〒321-0904
栃木県宇都宮市陽東4-1-2

028-664-3800

トップページ医院紹介スタッフ紹介診療案内交通案内初診の方へ
 

猪岡内科コラム

栃木県,宇都宮市,糖尿病,食事指導,管理栄養士 【猪岡内科】

インスタグラム

求人案内

トップページ»  猪岡内科コラム

猪岡内科コラム

  • 件 (全件)
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5

糖尿病の災害時について①

糖尿病の災害時について①
2024年2月
猪岡内科
糖尿病療養指導士 中村郁恵
 
元旦から能登半島を中心に大きな地震がありました。津波や火災建物崩壊、道路が寸断されて厳しい寒さの中、いまだに避難生活が続いていますね。
大変心苦しく思い、一日でも早い復興を願います。
栃木県でも2011年の大震災、2019年は大雨による田川の氾濫など、自然災害に見舞われましたね。停電や断水なども経験しました。
我が家では、久しぶりに防災バックの中をみてみたら期限の切れているものばかりだったのでこれを機に見直しました。
 
地震大国日本で大きな自然災害が起きたとき、糖尿病や持病を持っている人にとっては、過酷な状況となることがあります。
日本糖尿病協会監修
「インスリンが必要な糖尿病患者さんのための災害時サポートマニュアル」や臨床糖尿病支援ネットワーク監修
「糖尿病災害時サバイバルマニュアル」
今月はこれをまとめます。
もしもの時のために災害の備えをしておきましょう。
 
【はじめに】
災害の時は、3日間は自力で生き延びる準備をしておきましょう。
 
 なぜなら、被災する場所によっては、救助や避難物資が届くのに3日以上かかるところがあるからです。
また、医療機関では、最初に命の危険のある人から治療します。
自分の命は自分で守れるよう、災害用に備えて、最低3日分の非常用の食糧やお水などの防災用品のほかに、糖尿病治療に必要な物品を用意しておきましょう。
 
もしもの時の災害に備えて今できること
【自分の治療情報を まとめておきましょう】  ↓記載してみてください

【災害対策で普段から心掛けておくこと】
◎可能な限りご自身の服用している薬の名前、ミリ数を覚えておきましょう。
色や形は似ているものがたくさんあるので、できるだけお薬の名前で覚えておくと良いです。
インスリン注射の名前、単位、一日に何回打っているかを覚えましょう。
余裕のある方は、ご自身の使っているインスリンの種類が持続型なのか、超速攻型なのか混合型なのか覚えておくといいです。
◎普段の自分のだいたいの血糖値や直近のHbA1cの変化、
おにぎり2個食べたときの食後の血糖値はどのくらい上がるのかを知っておきましょう。
 
下記の当院で取り扱っているインスリン・GLP1製剤の一覧表を参考にしてください。
 

 
同じグループのものの名前も覚えておくといざという時に代用できます。
GLP1製剤も同じ注射薬ですがインスリンではないので、GLP1製剤のグループ内でほかの薬剤名も覚えておくと良いです。
混合型については例外で配合している薬剤が異なります。それぞれの薬剤を覚えておきましょう。

 
 
 【災害時の持ち物】
非常食やお水、懐中電灯などが入っている非常用持ち出し袋に+αで糖尿病の患者さんが追加でいれておくと良いものをまとめました
のみ薬 最低1 週間分
インスリン 最低1週間分 (針や消毒綿、針いれのセット)
血糖測定セット
おくすり手帳(写しでも可)
糖尿病連携手帳(写しでも可)
自己管理ノート(SMBG ノート)(写し)
ブドウ糖(低血糖対策)
 
携帯電話・スマートフォンのカメラで、おくすり手帳・糖尿病手帳・インスリン・ 薬などを撮影して、わかるようにしておくと便利です。
毎月診察の後に写真撮影することを習慣化しておくといつも最新の情報を保持できます。
 
こちらは市販のブドウ糖やアルコール綿の一例です。
ブドウ糖はタブレットのもの、アルコール綿は個包装のものを災害時用に用意しておくと良いでしょう。


 
【まとめ】
・ご自身の治療情報についてまとめてみましょう。
・ご自身ののみ薬・注射薬について薬の名前で覚えましょう。
・診察の後はお薬手帳、糖尿病手帳をスマホで撮影習慣化しましょう。
・災害時の持ち物についてみなおしてみましょう。
 

2024-02-24 17:49:10

コメント(0)

糖尿病学会より日本人における2型糖尿病のアルゴリズム⑨ ~SGLT2阻害薬の開発の歴史と、大規模臨床試験~ 2024年2月

糖尿病学会より日本人における2型糖尿病のアルゴリズム⑨
~SGLT2阻害薬の開発の歴史と、大規模臨床試験~
2024年2月
猪岡内科
糖尿病療養指導士 中村郁恵
 
海外を中心に SGLT2 阻害薬、次いでGLP-1 受容体作動薬の慢性腎臓病、心血管疾患、心不全に対する効果を検証した大規模臨床試験の成績が多数報告されており、その有用性が示されています。
今回のアルゴリズムの改定では、合併症を抑える点でその有用性が評価されて、推奨される薬剤となりました。
SGLT2阻害薬の開発の歴史と、データについてご紹介します。
 
【開発の経緯および歴史】
SGLT2阻害薬は、腎臓の近位尿細管にあるナトリウム・グルコース共輸送体2(SGLT2)を阻害することにより、尿中からのグルコース再吸収を抑制することで血糖値を下げる薬剤です。
SGLT2阻害薬の開発の歴史は古く、始まりは1800年代に遡ります。
きっかけは1835年にフランスでリンゴの樹皮からフロリジンが発見されたことでした。その100年後の1933年にはフロリジンが尿糖排泄作用を持つことが報告されます。

 
その後、しばらくは糖尿病治療薬の候補としては考えられていませんでしたが、1980年代後半に米国のDeFronzoが“糖毒性”の概念を提唱したことが転機となりました。この“高血糖が糖尿病の病態の本体である”という糖毒性の考え方が、尿糖排泄を促進することによる糖尿病治療という概念の理論的な裏付けとなりました。
同時期の1987年には動物実験によってフロリジンの投与による血糖値の低下が証明されました。
ただし、フロリジンの尿糖排泄の薬理作用が完全に解明されていなかったため、薬剤開発が軌道にのるまでにはさらに複数の発見が必要でした。
1994年にKanaiらがSGLT2のDNAを発見して、DNAから発現させたタンパク質が腎臓でグルコースの再吸収を担っている共輸送体であることを突き止めました。
1999年には現在の田辺三菱製薬が経口可能なフロリジン誘導体(T – 1095)を創薬し、動物実験の結果、糖尿病に対して治療効果を示すことが発表されました。
その後、複数の製薬会社において薬剤の研究開発が進み、臨床試験を経て
2012 年に欧州でダパグリフロジンが糖尿病治療薬として世界で初めて認可されました。
わが国でも2014年にイプラグリフロジンが認可されたのをはじめとして2020年の時点で6種類の薬剤が保険承認されています。
 
 【心不全治療薬としての期待】
糖尿病の主要な合併症である糖尿病性腎症、網膜症、神経障害は、血糖依存的に病状が増悪することが明らかにされています。
そのため元来は、糖尿病治療薬は血糖値を下げることに開発の主眼がおかれて血糖降下作用の強さが選択基準となっていました。
しかし、2007年に、海外で当時使用されていたチアゾリジン薬のロシグリタゾンによって心筋梗塞発症リスクが有意に増加することが報告され、この結果を 重くみた米国食品医薬品局(FDA)は、2008年に新規糖尿病治療薬に対する新たな指針を発表し、新規糖尿病治療薬の承認に際して心血管イベントに対する影響の検証を必須項目としました。
SGLT2阻害薬も含めて、国際的に認可されたすべての薬剤で大規模臨床試験が 実施されることとなりました。
 
【エンパグリフロジン(ジャディアンス)】

最初に結果が開示されたのは、2型糖尿病患者を対象としたエンパグリフロジン(一般名:エンパグリフロジン 商品名:ジャディアンス)の大規模臨床試験「EMPA –REG OUTCOME」でした。
2015年に発表されたこの試験は大きな衝撃を与えることとなりました。
この研究は、18歳以上の2型糖尿病で、2ヵ月以内に急性心筋梗塞、脳卒中、冠動脈疾患などの何らかの心血管イベント既往のあるHbA1c 7.0%から9.0%の患者7020人を対象としたものでした。
既存の治療薬に加えてSGLT2阻害薬であるエンパグリフロジンかプラセボを投与する群にランダム割付けを行い、複合心血管イベント(心血管死、心筋梗塞、脳卒中)の発症を比較したところ、エンパグリフロジン投与のハザード比は、複合心血管イベントで 0.86、心血管死で0.62、総死亡で0.68、心不全入院で0.65という結果でこれほどまでに2型糖尿病患者の心血管イベント発症を抑制する効果が示された研究は初めてでした。
 
この研究に続いて、同じSGLT2阻害薬である
カナグリフロジン(一般名:カナグリフロジン 商品名:カナグル)、
ダパグリフロジン(一般名:ダパグリフロジン 商品名:フォシーガ)、
2つの大規模臨床試験が相次いで発表されました。
 
【カナグリフロジン(カナグル)】

カナグリフロジンの大規模臨床試験である“CANVAS試験”では、2型糖尿病患者のうち30歳以上で急性心筋梗塞および急性冠症候群、脳卒中などの何らかの心血管イベント既往がある場合、もしくは50歳以上で糖尿病罹患歴10年以上、高血圧症、喫煙、タンパク尿、低HDLコレステロール血症のうち2つ以上の合併がある場合を対象としました。
結果は、SGLT2阻害薬であるカナグリフロジンの投与によって、複合心血管イベントでHR 0.86、心血管死で有意差なし、心不全入院でHR 0.67 というものでした。
「EMPA –REG OUTCOME」試験と同様に、こちらの研究でも、2型糖尿病患者の心血管イベント発症を抑制する効果が示されました。
 
【ダパグリフロジン(フォシーガ)】

そして、ダパグリフロジンの大規模臨床試験であるDECLARE –TIMI 58試験は、2型糖尿病で40歳以上の慢性腎臓病のない心血管イベントを合併した患者、もしくは男性55 歳以上、女性60歳以上で高血圧症、脂質異常症、喫煙のいずれか1つを合併した患者17160人が対象とされました。
その結果、SGLT2阻害薬であるダパグリフロジンの投与によって複合心血管イベントおよび総死亡はプラセボと比較して有意差なし、心血管死または心不全入院でHR 0.83というものでした。
こちらの研究でも、EMPA –REG OUTCOME試験やCANVAS試験と同様に2型糖尿病患者の心血管イベント発症を抑制する効果が示されました。
 
【まとめ】
 これらの試験は心血管死についてはやや一貫性に欠けてしまいますが、いずれにしても2型糖尿病患者の心不全入院を有意に抑制する結果であったため、SGLT2阻害薬は新たな心不全治療薬として期待されることとなりました。
 
 
 
 
 
 

2024-02-24 17:38:32

コメント(0)

糖尿病学会より日本人における2型糖尿病のアルゴリズム⑧ ~日本人での糖尿病治療薬~

糖尿病学会より日本人における2型糖尿病のアルゴリズム⑧
~日本人での糖尿病治療薬~
2024年1月
猪岡内科
糖尿病療養指導士 中村郁恵
 
次に日本人での治療薬の選択についてです。
【日本人の治療選択】
日本人ではインスリン分泌能が低下している病態の方、インスリン抵抗性が主な病態の方、2つの病態が混ざり合っている方など糖尿病の病態が個々によって異なります。
そのため。日本での2 型糖尿病の治療薬の選択においては、患者さんのインスリン分泌およびインスリン抵抗性、年齢や肥満の程度、慢性合併症の程度を考慮して、全てのクラスの薬剤から初回治療薬として選択することを可能としている点が特徴的です。
JDSより、より個人に合わせて薬剤を選択するために次のページのようなアルゴリズムが作成されました。
日本人糖尿病の薬剤治療選択

アルゴリズム⑥でまとめたように、最初にインスリンの絶対的および相対的適応があるかどうかを判断して個人個人によって目標となるHbA1c を設定します。
その後、薬剤の選択に進みます。
 
・Step 1  病態に応じた薬剤選択
インスリン分泌不全および インスリン抵抗性を臨床的に評価するには、HOMA-βやC-peptide index などのインスリン分泌能に関する指標や HOMA-IR な どのインスリン抵抗性に関する指標が有用ですが、
簡便なものでは2 型糖尿病の病態をある程度判別できる臨床指標として肥満の有無があります。BMI 25以上の肥満のある方をインスリン抵抗性がある、非肥満の方をインスリン分泌能が落ちていると想定して薬剤を選択していきます。
 
肥満症例における薬剤の候補としてはインスリン抵抗性改善系のビグアナイド薬(メトホルミン)、糖の排泄を調整するSGLT2 阻害薬、インスリン分泌促進系薬剤の中では体重減少効果が期待できるGLP-1受容体作動薬などが良い適応であると考えられます。
 
非肥満の 2 型糖尿病の多くは、インスリン分泌不全が病態の主体であるため、インスリン分泌促進系薬剤を中心に薬剤選択を行います。
DPP-4 阻害薬は本邦の 2 型糖尿病の初回処方として最も多く選択されており、安全性も高いために中でも高齢者での処方割合は極めて高い薬剤です。
アジア人においては血糖降下作用がより強いとする報告も見られ安全性と有効性の観点から非肥満の2 型糖尿病には良い適応であると考えられます。
 
SU薬(アマリール)は血糖非依存性のインスリン分泌促進薬であり、インスリンと同様に低血糖のリスクがあります。
食後高血糖が高い場合にはグリニド薬(グルファスト)や α-グルコシダーゼ阻害薬(グルコバイ、ベイスン、セイブル)も良い候補薬となります。
 
また、メトホルミンは非肥満においても肥満と同程度の HbA1c 低下作用を示すことから、非肥満例でも候補薬 の一つとなります。
次にStep2へ進みます。


・Step 2 安全性への配慮
低血糖のリスク、高齢者、腎機能の障害がある方、心不全がある方ではそれぞれ、リスクのある薬剤を避けます。(次ページの表に一覧でまとめました)
例えば、ビグアナイド薬(メトフォルミン)は安価で経済的に助かる反面、腎臓、心臓に合併症を持つ患者さんや、高齢者に使用するときには注意が必要という特徴があります。
 
次にStep3へ進みます。
・Step 3 Additional benefits(追加する利点)を考慮します。
 
海外を中心に SGLT2 阻害薬、GLP-1 受容体作動薬の慢性腎臓病、心血管疾患、心不全に対する効果を検証した大規模臨床試験の成績が多数報告され、その有用性が示されています。その研究については後述します。
 

 
つぎにSTEP4に進みます
・STEP4 考慮すべき患者背景
考慮するべき患者背景として、服薬遵守率と医療費があげられます。
糖尿病の患者さんにとって、薬をきちんと服薬できているかは血糖コントロールに影響するのみならず、心血管疾患、入院リスクとも関連します。
飲み忘れしにくいような薬剤を選ぶことで服薬遵守率をあげる配慮が大切です。
医療費については各薬剤の薬価に加えて、それ以外の医療費も考慮する必要があります。糖尿病は長期にわたって薬物療法が必要になるため、患者さんの経済的負担を軽減するために、ビグアナイド薬(メトフォルミン)が適応であるかどうか、配合薬への切り替えを考慮します。
 
 
 
 

2024-02-24 17:30:56

糖尿病学会より日本人における2型糖尿病のアルゴリズム⑦ ~欧米での糖尿病の治療方針~

糖尿病学会より日本人における2型糖尿病のアルゴリズム⑦
~欧米での糖尿病の治療方針~
糖尿病療養指導士 
2023年12月
猪岡内科中村郁恵
 
いままでの欧米での糖尿病治療と今回改定された点についてまとめていきます。
【欧米での糖尿病治療方針】

いままでの欧米での一般的な治療法としては、欧米人の肥満2 型糖尿病の多くはインスリン抵抗性が主な病態であったため、糖尿病特有の合併症の予防や、動脈硬化による心筋梗塞、脳梗塞、体重への影響や低血糖のリスク、安価であることを踏まえて、インスリン抵抗性改善薬である“メトホルミン”が第一選択薬として強く推奨されてきました。
 
2022年の米国糖尿病学会(ADA)Standards of Medical Care in Diabetesの改定では、第一選択となる治療は基本的にはメトホルミンと生活習慣の改善が含まれますが、動脈硬化の進行例や、心不全、慢性腎臓病を合併して患っている例ではメトホルミンに加えて、またはメトホルミンの代わりにGLP-1受容体作動薬またはSGLT2阻害剤を使用することが推奨されている」と改定がありました。
今回の改定では下の図のようにメトホルミン一押しの治療法から、個人個人の動脈硬化や心不全、慢性腎不全の合併症の状態を見て
GLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害剤を併用するような治療に変化しつつあります。

 
第一選択薬は一般にはメトホルミンでかわりありませんが、SGLT2阻害薬・GLP-1受容体作動薬の合併症抑制のエビデンスの急増に伴い、推奨順位・条件が変わっています。
今回は、動脈硬化性疾患(ASCVD)/心不全(HF)/慢性腎臓病(CKD)を合併している患者さんではSGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬が第一選択薬のオプションとして投与推奨されるようになました。
 メトホルミンは第一選択から外されたわけではなく、糖尿病診断時から生活スタイルの改善とともに、一般に投与することが推奨さています。
第一選択薬候補がメトホルミン単独から3剤になり、患者中心アプローチがいっそう重視されています。
 動脈硬化性疾患、心不全、慢性腎臓病の合併症をあわせ持つ患者さん以外では、低血糖リスク・体重管理・医療費の重要性を主軸に適切な選択をすることが今回も推奨されています。
 
当院で扱っているGLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害剤を表にしました。

 
 
【まとめ】
今回、ADAの報告を見ると、しっかりと患者さんの合併症や様々な要因を把握しての治療がさらに重要であることがわかります。
今までは、安価であり、血糖効果作用の他にがんや認知症の予防などに有用なメトホルミン製剤の使用が第一選択とされていました。
今回の表を見ると、「FIRST-LINE THERAPY」の次に来るものは,動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)合併あるいは高リスク状態、心不全(HF)、慢性腎臓病(CKD)の有無になっています。
これらがあれば,GLP-1受容体作動薬あるいはSGLT2阻害薬が,HbA1cやメトホルミン使用の有無にかかわらず推奨されています。
ここで、わかるようにしっかりと初期においても患者さんの評価を行うことが大切です。
 
次に注射薬についてです。
注射薬についての選択順位は変わりありません。
 注射薬を導入する場合は、心血管疾患エビデンス・体重減少作用・低血糖小リスクを基に、前回と同様にインスリンよりもGLP-1受容体作動薬を優先することが推奨されています。
また、基礎インスリン過剰使用への注意も引き続き促されています。

運動習慣の見直しや食生活の改善などの生活習慣の改善を行ったうえで、GLP-1製剤を使用していてもHbA1cが目標値以上になったしまう場合は、基礎インスリンを追加することを検討します。
それでもHbA1cが目標以上になってしまう場合は即効型インスリンの導入を検討してHbA1cが目標クリアできるように目指していきます。
 
 

2023-12-16 16:19:43

糖尿病学会より日本人における2型糖尿病のアルゴリズム⑥ ~日本での目標HbA1c値設定~

糖尿病学会より日本人における2型糖尿病のアルゴリズム⑥
~日本での目標HbA1c値設定~
2023年11月
猪岡内科
糖尿病療養指導士 中村郁恵
 
次に日本での目標となるHbA1c値設定の決め方です。
【日本での目標HbA1c値設定】
JDSによるアルゴリズムでは次のようになっています。

 
・インスリンの適応の評価と目標 HbA1c の設定
 2 型糖尿病の薬物療法は安全性を大前提とし、まずインスリンの絶対的および相対的適応があるかどうかを判断します。
・合併症予防の観点からはHbA1c 7 %未満が妥当であるが年齢や併存症等を考慮して目標となるHbA1cを個別に設定します。
HbA1cの目標値の決め方は、ガイドラインによるHbA1cの目標値、“厳格な血糖コントロール”を推奨する熊本スタディ、 J-DOIT3をもとにしたHbA1cの目標値、高齢者のガイドラインのHbA1cの目標値と様々なのでまとめていきます。
 
●糖尿病ガイドラインでのHbA1cの目標値
従来のガイドラインの糖尿病患者さんの血糖コントロールは、年齢、罹病期間、臓器障害、低血糖の危険性、サポート体制などを考慮して個別に設定されます。
 
 
 
下の図のように。血糖正常化を目指すときはHbA1c6.0未満を目指します。
合併症の発生と進行を抑えるために、治療強化が困難な場合を除き、できるだけHbA1c7.0未満を目指しますが、治療の強化が困難である場合にはHbA1c8.0未満を目指します。


 
●高齢者ガイドラインでのHbA1cの目標値
超高齢化社会と言われている日本では65歳以上の人口が30%に及びます。
そして2型糖尿病の半数以上は65歳以上の高齢者です。
高齢者の糖尿病ガイドラインでは “厳格な血糖コントロール”を推奨する熊本スタディ、 J-DOIT3などの結果とは裏腹に、低血糖のリスクを考慮して目標のHbA1cがもともとの糖尿病ガイドラインより、より個々に合わせてより緩めに設定されています。

注1) 認知機能や基本的ADL(着衣, 移動, 入浴, トイレの使用など), 手段的ADL(IADL:買い物, 食事の準備, 服薬管理, 金銭管理など)の評価に関しては, 日本老年医学会のホームページ(外部リンク)を参照する.エンドオブライフの状態では, 著しい高血糖を防止し, それに伴う脱水や急性合併症を予防する治療を優先する.
注2) 高齢者糖尿病においても, 合併症予防のための目標は7.0%未満である.ただし, 適切な食事療法や運動療法だけで達成可能な場合, または薬物療法の副作用なく達成可能な場合の目標を6.0%未満, 治療の強化が難しい場合の目標を8.0%未満とする.下限を設けない.カテゴリーIIIに該当する状態で, 多剤併用による有害作用が懸念される場合や, 重篤な併存疾患を有し, 社会的サポートが乏しい場合などには, 8.5%未満を目標とすることも許容される.
注3) 糖尿病罹病期間も考慮し, 合併症発症・進展阻止が優先される場合には, 重症低血糖を予防する対策を講じつつ, 個々の高齢者ごとに個別の目標や下限を設定してもよい.65歳未満からこれらの薬剤を用いて治療中であり, かつ血糖コントロール状態が図の目標や下限を下回る場合には, 基本的に現状を維持するが, 重症低血糖に十分注意する.グリニド薬は, 種類・使用量・血糖値等を勘案し, 重症低血糖が危惧されない薬剤に分類される場合もある.
高齢の方では、年齢や認知機能・身体機能、併存疾患、重症低血糖のリスク、推定される余命などが様々であり、一律の目標設定が困難です。
また、低血糖のリスクがある薬を使用する中で血糖コントロールを厳しくすることは、前述の通り高齢者では特に危険であり、血糖を下げすぎないように目標の下限値を決めることが適切と考えられます。これらの考え方をもとに、2016年に高齢者糖尿病の血糖コントロール目標が作成されました。
治療目標は、年齢,罹病期間、低血糖の危険性、サポート体制などに加え、高齢者では認知機能や基本的ADL、手段的ADL、併存疾患なども考慮して個別に設定されます。
 
●熊本スタディ、 J-DOIT3の復習
熊本スタディは、1日4回注射の強化インスリン療法による厳格な血糖コントロールにより血糖値をより正常に近づけることで、糖尿病の合併症を抑制できるかを検討した前向き試験です。
対象患者には一次予防(腎症、網膜症ともなし)群と二次予防(単純網膜症あり、24時間の尿中アルブミン排泄量300mg未満)群の両方が含まれていましたが、
熊本スタディで明らかになった解析結果は両方の群で厳格な血糖コントローをして血糖値を正常に近づけることで糖尿病の合併症の発症と進展を抑えられるということでした
 
J-DOIT3は高血圧または高脂血症のある2型糖尿病患者さんを対象に、従来のガイドラインに沿った従来療法または、従来の治療法よりも目標をより厳しく設定した強化療法のどちらかを受けていただき、どちらが糖尿病に伴う大血管症(心筋梗塞や脳卒中)の発症や進行を防止できるかどうかを調べることを目的としています。
解析結果は、強化療法では介入期間中の主要評価項目(心筋梗塞・冠動脈血行再建術・脳卒中・脳血管血行再建術・死亡)の発症がおおいに抑制され、特に脳血管イベントについては58%有意に抑制されたということです。
 
【HbA1cの目標値まとめ】
ADAでの個別化した目標HbA1c値設定の基本方針を示している表の方が簡潔明瞭ですが、日本でも欧米でも共通して言えることは、糖尿病の合併症を考慮して7%未満を目標として治療方針を進めていき、低血糖のリスクも考慮してより厳格なHbA1cを目指せる方はより厳格な治療を進め、高齢やインスリンなどのリスクのある方はより緩めなHbA1cを設定していくという点です。
 
 
目標HbA1cが決まったところで次に治療方針についてです。
次回は欧米と日本、それぞれの治療方針についてまとめていきます。
 

2023-11-10 13:29:59

コメント(0)

糖尿病学会より日本人における2型糖尿病のアルゴリズム⑤ ~欧米での目標HbA1c値設定~

糖尿病学会より日本人における2型糖尿病のアルゴリズム⑤
~欧米での目標HbA1c値設定~
2023年10月
猪岡内科
糖尿病療養指導士 中村郁恵
 
糖尿病のアルゴリズムでは“‌日本と欧米の 2 型糖尿病に対する治療戦略の違い”について前回までにお話ししたように欧米人の2 型糖尿病の多くはインスリン抵抗性が主たる病態ですが、日本人 2 型糖尿病はもともとインスリン分泌能が低く、インスリン抵抗性とインスリン分泌不全の程度に個人差があることが特徴でした。
今年改定された部分も含めて欧米と日本での目標とするHbA1cの決め方や治療法の違いについて話していきたいと思います。
これから糖尿病を治療しようとする患者さんにはまず目標となるHbA1cの設定をします。
 
【欧米での目標HbA1c値設定】
 ADAでの個別化した目標HbA1c値設定の基本方針は下の図のようになっています。

1ページの表をご覧ください。
目標となるHbA1cは7%を基準にして、上から順に低血糖や薬物副作用のリスク、罹患期間、余命、重大な併存疾患、血管合併症、患者の志向、経済面も含めた資源や支援の体制を考慮しながら個別に設定します。
例えば、低血糖のリスクが少なく、罹患期間も短くて、合併症も少なくて、年齢が若い患者さんには目標となるHbA1cを低めに設定します。
反対に、高齢で罹病期間が長くて合併症があり、低血糖時にリスクのある患者さんには目標となるHbA1cを緩めに設定します。
欧米での目標HbA1c値設定はとてもシンプルでわかりやすいのが特徴です。
 
近年では徐々に自己血糖測定器や持続グルコース測定器が進化と普及したことでtime in range(TIR)という指標がさらに重視されています。

米国糖尿病学会によると、time in rangeとは“血糖値の目標範囲”のことです。
一般的に70〜180 mg / dlで、これには食前と食後の血糖測定値が含まれます。
連続血糖モニター(CGM)や自己血糖測定を行っている人は身近な話かもしれません。
目標となる血糖値の範囲が70〜180 mg / dlですので、次のステップは、自分の随時血糖値がこの範囲内に何パーセントくらい収まっているのかを算出してみます。
そして、目標としてクリアできそうな範囲を設定してフィードバックしていきます。
次ページの図はどれもHbA1cが7.0%の方ですが、右のグラフは低血糖もなく食後の血糖値もなだらかに見えるのに対して、左のグラフでは低血糖が頻発しており食後の血糖値も高くなっていますね。
できるだけ右側のグラフに寄せられるように、食後の高血糖や低血糖を補正して平坦になるような治療目標を個別的に立てていきます。

 
特に今回のADAの改定では、低血糖頻度や重症度の指標となる
time below range(血糖70mg/dL未満の時間が4%未満目標)の意義が強調されています。
 
【グルコーススパイクについて】
血糖値の数値の乱高下の波を“グルコーススパイク”と呼びます。
上のグラフをみると、一番左の血糖の波が激しく、一番右の血糖値の波が平坦なことがわかります。
この数値は健康診断などではわからず、連続血糖モニター(CGM)や自己血糖測定を行っている人などはご自身で把握することができます。
 
グルコーススパイクは、インスリンの分泌が大きく影響しています。
インスリンを分泌する能力が衰えると、分泌量が減ったり、分泌するタイミングが遅くなったりします。
すると、細胞がブドウ糖を取り込むことができず、血糖値の急激な上昇を招きます。さらに急上昇した血糖値を抑えるために、後からインスリンが大量に出てしまうと、今度は血糖値の急降下を招きます。
 
 
ところが、食後血糖値の検査は一般的ではないので、糖質の多い食品を大量に一気に食べ、我が身に血糖値スパイクが起こっているかもしれないことを、ほとんどの人が気づいていません
グルコーススパイクが起きると血管の中ではどのようなことが起こるのでしょうか。

グルコーススパイクが起こると、活性酸素が大量に発生し、血管内皮細胞を傷つけます。傷ついた血管を元に戻そうと、免疫細胞が血管壁に張り付き中に入り込みます。
この免疫細胞により血管の炎症が治まれば修復されますが、治まらなければ免疫細胞の死骸や修復材料のコレステロールなどが酸化して、酸化型コレステロール(=超悪玉コレステロール)ができます。これが、血管内壁に付着し、盛り上がり、血管の内壁が硬くなる動脈硬化となります。
動脈硬化が進むと、血管が狭くなり詰まってくる状態になると、心臓や脳に十分な酸素などが供給されなくなり、心筋梗塞、心不全や脳梗塞などを引き起こします。この機序についてはそのうち深堀します。
 
time in rangeではできるだけ平坦な血糖値を目指すことが新たに重要な指標として強調されているのは、動脈硬化の観点からも大切なことだと考えられます。
 

2023-11-10 13:21:51

コメント(0)

糖尿病学会より日本人における2型糖尿病のアルゴリズム④

糖尿病学会より日本人における2型糖尿病のアルゴリズム④
2023年9月
猪岡内科
糖尿病療養指導士 中村郁恵
 
先月は日本人と欧米人の 2 型糖尿病の病態では、欧米人は主にインスリン抵抗性が多い病態なのに対して、日本人は遺伝的にもインスリンの分泌能の低下が関わっているという違いがありました。
このような結果を踏まえて、果たして患者さんご自身はどちらのタイプの糖尿病なのか?それぞれの特性に合った薬剤はなにか?の見方について解説していきたいと思います。
 
【糖尿病の検査】
糖代謝の変動をあらわす検査結果の指標としては、血糖値HbA1cがあり、当院ではほぼ毎月血液検査をして変動を診ておりますが、
インスリン分泌能やインスリン抵抗性の程度を示す指標としてあげられる検査にはHOMA-β HOMA-IRと呼ばれる項目があります。
 
【HOMA-β HOMA-IR
HOMA-β(=homeostasis model assessment for β cell function)
HOMA-IR(=homeostatic model assessment insulin resistance)
こちらの2つの指標が 一般的にはインスリン抵抗性、インスリン分泌能の評価でよく用いられていますが、この指標は本当に歴史が古く、 1979年にイギリスのオックスフォード大学のターナー教授によって提唱されています。
 
空腹時のインスリン値と血糖値を掛け算するもので、今や世の中で広く認められた指標なのですが、初めて出てきたときは、オックスフォード大学で体の糖代謝をコンピュータのシュミレーション装置で計算されていました。
それによって非常に難しい計算をして 出していました。
ところが、そのうちに弟子のマシュー先生が、プロットしてみると一定の曲線上に乗るので、最初は対数曲線上にプロットした数式を提唱されました。
しかし、提唱された数式が、実は変形させると、単なる掛け算で表せるのだと いうことをテキサス大学のハフナー先生が言い出して、臨床的にも使いやすい指標として広まりました。
 
●HOMA-β(=homeostasis model assessment for β cell function)は、インスリン分泌能を評価するための検査です。
 
空腹時の血糖値と血中インスリン濃度(IRI)を測定し下の計算式にあてはめます。
 
 
100%が健常白人の基準です。
明確な基準があるわけではありませんでしたが、もともと白人よりもインスリン分泌能が低い日本人では40%-100%が基準値と判断されている文献が多かったです。
HOMA-βが30%切ってくると軽度インスリン分泌能が低下しているという判断になり、15%を切ると明らかなインスリン分泌能の低下、10%未満ではインスリン廃絶の証明値、3%未満では1型糖尿病に多いインスリン能枯渇の状態と判断されます。
足りていないホルモンを補うインスリン療法導入の指標にしています。
HOMA-βは空腹時血糖値130㎎/dL以下の場合に信頼度が高いとされています。
また、インスリン補充療法中の方の場合には正確な血中インスリン濃度が測定できないため、違う検査項目をみていきます。
 
●HOMA-IR(=homeostatic model assessment insulin resistance)
HOMA-Rはインスリン抵抗性を評価するための検査です。
空腹時の血糖値(FBS)と血中インスリン濃度(IRI)を測定し計算式にあてはめていきます。
 
健常白人のインスリン抵抗性を1としており、1.1以上で軽度インスリン抵抗性と判定されます。HOMA-Rが2.0以上なら明らかなインスリン抵抗性ありと判断されます。
 
HOMA-Rは空腹時血糖値140mg/dL以下で信頼度が高いと言われています。
また、こちらもインスリン補充療法中の場合には正確な血中インスリン濃度が測定できないため使用できません。
 
 
●インスリンを使用している人
インスリン補充療法中の方の場合には正確な血中インスリン濃度が測定できないため、代わりに“Cペプチド”という検査項目をみていきます。
 
Cペプチド
Cペプチドは、膵臓からインスリンが分泌されるときにインスリンにくっついて出てくるタンパク質です。
その後、インスリンからは切り離されて、血液中を通った後に尿に出されます。実際に血糖値を下げるのはインスリンであり、Cペプチドはそのかけらのようなものです。Cペプチドの量を測ると、自分の膵臓からでたインスリンの量を推測することができます。

 
膵臓からははじめ、プロインスリンという蛋白質が出てきます。そこからCペプチドが切り離され、血糖値を下げるインスリンができます。Cペプチドはその後、尿中に捨てられてしまいます。
 
このCペプチドの値が低ければ低いほど、自分の体で作られるインスリンの量が少なくインスリン依存性が高いことがわかります。
 
さて、ご自身のインスリン分泌能やインスリン抵抗性について理解を深めたところでHbA1cの目標値の決め方についての説明に移りたいと思います。
 
 
 

2023-11-10 13:16:49

糖尿病学会より日本人における2型糖尿病のアルゴリズム③

糖尿病学会より日本人における2型糖尿病のアルゴリズム③
 
 
2023年8月
猪岡内科
糖尿病療養指導士 中村郁恵
 
前回は基礎的な糖の流れとインスリンの働きについて、インスリンの基礎分泌追加分泌、のインスリン分泌不全やインスリン抵抗性についてお話ししました。
それらを踏まえたうえで日本人向けに糖尿病のアルゴリズムが作られた背景について触れられていた日本人と欧米人の違いについて解説していきます。
 
【日本人と欧米人の違い】
日本人と欧米人のインスリン分泌能、インスリン抵抗性を比較すると、正常な状態でも日本人は欧米人と比較してインスリン分泌能が低く、欧米人は糖尿病を発症する過程において 急激にインスリン抵抗性が増しますが、日本人はインスリン抵抗性の増大に比してインスリン分泌能が低い傾向を示します。
東アジア人、白人、黒人のインスリン感受性とインスリン初期分泌を比較した研究でも、インスリン分泌能とインスリン感受性のバランスは人種により大きく異なり、東アジア人と黒人は白人よりも糖尿病になりやすいことが示されています。
 
そこで欧米人と比較して日本人のインスリン分泌能が低く糖尿病になりやすいのはなぜか?という仮説を調べてみました。
 
●理由① 昔の食文化の違いにある

 上のグラフは、ブドウ糖を口から摂取した時のインスリン分泌量を、日本人と北欧白人とで比較したものです。
同量のブドウ糖に対し、日本人のインスリン分泌量がかなり少ないことがわかりますが、その原因は、日本人と欧米人の食文化の歴史の違いにあります。
 
その昔、農耕民族だった日本人はお米など穀物中心の食事をとり、肉を食べることがほとんどないという、高炭水化物・低脂肪の食生活でした。
さらに、とても働き者だったため運動量が多く、炭水化物から得たエネルギーはどんどんと代謝されたので、全体的にやせ型で、インスリンが少量で済む生活を送ってきました。
そのため、自然とインスリン分泌量が少なくても良いという体質に進化して膵臓のβ細胞もそれに適応してきました。
 
対して、牧畜民族だった欧米人は、一度に大量の肉を食べても血糖値の上昇を抑えられるよう、十分なインスリン量が必要でした。
その結果インスリンが十分に分泌されるような体質となり、膵臓のβ細胞もそれに適応してきました。その化の過程で高カロリーに強い体質を作り上げることになりました。
 
糖分をとったときのみならず、空腹時のインスリンの出方にも差があります。
欧米人は空腹時血糖が140㎎/dlまではインスリン分泌が保たれるのに対して、日本人は空腹時血糖が125㎎/dlを超えるとインスリン分泌が落ちてしまうという違いがあるようです。
 
健康診断の通知でもよく見られる、肥満度を示す体格指数「BMI」の基準も異なり、日本人は肥満の基準が25であるのに対し、欧米では30以上に定められています。

このようにインスリンの「分泌量」が少ないのは前述のとおり、食生活や先祖が暮らしてきた背景などより日本人に遺伝的に備わった先天的素因になります。
 
●理由② 昔と現代とで食生活が変わってしまった
高度経済成長期を迎える昭和30年ごろを境に、日本人の食生活は大きく変化します。
 島国である日本は、戦前は今のように海外との行き来や文化交流をすることがほとんどなかったため、農耕生活をしながら、それに沿った食生活をし、その食生活に合った体質がつくられていきました。
 しかし、昭和20年に終戦を迎え、高度経済成長期へと突入した昭和30年ごろから、日本にも海外の文化が流入し始め、食生活は急速に欧米化していきます。肉料理を頻繁に食べるようになったため、それまでほとんど摂っていなかった動物性のたんぱく質と脂肪の摂取量が急激に増えました。

 先述のように、日本人は穀類中心の生活をし、エネルギーの8割を炭水化物から摂っていたため、インスリンの分泌が少なくて済みました。
しかし、その体質は変わらないまま、食生活は大きく変わり、さらに経済成長とともに自動車が普及したことで運動量も大幅に減らしてしまったので、糖尿病を発症してしまう人が急増しました。

そして現代では、共働き家庭の増加などで、子供が親の手料理を食べる機会が減っています。そのため、調味料などを使用せずに食材由来の成分だけで味付けした、体にやさしいだし料理などは日常的に食べられなくなり、代わりにハンバーガー、ピッツァ、牛丼など、糖質、たんぱく質、脂質を一緒に体に入れてしまうファストフードを食す機会が増えてきました。 
 また、血糖値を急上昇させないためには、時間をかけて食事をとることも大切で、日常的には会話をしながら食卓を囲む家族のだんらんがその機能を果たしていますが、今の日本では孤食が進んだうえ、勤勉で効率を好む日本人には、食事の時間をなるべく短くして、仕事や学業、遊びに充てようとする人も多いため、食事時間はますます短くなる傾向にあります。
 こういった背景により、大人はもちろん、子供の糖尿病患者も増えています。
 
まとめ
このような先祖の時代から進化し続けてきた元々持っている遺伝子に加えて現代での食生活の変化が、より日本人の糖尿病を発症させやすくしています。
 

2023-11-10 13:07:04

糖尿病学会より日本人における2型糖尿病のアルゴリズム②

糖尿病学会より日本人における2型糖尿病のアルゴリズム②
2023年7月
猪岡内科
糖尿病療養指導士 中村郁恵
 
前回はアルゴリズム作成の背景や、日本の糖尿病研究の結果について熊本スタディやJ-DOIT3についてお話ししました。
日本人向けに糖尿病のアルゴリズムが作られた背景について欧米人と日本人の違いについても述べられていたので、今月はそれを解説するうえで必要な基礎的な糖の流れとインスリンの働きについて説明します。
 
インスリンは血糖値を下げる唯一のホルモンでその分泌には基礎分泌追加分泌の2種類あります。
【インスリンの基礎分泌】
基礎分泌とは下の図参照のように、空腹時の血糖値を正常域(おおよそ70-110㎎/dlの範囲)に保つために常に分泌されているものです。
●空腹時寝ているときのインスリンの働き


肝臓からのブドウ糖の供給と脳や全身の細胞での消費がつり合い血糖値は70-110㎎/dlの範囲に保たれています。膵臓からは常に少量のインスリン基礎分泌がされています。
【インスリンの追加分泌】
追加分泌とは食事により上昇した血糖値を低下させるために分泌されるものです。ブドウ糖が細胞の中に取り込まれるのはインスリンの作用によります。
 食事をすると小腸から栄養素が取り込まれ門脈という血管に流れ込みます。栄養素の中でもごはん、パン、うどんなどに多く含まれる炭水化物がブドウ糖に分解されて血糖値が上がります。
血中のブドウ糖が増加すると、それを感知した膵臓のランゲルハンス島にあるβ細胞からただちにインスリンの追加分泌が起こります。そして門脈中のインスリン量がふえて肝臓のブドウ糖の取り込みが増加し、肝臓の中でグリコーゲンに変化して蓄えられます。
●食事をした時のインスリンの働き

食事をして炭水化物がブドウ糖に分解されると小腸で吸収されて血液に入り血糖値が上がります。そうするとインスリンの追加分泌が起こります。
インスリンの作用で肝臓にブドウ糖が取り込まれ、グリコーゲンとして蓄えられます。
肝臓に取り込み切れないブドウ糖は肝臓を通り抜けて血液中に流れます。それにより血糖値が上がり、さらにインスリンの追加分泌が起こります。
 
血液中のブドウ糖は、インスリンの働きで筋肉に入りエネルギーとして利用されたり、グリコーゲンとして貯蔵されたりします。同じくインスリンの働きで脂肪細胞に入り中性脂肪として貯蔵されたりします。
このようなことがスムーズに行われると血糖値は速やかに食前の値に戻ります。
 
すべてのブドウ糖が肝臓に取り込まれるわけではなく、一部のブドウ糖は肝臓を通り抜けて全身の血液中に流れて、インスリンの作用により筋肉や脂肪組織に取り込まれて、最終的に食事前の血糖値に戻ります。
 

このような糖の流れとインスリンの働きにより通常では血糖値は一定に保たれています。これらの過程でうまくインスリンが働かずに糖の取り込みができなくて高血糖になってしまった状態が糖尿病ですが、主な原因はインスリン分泌の低下や、インスリン感受性の低下(インスリン抵抗性)の2つあります。
 
 
【インスリン分泌不全】
1型糖尿病の場合は、主に自己免疫(自分自身の細胞を異物として排除しようとしてしまう事)が原因で、インスリンを産生する膵臓のランゲルハンス島のβ細胞が破壊され、インスリンの基礎分泌と追加分泌の両方が低下・消失しています。
 

 2型糖尿病の初期では、インスリンの基礎分泌は正常人と同様か、インスリン抵抗性のため軽度に増加しています。
そして、追加分泌の遅延や低下のために食後高血糖を生じています。
上がってしまった血糖値を正常域に戻そうとしてインスリンの分泌細胞に負担がかかります。それが、長く続くと膵臓のβ細胞が疲弊してしまい機能が落ちてきます。

そしてグラフに示すようにβ細胞機能が約50%程度に落ちた時点で2型糖尿病を発症します。その後、経過年数とともにインスリン分泌不全が進行していく過程をたどります。
 
【インスリン抵抗性】
インスリン抵抗性とは血液中にあるインスリンの濃度に見合ったインスリンの働きが得られない状態と定義されています。この原因としては、インスリンの作用を弱めるインスリン拮抗物質の存在や、インスリンを受け取る受容体の減少、インスリン受容体を介する細胞内への情報伝達能力が低下した状態などが考えられます。
インスリン抵抗性を引き起こしてしまう主な原因は、生活習慣です。肥満による内臓脂肪の増加や高脂肪食などによる筋肉・肝臓・脂肪組織でのインスリン感受性の低下、運動不足などがあります。インスリン抵抗性があるとインスリンを大量に分泌しないと血糖値が正常域まで低下しなくなります。

 
このようにインスリン分泌低下やインスリン抵抗性をきたす複数の遺伝因子に過食、運動不足などの生活習慣、その結果としての肥満が環境因子 として加わりインスリン作用不足を生じて2 型糖尿病が発症します。
 
 
 

2023-11-10 12:46:05

糖尿病学会より日本人における2型糖尿病のアルゴリズム① 

糖尿病学会より日本人における2型糖尿病のアルゴリズム① 

2023年6月
猪岡内科
糖尿病療養指導士 中村郁恵
 
2 型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム
世界の糖尿病人口の 3 分の 1 はアジア地域に集中しています。
そして、世界の糖尿病患者さんの傾向とアジア地域の糖尿病患者さんの傾向を比較したときに、最も大きな違いがあります。
それは、糖尿病のある人の肥満の程度を含めた病態が大きく異なっていることです。
 
2022年糖尿病学会より「2 型糖尿病治療アルゴリズム」 が発表されました。
少し医療者目線の話題になってしまいますが、スタッフが糖尿病学会に参加して勉強してきたことを皆さんにもお伝えしたいと思っています。
世界とアジア地域の違いや、アルゴリズムが発表された背景と日本においての糖尿病治療の研究結果を示す熊本スタディ、J-DOIT3の概要についてまとめました。
 
【アルゴリズム作成の背景】
アルゴリズムが作成された背景として,3 つのことが挙げられます。
1 つ目は、欧米人と日本人の糖尿病の病態の違いです。
欧米人においてはインスリン抵抗性主体の肥満糖尿病、いわゆる「太っていてTHE生活習慣病です」という見た目の方が多いのに対し、日本人では肥満と非肥満が半々で、インスリン分泌低下と抵抗性の程度が個人毎に異なっています。「痩せているのに糖尿病」という人が欧米よりも多い印象を受けます。
 
2つ目は、欧米と日本の2型糖尿病の治療戦略の違いです。
欧米では 先ほども述べたようにインスリン抵抗性主体の肥満糖尿病が多いことを踏まえて、2021 年度版まで、初回処方薬としてビグアナイド薬(メトグルコ)が推奨されてきました。
また併存症、特に動脈硬化性心血管疾患、腎機能障害、心不全に対して有効性を示す薬剤の推奨を優先してきました。
一方、我が国においては、学会で発表されている
熊本スタディ (Diabetes Res Clin Pract. 28:103-117, 1995)」や
「J-DOIT3(Lancet Diabetes Endocrinol. 5:951-964, 2017)」等の結果も踏まえて(後述します)、血糖マネジメント及び血糖をはじめとする多因子介入 が合併症抑制に重要で、これらを踏まえてそれぞれの患者さんを診てどのクラスの糖尿病治療薬を使用するかを決定することが推奨されてきました。
 
3つ目として、National Database の解析により日本の 2 型糖尿病の初回処方の実態が実際に欧米とは大きく異なることが明らかになったことが挙げられます。
高齢化社会の日本では、高齢者へのビグアナイド薬(メトグルコ)に関する注意喚起が広く浸透しており、それに伴い高齢者には DPP-4 阻害薬 が選択される傾向が認められました。
一方で、糖尿病学会非認定教育施設では初回処方にビグアナイド薬が一切使われない施設が 38.2 %も存在したことより、2 型糖尿病治療アルゴリズムを作成する必要があると考えられました。
 
我が国における 2 型糖尿病治療アルゴリズム作成のコンセプトとして、糖尿病の病態に応じて治療薬を選択することを最重要視し、エビデンスと我が国における処方実態を勘案しています。
 
●熊本スタディの要約
熊本スタディとは
2型糖尿病患者を対象に、1日4回注射の強化インスリン療法による厳格な血糖コントロールにより血糖値をより正常に近づけることで、糖尿病の合併症を抑制できるかを検討した前向き試験です。
対象患者には一次予防(腎症、網膜症ともなし)群と二次予防(単純網膜症あり、24時間の尿中アルブミン排泄量300mg未満)群の両方が含まれていましたが、
熊本スタディで明らかになった解析結果は両方の群で厳格な血糖コントローをして血糖値を正常に近づけることで糖尿病の合併症の発症と進展を抑えられるということでした
 
●J-DOIT3の要約
J-DOIT3(Japan Diabetes Optimal Integrated Treatment study for 3 major risk factors of cardiovascular diseases の略称:ジェイ・ドゥイットスリー)は、厚生労働省の研究事業として実施される臨床試験です。
 
高血圧または高脂血症のある2型糖尿病患者さんを対象に、従来のガイドラインに沿った従来療法または、従来の治療法よりも目標をより厳しく設定した強化療法のどちらかを受けていただき、どちらが糖尿病に伴う大血管症(心筋梗塞や脳卒中)の発症や進行を防止できるかどうかを調べることを目的としています。
従来療法と強化療法の管理目標は下の図の通りです。


「J-DOIT3」で明らかとなった主な解析結果として、強化療法では介入期間中の主要評価項目(心筋梗塞・冠動脈血行再建術・脳卒中・脳血管血行再建術・死亡)の発症が19%抑制された。また、喫煙情報などの危険因子での補正を行なうと、発症は24%抑制されるという結果でした。
 さらに事後解析では脳血管イベント(脳卒中・脳血管血行再建術)に関しては、強化療法で58%有意に抑制されていた
 また、強化療法では糖尿病特有の合併症として腎症の発症・進展を32%抑制し、網膜症の発症・進展を14%抑制されました。
 

 
結果をまとめると、現行のガイドラインにそった治療でも2型糖尿病の合併症を抑制できるが、強化療法により厳格な治療を行なうことで、脳梗塞や心筋梗塞糖尿病固有の合併症(腎臓、眼)の発症をさらに抑えれることを示しています。
 
まとめ
アルゴリズムの背景として、日本人と欧米人の違いやそれに伴う治療方法の違いについて、日本人を対象として行われている糖尿病研究について紹介しました。まずは、従来のガイドラインの目標値を目標として治療を進めて低血糖などを起こさない範囲で目標が達成できたら、よりよい状態を保つために強化療法に進むと様々な合併症の予防に効果的であるという事です。
次回はインスリンの分泌についてです。
 
 
 

2023-11-10 12:41:02

コメント(0)

  • 件 (全件)
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
ページトップへ