分~15分が目安なので加減してください。
他にも、タラ、ヒラメ、カレイなどの白身魚やマグロの赤身はオメガ3系の油が少ないのでオメガ3入りマヨネーズとの相性がいいです。
また、鶏肉との相性もいいです。鶏肉は加熱されにくいので、小さめのそぎ切りにする、またはオーブンの焼き時間を増やしてください。
【まとめ】
こちらのレシピで使用する1人分のオメガ3系の油の量は、メカジキ約1.0g、マヨネーズで約3.0g、合計で4.0gほどです。
ここから、一般的な調理の加熱による油の損失20%を考慮した場合、
(1.0+3.0)×0.8= 3.2
摂取できるオメガ3系の油は推定3.2gです。
オメガ3系の1日の摂取目安(2.2g)をオーバーしていますが、
EFSA(欧州食品安全機関)によると、
オメガ3系油の安全の上限は5gなので、
問題なく安全に食べることができます。
ぜひ調理してみてくださいね
2025-02-28 11:02:37
体にいい油をとろう
~あまに油・えごま油のマヨネーズとドレッシング~
2025年2月
猪岡内科
糖尿病療養指導士 中村郁恵
先月、先々月と紹介してきた
「あまに油、えごま油」ですが、あぶらのほかにもドレッシングやマヨネーズの市販品があることを知っていますか?
【えごま油・あまに油の市販品について】
最寄りのスーパーではあまに油、えごま油のボトルのほかに、それらの入ったドレッシング、マヨネーズがありました。
オメガ3系の油は“熱や酸化に弱い”というイメージがあったのですが
ドレッシングやマヨネーズを作る過程で油を乳化させたときや加工するときに果たしてオメガ3は酸化せずに形態を維持できているのか?
というところを製造メーカー「キューピー」にインタビューしてみました。
メーカーからの回答は以下の2点です。
- 製造過程で酸素を除去する技術
- ボトルの中で酸素を吸着するしくみ
このような技術がドレッシングやマヨネーズを作る過程に組み込まれていることで、通常のオメガ3系油と同じく「開封後1か月の賞味期限」は鮮度が保たれているという回答でした。
また、オメガ3系のあぶらは
“熱に弱い性質”ですが、むしろマヨネーズに関しては、「オーブン焼きなどで熱を加えても、
マヨネーズが分離せずに形状が残っている部分では、オメガ3の効果は維持できる」とのことでした。
【市販品のアマニ油えごま油マヨネーズ】
マヨネーズやドレッシングは、油のほかに卵お酢やお砂糖が含まれます。
また、原材料名をみると複数の油の名前が記載されています。
ここでの疑問点は
- どのくらいオメガ3系の油が含まれているのでしょうか?
- そして、それは1日に必要なオメガ3系摂取量を満たしてしるのでしょうか?
調査してみました。
【マヨネーズ編】
1 ニップンのあまに油入りマヨネーズ
大さじ1杯 15gあたりの
αリノレン酸 1.7g
含まれている油 なたね油、アマニ油(アマニ油の含有率14%)
2 キューピーのあまに油マヨネーズ

大さじ1杯 15gあたりの αリノレン酸 2.6g
含まれている油 なたね油、アマニ油、大豆油(アマニ油の含有率17%)
3 創健えごまマヨネーズ

大さじ1杯 15gあたり α-リノレン酸=2.4g
含まれている油 えごま油、べにばな油、なたね油(アマニ油の含有率16%)
4 手作りマヨネーズの場合
〇材料 100g
お酢 大さじ1/2
卵の黄身 1個分(20g)
塩 小さじ1/4
あまに油、(またはえごま油) 80ml(72g)

〇作り方
< >卵の黄身、お酢、塩をいれてよくかき混ぜるあまに油(またはえごま油)を少しずつかき混ぜて、すべていれおわったら完成。
賞味期限は当日中です。〇決して混ざることのないお酢と油が黄身を加えることで乳化して混ざり合いマヨネーズになります。
αリノレン酸60%で計算した場合の含有率は 44%
大さじ1杯 15gあたのαリノレン酸=6.6g
手作りのマヨネーズはすべてオメガ3系の油で作ることができるので、高い含有率を占めることができました。
【考察】
全ての市販品マヨネーズは、なたね油やだいず油などの“あまに油、えごま油以外の油”も含まれています。
オメガ3系の油を100%使用した
「手作りマヨネーズ」と比較すると(αリノレン酸が44%)市販品マヨネーズのオメガ3系含有率は14~17%という結果でしたが、ここである疑問が生まれます。
「なぜ、オメガ3系以外の油を混ぜているのか?」
メーカーからの返答をまとめると
・コスト ・風味の問題 ・1日のオメガ3系油の摂取目安量 の3つでした。
オメガ3系の油はなたね油に比較して少し風味があるので、それらをまぜることによって風味を調節して食べやすくして、同時にコスト面の問題も解決しているのでしょうね。
また、摂取量に関しては、
厚生労働省が推進する日本人の食事摂取基準2020年版の中では
「n−3脂肪酸の摂取目安量は1日最大2.2g」としています。
これをもとに、「マヨネーズの1食分である15gに含まれるαリノレン酸の量をみてみると
・
キューピーのアマニ油マヨネーズ
・創健のえごまマヨネーズ
摂取目安量を超えているものは上の2つでした。
【まとめ】
市販されている「あまに油、えごま油マヨネーズ」についてまとめました。
手作りの方がたくさんのαリノレン酸をとれるメリットがありますが、市販品のほうが賞味期限が長くお手軽につかうことができますので生活スタイルに合わせて使い分けてみてください。
2025-01-22 13:14:05
体にいい油をとろう
~あまに油・えごま油のレシピと豆知識~
2025年1月
猪岡内科
糖尿病療養指導士 中村郁恵
新しい年が始まりました。みなさま、今年もよろしくお願いいたします。
先月号でえごま油、あまに油の市販品の実際について特集したので今月は雑学コラムとレシピについて載せたいと思います。
【αリノレン酸のコラム】
αリノレン酸は魚油ではなく、限られた植物の種子(亜麻、えごまなど)に多く含まれる脂肪酸で、その内の1割が体の中でDHA・EPAに変化することで知られています。

その1割という数字は低いように感じますが、αリノレン酸からEPA DHAへの変換について調べてみると次のような見解がありました。
・EPA、DHAには、身体に必要な適切量が変換されるという説
・日本人は遺伝子の問題で、不飽和化酵素の働きが弱いため、α-リノレン酸からEPA、DHAに変換される量は少ないのではないかという説
日本は周囲を海で囲われています。
昔の生活の中では海産物を食べる機会が多く、EPA・DHAに関しては、α-リノレン酸から変換されなくても、摂取することが可能でした。
そのため、変換能力が衰えたと考えている方もいました。(憶測です)

はっきりとは、まだ解明されていませんがとても興味深いですね。
えごま油、あまに油のそれぞれのおすすめレシピを紹介します。
【えごま油を使ったレシピ】
和風ツナトマトサラダ
●材料 2人分
中玉トマト 1つ(ミニトマト 5つ)
きゅうり1本
ツナ缶 1つ
めんつゆ 適量
えごま油 小さじ2杯
- きゅうりは塩もみして水気をよく切る
- トマトを一口サイズにしてツナ、きゅうりとあえる
- めんつゆえごまあぶらで味を付けたら完成

【あまに油を使ったレシピ】
あったか 具だくさんコンソメスープ
●材料 2人分
キャベツ 1つかみ
人参 1/4本
ウインナー 2本
コンソメ1粒
水 適量
あまに油 小さじ2杯
- キャベツ、ニンジン、ウインナーは1口サイズに切ります。
- コンソメ1キューブと10分ほど一緒に煮込みます。
- 器によそったら、食べる前にあまに油をたらして完成

【ポイント】
オメガ3は熱に弱いです。えごま油やアマニ油に含まれる「α-リノレン酸」は熱に弱く酸化しやすいため、食事に取り入れる際は一緒に煮込んだりせずに、
食べる直前に垂らすことでより多く吸収することができます。
サラダやスープなどにそのままかけて食べるのがおすすめです。
【あぶらと相性のいい野菜】
えごま油とあまに油と相性の良い野菜についてお伝えします。
これらの野菜は、油の風味を引き立て、栄養価を高める組み合わせとしておすすめです。
えごま油との相性が良い野菜
- ほうれん草:えごま油と組み合わせることでビタミンKや鉄分の吸収を助けます。えごま油の軽いナッツのような風味が、ほうれん草のほろ苦さとよく合います。
- ブロッコリー:ビタミンCと食物繊維が豊富なブロッコリーは、えごま油の軽い風味とバランスが良く、栄養価を補完し合います。
- トマト:トマトの酸味がえごま油のナッツの風味を引き立てます。また、トマトには抗酸化作用のあるリコピンやビタミンA,Eが含まれているので、油と一緒に食べることで吸収がアップして抗酸化作用に働きかけます。
アマニ油との相性が良い野菜
- ケール:ケールはビタミンA、C、Kが豊富で、アマニ油のややスパイシーな風味と相性が良いです。
- 人参:人参はβカロテンが豊富で栄養素の吸収を助けます。
また、ニンジンの甘みがアマニ油の独特な風味を和らげてくれるのでスープやサラダやスムージーに加えるのもおすすめです。
- アボカド:アボカドのクリーミーな食感とアマニ油のナッツ風味が絶妙にマッチします。アボガドには抗酸化作用のあるビタミンEが含まれているのでオメガ3脂肪酸と健康脂肪の組み合わせで、心血管系の健康に良いとされています。

【えごま油、アマニ油の摂取目安】
1日に必要な「オメガ3 」の目安は
1日小さじ1杯です。
これは魚で例えるとアジ約3匹分に相当します。毎日魚を食べることが理想ですが、魚を食べられないときはえごま油やアマニ油などの健康オイルでオメガ3を補ってみましょう。
【まとめ】
・えごま油あまに油からとれるαリノレン酸の約1割が体の中でEPAに変化します。
・オメガ3系は熱に弱いという特徴があります。サラダなどの熱を加えないお料理や、温かいお料理のうえに垂らして食べることがおすすめです。
・相性のいい野菜もあるため、献立を考えるときの参考にしてみてください。
今年もみなさまの健康と幸せを願っております。寒い毎日が続くので暖かくしてお過ごしください。
2025-01-22 13:05:12