猪岡内科コラム
体にいい油をとろう
~あまに油・えごま油のマヨネーズとドレッシング~
2025年2月
猪岡内科
糖尿病療養指導士 中村郁恵
先月、先々月と紹介してきた
「あまに油、えごま油」ですが、あぶらのほかにもドレッシングやマヨネーズの市販品があることを知っていますか?
【えごま油・あまに油の市販品について】
最寄りのスーパーではあまに油、えごま油のボトルのほかに、それらの入ったドレッシング、マヨネーズがありました。
オメガ3系の油は“熱や酸化に弱い”というイメージがあったのですが
ドレッシングやマヨネーズを作る過程で油を乳化させたときや加工するときに果たしてオメガ3は酸化せずに形態を維持できているのか?
というところを製造メーカー「キューピー」にインタビューしてみました。
メーカーからの回答は以下の2点です。
- 製造過程で酸素を除去する技術
- ボトルの中で酸素を吸着するしくみ
このような技術がドレッシングやマヨネーズを作る過程に組み込まれていることで、通常のオメガ3系油と同じく「開封後1か月の賞味期限」は鮮度が保たれているという回答でした。
また、オメガ3系のあぶらは
“熱に弱い性質”ですが、むしろマヨネーズに関しては、「オーブン焼きなどで熱を加えても、
マヨネーズが分離せずに形状が残っている部分では、オメガ3の効果は維持できる」とのことでした。
【市販品のアマニ油えごま油マヨネーズ】
マヨネーズやドレッシングは、油のほかに卵お酢やお砂糖が含まれます。
また、原材料名をみると複数の油の名前が記載されています。
ここでの疑問点は
- どのくらいオメガ3系の油が含まれているのでしょうか?
- そして、それは1日に必要なオメガ3系摂取量を満たしてしるのでしょうか?
調査してみました。
【マヨネーズ編】
1 ニップンのあまに油入りマヨネーズ
大さじ1杯 15gあたりの
αリノレン酸 1.7g
含まれている油 なたね油、アマニ油(アマニ油の含有率14%)
2 キューピーのあまに油マヨネーズ

大さじ1杯 15gあたりの αリノレン酸 2.6g
含まれている油 なたね油、アマニ油、大豆油(アマニ油の含有率17%)
3 創健えごまマヨネーズ

大さじ1杯 15gあたり α-リノレン酸=2.4g
含まれている油 えごま油、べにばな油、なたね油(アマニ油の含有率16%)
4 手作りマヨネーズの場合
〇材料 100g
お酢 大さじ1/2
卵の黄身 1個分(20g)
塩 小さじ1/4
あまに油、(またはえごま油) 80ml(72g)

〇作り方
< >卵の黄身、お酢、塩をいれてよくかき混ぜるあまに油(またはえごま油)を少しずつかき混ぜて、すべていれおわったら完成。
賞味期限は当日中です。〇決して混ざることのないお酢と油が黄身を加えることで乳化して混ざり合いマヨネーズになります。
αリノレン酸60%で計算した場合の含有率は 44%
大さじ1杯 15gあたのαリノレン酸=6.6g
手作りのマヨネーズはすべてオメガ3系の油で作ることができるので、高い含有率を占めることができました。
【考察】
全ての市販品マヨネーズは、なたね油やだいず油などの“あまに油、えごま油以外の油”も含まれています。
オメガ3系の油を100%使用した
「手作りマヨネーズ」と比較すると(αリノレン酸が44%)市販品マヨネーズのオメガ3系含有率は14~17%という結果でしたが、ここである疑問が生まれます。
「なぜ、オメガ3系以外の油を混ぜているのか?」
メーカーからの返答をまとめると
・コスト ・風味の問題 ・1日のオメガ3系油の摂取目安量 の3つでした。
オメガ3系の油はなたね油に比較して少し風味があるので、それらをまぜることによって風味を調節して食べやすくして、同時にコスト面の問題も解決しているのでしょうね。
また、摂取量に関しては、
厚生労働省が推進する日本人の食事摂取基準2020年版の中では
「n−3脂肪酸の摂取目安量は1日最大2.2g」としています。
これをもとに、「マヨネーズの1食分である15gに含まれるαリノレン酸の量をみてみると
・
キューピーのアマニ油マヨネーズ
・創健のえごまマヨネーズ
摂取目安量を超えているものは上の2つでした。
【まとめ】
市販されている「あまに油、えごま油マヨネーズ」についてまとめました。
手作りの方がたくさんのαリノレン酸をとれるメリットがありますが、市販品のほうが賞味期限が長くお手軽につかうことができますので生活スタイルに合わせて使い分けてみてください。
2025-01-22 13:14:05
体にいい油をとろう
~あまに油・えごま油のレシピと豆知識~
2025年1月
猪岡内科
糖尿病療養指導士 中村郁恵
新しい年が始まりました。みなさま、今年もよろしくお願いいたします。
先月号でえごま油、あまに油の市販品の実際について特集したので今月は雑学コラムとレシピについて載せたいと思います。
【αリノレン酸のコラム】
αリノレン酸は魚油ではなく、限られた植物の種子(亜麻、えごまなど)に多く含まれる脂肪酸で、その内の1割が体の中でDHA・EPAに変化することで知られています。

その1割という数字は低いように感じますが、αリノレン酸からEPA DHAへの変換について調べてみると次のような見解がありました。
・EPA、DHAには、身体に必要な適切量が変換されるという説
・日本人は遺伝子の問題で、不飽和化酵素の働きが弱いため、α-リノレン酸からEPA、DHAに変換される量は少ないのではないかという説
日本は周囲を海で囲われています。
昔の生活の中では海産物を食べる機会が多く、EPA・DHAに関しては、α-リノレン酸から変換されなくても、摂取することが可能でした。
そのため、変換能力が衰えたと考えている方もいました。(憶測です)

はっきりとは、まだ解明されていませんがとても興味深いですね。
えごま油、あまに油のそれぞれのおすすめレシピを紹介します。
【えごま油を使ったレシピ】
和風ツナトマトサラダ
●材料 2人分
中玉トマト 1つ(ミニトマト 5つ)
きゅうり1本
ツナ缶 1つ
めんつゆ 適量
えごま油 小さじ2杯
- きゅうりは塩もみして水気をよく切る
- トマトを一口サイズにしてツナ、きゅうりとあえる
- めんつゆえごまあぶらで味を付けたら完成

【あまに油を使ったレシピ】
あったか 具だくさんコンソメスープ
●材料 2人分
キャベツ 1つかみ
人参 1/4本
ウインナー 2本
コンソメ1粒
水 適量
あまに油 小さじ2杯
- キャベツ、ニンジン、ウインナーは1口サイズに切ります。
- コンソメ1キューブと10分ほど一緒に煮込みます。
- 器によそったら、食べる前にあまに油をたらして完成

【ポイント】
オメガ3は熱に弱いです。えごま油やアマニ油に含まれる「α-リノレン酸」は熱に弱く酸化しやすいため、食事に取り入れる際は一緒に煮込んだりせずに、
食べる直前に垂らすことでより多く吸収することができます。
サラダやスープなどにそのままかけて食べるのがおすすめです。
【あぶらと相性のいい野菜】
えごま油とあまに油と相性の良い野菜についてお伝えします。
これらの野菜は、油の風味を引き立て、栄養価を高める組み合わせとしておすすめです。
えごま油との相性が良い野菜
- ほうれん草:えごま油と組み合わせることでビタミンKや鉄分の吸収を助けます。えごま油の軽いナッツのような風味が、ほうれん草のほろ苦さとよく合います。
- ブロッコリー:ビタミンCと食物繊維が豊富なブロッコリーは、えごま油の軽い風味とバランスが良く、栄養価を補完し合います。
- トマト:トマトの酸味がえごま油のナッツの風味を引き立てます。また、トマトには抗酸化作用のあるリコピンやビタミンA,Eが含まれているので、油と一緒に食べることで吸収がアップして抗酸化作用に働きかけます。
アマニ油との相性が良い野菜
- ケール:ケールはビタミンA、C、Kが豊富で、アマニ油のややスパイシーな風味と相性が良いです。
- 人参:人参はβカロテンが豊富で栄養素の吸収を助けます。
また、ニンジンの甘みがアマニ油の独特な風味を和らげてくれるのでスープやサラダやスムージーに加えるのもおすすめです。
- アボカド:アボカドのクリーミーな食感とアマニ油のナッツ風味が絶妙にマッチします。アボガドには抗酸化作用のあるビタミンEが含まれているのでオメガ3脂肪酸と健康脂肪の組み合わせで、心血管系の健康に良いとされています。

【えごま油、アマニ油の摂取目安】
1日に必要な「オメガ3 」の目安は
1日小さじ1杯です。
これは魚で例えるとアジ約3匹分に相当します。毎日魚を食べることが理想ですが、魚を食べられないときはえごま油やアマニ油などの健康オイルでオメガ3を補ってみましょう。
【まとめ】
・えごま油あまに油からとれるαリノレン酸の約1割が体の中でEPAに変化します。
・オメガ3系は熱に弱いという特徴があります。サラダなどの熱を加えないお料理や、温かいお料理のうえに垂らして食べることがおすすめです。
・相性のいい野菜もあるため、献立を考えるときの参考にしてみてください。
今年もみなさまの健康と幸せを願っております。寒い毎日が続くので暖かくしてお過ごしください。
2025-01-22 13:05:12
体にいい油をとろう
~あまに油・えごま油の市販品~
2024年12月
猪岡内科
糖尿病療養指導士 中村郁恵
【前回のまとめ】
動脈硬化の反応は「炎症」と密接な関係にあります。
「炎症反応に関与するアラキドン酸を生成するリノール酸」を含む
オメガ6系のあぶらをとり過ぎないようにして、
「抗炎症作用のあるα-リノレン酸、EPA、DHA」オメガ3系のあぶらとって食生活のバランスをとりましょう。
主な種類は、
オメガ6(大豆油、サラダ油、なたね油、コーン油)
オメガ3(アマニ油、えごま油、青魚)
もっと詳しく知りたい方は、8月号にも詳しく記載しています。
【前回の補足】
前回のページ3にある表について①トロンボキサンA3、②トロンボキサンA2についての補足があります。
- トロンボキサンA3は、先月号3ページ表の左側EPAから生成されるエイコサノイドの一種です。トロンボキサンA3は、トロンボキサンA2と比較して血小板凝集作用が弱く、血管拡張作用が強いことが知られています。そのため、トロンボキサンA3の生成が増えると、血栓形成のリスクが低下し、心血管系の健康に良い影響を与えるとされています。
また、トロンボキサンA3は炎症抑制作用も持っており、EPAの摂取が増えると体内での生成が促進され、炎症性疾患のリスクが減少することも期待されています。
②トロンボキサンA2の生成はアラキドン酸が関与しています。
トロンボキサンA2には血液凝固と血管収縮を促進する役割があります。これにより、出血を防ぐ効果がありますが、過剰になると、
血栓症や心血管系の問題のリスクが高まりますが動脈硬化はこの過剰なトロンボキサンA2が関与しています。体内に関与しているアラキドン酸はオメガ-6脂肪酸の一種ですが、これが酸化されることでトロンボキサンA2が生成されます。
補足のまとめ
高い抗炎症作用を持つオメガ-3脂肪酸と比較して、オメガ-6系の脂肪酸は炎症を促進する傾向があります。バランスの取れた摂取を心がけましょう。
オメガ3、オメガ6の関係がみえてきたところで
今回は
スーパーで見つけた「αリノレン酸」の各メーカーの特徴につてランキング方式で載せたいと思います。
【スーパーで見つけたαリノレン酸】
市販でαリノレン酸が豊富に含まれているえごま油、アマニ油があります。
実際にスーパーに行って①
メーカーの種類と②値段と③含有率を調べてみました。用途に合わせたランキングも用意しました。
●アマニ油編 3つ
①メーカー
日清オイリオ アマニ油
産地 カザフスタン、ロシア
②値段
50g299円(100g=598円)
145g699円(100g=482円)
320g1690円(100g=528円)
③含有量
小さじ一杯 4.6gあたりαリノレン酸2.5g
ニップン アマニ効果
産地 カナダ
②値段 180g 799円(100g=478円)
③含有量 4.6g あたりαリノレン酸2.76g
フラットクラフト アマニ油
産地 イタリア
②値段 320g 899円(100g=303円)
③含有量4.6gあたり2.2~3.0g
3つのメーカーの亜麻仁油、それぞれどんな特徴があるかランキング方式でまとめてみました。
【生産地について】
日本ではあまり亜麻仁油の生産はされていないため各メーカーの産地について調べてみました。
カナダ: 世界最大の亜麻仁油の生産国の一つで、高品質の製品が多いです。
カザフスタン: 広大な農地と適した気候条件により、亜麻の栽培が盛んです。輸出も盛んであり、国際市場での評価も高いです。
ロシア: 亜麻の伝統的な生産国の一つで、特に北部地域での栽培が盛んです。品質も良好です。
イタリア:イタリア産の亜麻仁油は、特にトスカーナ地方で生産されており、その品質は世界中で評価されています。
【結果】どの産地の油も品質が保たれているようです。産地によって香りのつよさなどが異なるため、お試して好みの違いをみつけてみてください。
●えごま油編 3つ
①メーカー 日清オイリオ 有機えごま油
産地 アメリカ・イタリア 国内製造
②値段145g 990円(100g=732円)
- 含有量4.6g あたりαリノレン酸2.5g

- メーカー 紅花食品 荏胡麻油
産地 北海道
②値段170g 799円(100g=507円)
産地 静岡県
②値段170g 849円(100g=538円)
③含有量 4.6g あたりαリノレン酸2.76g

えごま油は国内産のものが多くマイルドと言われています。
来月は具体的なえごま油、亜麻仁油を使ったレシピを特集します。
みささま、今年も大変お世話になりました。
あたたかくして良いお年をお迎えくださいね。
2025-01-22 11:28:33
体にいい油をとろう
~オメガ3系の相関~
2024年11月猪岡内科
糖尿病療養指導士 中村郁恵
前回は「体にいいあぶら」といわれているオメガ3系の中の「EPA・DHA」について、それらの含有量が多い魚を選ぶ時の共通点で
“青魚”がキーポイントになること、料理する過程でEPA・DHAがこぼれ落ちてしまうので、
調理法によって摂取できる割合が違うことついてまとめました。
今回は同じくオメガ3系に含まれる
「α-リノレン酸」についてEPA・DHAとの違いやその特徴について解説していきます。
【オメガ3系それぞれの特徴】
α-リノレン酸(ALA)
- 由来: 植物由来(亜麻仁油、えごま油などにふくまれる)
- 体内での役割:α-リノレン酸は体内でEPAやDHAに変換されますが、その変換率は低いです。
一般的に、ALAから
EPAへの変換率は約5-10%、DHAへの変換率はさらに低く、1-5%程度とされています。
エイコサペンタエン酸(EPA)
- 由来: 魚油(青魚に多く含まれる)
- 体内での役割:血液をサラサラにし、血栓を予防する効果が高いです。
- 効果:心血管系の健康維持、抗炎症作用が期待できます。
ドコサヘキサエン酸(DHA)
- 由来: 魚油(青魚に多く含まれる)
- 体内での役割:脳神経系の健康維持に重要で、脳の発育や認知機能の向上に寄与します。
- 効果:記憶力向上、認知症予防に効果が期待できます。
【EPA DHAの特徴】
脳への働きはDHAが、血小板凝集効果はEPAがそれぞれ得意としています。EPAは、脳血液関門といわれる、脳への入り口を通り抜ける事ができません。しかしDHAにはそれが可能で、
神経細胞の膜の材料になり、脳神経を活性化し、記憶力の向上などの効果が期待できます。
そのため、幼児期の脳の発達を促す段階や、更年期以降では脳の衰えを予防するために積極的に摂取することが望ましいです。
EPAは、血小板凝集抑制効果が非常に高く、心筋梗塞や、虚血性心疾患の予防効果が非常に高いといえます。DHAも効果は持っていますが、EPAほど高くはありません。
また、EPAは脳の血流を改善し、脳梗塞の発生を予防する効果があると期待されています。
【αリノレン酸の働き】
DHA・EPAは血液サラサラ効果のような似ている働きもある一方で、それぞれ得意とする部分が違っていましたが、同じオメガ3のαリノレン酸はどうなのでしょうか?
α-リノレン酸(ALA)がEPAやDHAに変換されない場合でも、体内でいくつかの重要な役割を果たしています。
・細胞膜の構成成分
・抗酸化作用
・抗炎症作用
【オメガ3とオメガ6の相関】
オメガ3の脂肪酸とオメガ6の脂肪酸の比較で有名な図があります。

印刷で不鮮明になってしまう部分もありますが、
こちらの表のキーワードはオメガ3ファミリー(αリノレン酸、EPA、DHA)
オメガ6ファミリー(リノール酸、アラキドン酸)です。
こちらの図での要点は2つあります。
・α‐リノレン酸は体内で5つの反応をしながら、その中の1割くらいがEPA DHAとなる。
図の左側、オメガ3の場合α-リノレン酸からスタート、オメガ6の場合はリノール酸からスタートし一番下のDHA、どこサペンタエン酸まで5つの反応があります。
・α-リノレン酸とリノール酸からスタートする5つの反応は、全過程で同じ酵素が関与する。
図の真ん中にあるように、α-リノレン酸とリノール酸は、同じ酵素によって炭素数と二重結合の数を増やします。
5つの反応は、炭素の二重結合をつくる
デサチュラーゼ(desaturase)と、炭素数を2個伸ばす
エロンガーゼ(elongase)という酵素によって進みます。
desaturaseは、不飽和化するという意味です。
二重結合を作る→炭素を2個増やす→二重結合を作る→炭素数を2個増やす→二重結合を作る
炭素数18のα-リノレン酸は5つの酵素反応によって、二重結合を3つ増やし、炭素数を4個増やします。この反応で最終的にEPAとDHAができます。
【あぶらのバランスは大切】
現代の食生活は、
リノール酸ばかりとっているといわれます。すると一番上の図で右側の反応ばかり進んでしまいます。
しかし、もし、
α-リノレン酸があれば、同じ反応に使われることになり、バランスを取ることができるでしょう。
リノール酸をとり過ぎると、炭素数20の
アラキドン酸がたくさんできることになり、
アラキドン酸から炎症に関係があるプロスタグランジンがたくさんできることが問題だといわれています。
α-リノレン酸からの変換でアラキドン酸に対応しているのは、上の図を見ていただくとよく分かりますが、炭素数20の
EPAです。
プロスタグランジンは、アラキドン酸からだけでなく、EPAからも同じようにできます。
アラキドン酸から作られるプロスタグランジンが問題になるのは、炎症をひどくする働きをするからです。一方、EPAからできるプロスタグランジンは、逆に炎症を抑える働きがあります。
当院では、年に一度の動脈硬化時に行う血液検査でも
「EPA/AA比」というEPAとアラキドン酸(AA)の比をチェックしてバランスを見ています。
2024-11-15 13:34:31
体にいい油をとろう
~EPA DHA 編~
猪岡内科
糖尿病療養指導士 中村郁恵
2024年10月
前回は「グリーンランドに住んでいるイヌイットは動脈硬化を起こしにくいこと」 「その理由は“イヌイットの食生活”にあり、オメガ3系の油が関係していること」や、
「日本人はオメガ3系の油の1つであるEPAをどのくらい摂取しているか」についてまとめました。
今月は、
EPA・DHAの具体的な摂取方法についてお伝えしていきます。
まず、食事からとる方法では、
- 魚を積極的にたべること
- αリノレン酸が豊富に含まれている亜麻仁油、えごま油をとること
があげられます。
【魚の種類、部位】
【魚の調理法】
によって含まれているEPA・DHAの量が異なります。
【魚の種類と部位】
次のページに、魚に含まれるEPAとDHAの含有量を一覧表にまとめました。
EPAとDHAはマグロ、サンマ、ブリ、イワシ、サバなどのいわゆる
『青魚』に多く含まれています。
反対に、タラ、キスなどの
『白身魚』は含有量が少ない傾向です。
<魚介類100gあたりのEPA+DHA含有量(mg)>
含有量多い
|
クロマグロ(4600mg)、スジコ(4500mg)、ミナミマグロ(4000mg)、イクラ(3600mg)、ブリ(2640mg)、サンマ(2450mg)、タチウオ(2370mg)、銀鮭(1940mg)、ウナギ(1680mg)、真サバ(1660mg)、マイワシ(1650mg)、ニシン(1650mg)、サワラ(1440mg)、
戻りガツオ(1370mg)、真鯛(1300mg)、シシャモ(1220mg)、
金目鯛(1140mg)、アナゴ(1110mg)
|
含有量中等度
|
ホッケ(980mg)、カンパチ(920mg)マアジ(870mg)、銀ダラ(770mg)、メバル(760mg)、紅鮭(750mg)、ウニ(425mg)
|
含有量少ない
|
クロマグロ赤身(147mg)、初ガツオ(112mg)、スケトウダラ(78mg)、真ダラ(66mg)、キス(48mg)、アンコウ(29mg)、ミナミマグロ赤身(9mg)
|
※日本食品標準成分表2015年版(七訂)より
上の表にあるように、マグロ、魚卵、ブリ、サンマ、イワシ、ニシンには多くのEPA・DHAが含まれています。
そして、「カツオ」は、初ガツオ、戻りガツオと2種類あります。
春を中心にとれる「初カツオ」と秋が旬な「戻りガツオ」ではEPA、DHAの含有量が10倍以上異なります。
三陸側でたくさん餌を食べた「戻りガツオ」の方がしっかり脂がのっていてDHAやEPAが豊富に含まれています。
このように時期によって異なるのは興味深いです。
こちらの表を参考にEPA、DHAの含有量の多い青魚を中心に摂ると良いでしょう。

魚の部位については、
あぶらの部分にDHAやEPAが多く含まれています。
魚を食べるとき
「脂ののった魚」という表現をしますが、DHAやEPAはその脂や神経組織部分、皮の部分に多く含まれています。
例えば、「マグロ」は
赤身にはほとんど含まれず、トロの部分や目の周りのドロっとした組織に豊富に含まれているといわれていますが、一体、部位によってどのくらいの差があるのでしょうか。
前のページの一覧表の中にある
「クロマグロ」を参照します。
クロマグロ100gあたりのEPA+DHA含有量(mg)
脂ののった部分では4600㎎
赤身の部分は146㎎
その差は30倍以上と圧倒的な結果となりました。
【魚の調理法】
オメガ3系の油を摂取できる量は調理法によっても異なります。
刺身のような「生食」ではすべてのあぶらを摂取することができますが、
加熱調理する場合には
“焼き魚で2割、揚げ物で5割”のあぶらが流出してしまうといわれています。
効果的にEPA・DHAを摂取するには刺身が一番ですが、生で食べられない魚は揚げるよりも焼き魚や煮魚にして食べましょう。
すでに加熱調理されている缶詰では、汁の部分に多くEPA・DHAが含まれているので、汁まで使い切ることがおススメです。
一食分に含まれるEPA・DHAの参考例です。
【サンマの塩焼き】
サンマ一匹(過熱後130g) カロリー 386㎉
DHA 1560㎎ EPA 728㎎
皮まで食べるとEPA・DHAを豊富に摂ることができます。
【ブリの煮魚】
ブリ一切れ(過熱後100g) カロリー 386㎉
DHA 1360㎎ EPA 752㎎
【まとめ】
・EPA・DHAはサバ、ブリ、サンマのような青魚に多く含まれています。
・多く含まれている部位は、皮、トロの部分や、神経組織の部分なので、カマ焼きなどがお勧めです。
・反対に白身魚にはEPA・DHAの含まれている量が少ないです。
・1番効率よくEPA・DHAをとる食べ方はお刺身です。
・加熱調理は多少の油の流出があります。
焼き魚で本来の8割、揚げ物で本来の5割に相当するEPA・DHAをとることができます。
2024-11-15 13:31:26
「植物のネバネバ成分=ムチン」は間違い!
ムチンは、動物由来の高分子糖タンパク質です
管理栄養士 大西 菜美子
長年、日本中のテレビや雑誌、ネットなどで紹介されてきた「野菜や納豆などの植物性食品のネバネバ成分=ムチン」という情報。これが実は間違いであることが、現在の科学的知見で判明しました。
現在、ムチンは「動物から分泌される粘質物一般」と訂正されています。
ムチンは動物由来の高分子糖タンパク質で、消化管・気道の粘膜上皮や唾液腺などで産生される粘液の主成分です。
分泌型と膜結合型に分類され、物理的バリアとしての粘膜保護や潤滑作用に加え、膜結合型では細胞質内への情報伝達機能にも関与しています。
北里大学理学部化学科の丑田公規教授が発表された「生物工学 第97巻 第1号(2019)」の解説によると…
国内でムチンを扱った最初の文献は、明治17年に東京化學會誌に掲載された報文で「植物として初めて薯蕷(じょうしょ:山芋や長芋のこと)の成分にムチンが発見された」という報告です。その後、明治44年から大正5年にかけて、「山芋のムチン」を強く肯定する論文が見られます。
しかし、昭和3年には、山芋の粘液成分はマンナン(多糖類、食物繊維の一種)とタンパク質の混合物であると発表されており、それについて反論があった形跡はなく、昭和15年に記載された総説でも山芋のムチンは否定されたことが明示されています。これで学術的には、植物ムチンの唯一の報告例であった薯蕷のムチンが否定されて終わったことになります。その後、内外の文献に「植物のムチン」という報告はないことから、昭和3年以降、山芋だけでなく植物全般にムチンは存在しないと学術的に結論付けられています。
ではなぜ、現代まで訂正されなかったのでしょうか。
丑田教授によると、明治17年から昭和3年までに書かれた教科書や一般書がその後も訂正されることなく用いられ、新しい書籍などが増殖し、現在に至っているのではないかということです。報文としては薯蕷だけでしたが、いつの間にか他の野菜のネバネバ成分全体に拡張されていたことも、民間人による「外観からの思い込み」があったと考えられています。
改めまして、ムチンは動物由来であり、植物性食品のネバネバ成分とは別物である旨、ご周知下さい。(2015年8月に猪岡内科コラムにて掲載しました「夏にとりたい粘り成分①②」の内容は、この記事にて訂正させて頂きます。)
2024-10-18 11:44:40
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イヌイットに学ぶオメガ3
2024年9月
猪岡内科
糖尿病療養指導士 中村郁恵
先月号では
「体にいい油」=オメガ3があり、その中には魚の油の成分である
EPA,DHAとアマニ油やえごま油に含まれる
αリノレン酸があるという内容でした。
今回はオメガ3のルーツについて深堀していきましょう。
【オメガ3の歴史】
オメガ3の重要性がわかってきたのは、寒い地方に住むイヌイットの食生活からでした。
以前、オランダやイギリスの研究者JørnDyerbergたちは、イヌイットは
「世界一脂肪の多い食事をしているのに、なぜ心臓病にならないのか」と
首をひねっていました。
そこで1976年、研究者たちは、グリーンランドの僻地に住むイヌイットの調査に出かけました。
すると、彼らは依然として脂肪の多い伝統的な食事をしていました。
1年のほとんどが氷に覆われている北極地方では、
現代のように交通機関が発達する前の食事は“冷たい海の魚、アザラシ、セイウチ、シロクマの生肉”でした。
氷の世界ですから、穀物や野菜はありませんでした。
このような脂の多い食生活をしているイヌイットの人々は、なぜか現代の生活習慣病と言われる糖尿病、高脂血症、動脈硬化などはほとんどなく、心筋梗塞や脳梗塞にかかることはあまりなかったようです。
【イヌイットの血液中にはオメガ3(EPA/DHA)が多かった】
その後の研究で、
「グリーンランドに住むイヌイットは心臓のトラブルが非常に少ない」けれど
「デンマークに移住したイヌイットでは、心臓系の病気がデンマーク人と同じくらいに増加していた」ことがわかりました。
動脈硬化の指標の一つに、「 EPA/AA比 」 というのがあります。
EPAは動脈硬化を抑制しますが、アラキドン酸(AA)は炎症を引き起こし、動脈硬化を促進するように働きます。
そこで両者の血液を調べてみると、グリーンランドの先住民では、EPAがアラキドン酸とほとんど同じ比率(0.94)であったのに対し、デンマークに移住した先住民ではEPAの割合が極端に少なくなっており(0.1)、このことが原因で、心臓のトラブルが激増していたことが確認されました。
この違いは、
グリーンランドではアザラシやセイウチなどの海獣の肉を食べているのに対し、デンマークでは豚肉や牛肉などの欧米型の食事をしているということだったのです。
イヌイットが食べていた
“冷たい海にすむ魚” “アザラシ” “セイウチ”は多価不飽和脂肪酸オメガ3の脂肪(EPAやDHA)が豊富でした。
これらの脂肪は海の生物、魚や海獣の細胞膜を透過性の高くして、体の組織を柔軟にし、さらに体温調節機能のために役立っています。
これはグリーンランドのような冷たい海では海の生物に必須の要素なのです。
【日本では】
日本でのEPA/AA比 の平均は次に示す表のようになっています。

比較的魚を食べている年代ではEPA/AA比の平均値は0.61となっていますが、食生活の欧米化が気になる30代ではEPA/AA比の平均は0.27と低く出ています。
当院では年に一度の動脈硬化の検査の時に、動脈硬化が進行している方は脂肪酸を測定しています。
動脈硬化の治療で処方される薬剤の“EPA製剤”ですが、
その薬の効きがいいとされるEPA/AA比は0.62以上といわれています。
J-STAGEの頸動脈にプラークのある患者さんを対象にした研究では、EPA/AAが0.4以下になると血種優位な不安定プラークとなり、EPA内服するとこの血種が改善されたという結果から、
EPAはプラーク内出血に有効といわれています。
また、他の研究でもスタチン系のコレステロール製剤を内服していてLDLコレステロール値は十分下がったけれど、それでも心疾患にかかってしまった患者さんはEPA製剤にによるEPA/AA比の介入を推奨されています。
今とても注目されているEPA/AA比なので、一度ご自身の結果を確認してみましょう。
【日本でいい油をとるには】
オメガ3の脂肪酸は、民族や年齢に関係なくすぐに身体の組織の中に取り込まれることが研究でわかっています。
厚生労働省によるDHA・EPAの1日の摂取量目安は「1000mg」と記されています。
国民栄養・健康調査をもとに「EPA・DHAの男女・世代別の平均摂取量」をグラフ化にしてみました。
【日本人のEPA DHA平均摂取量】
その結果は、どの世代も“1000㎎”未満で目標達成しておりませんでした。

男女比で比べてみると、どの世代においても男性の方が女性よりも摂取できていました。
どの世代が多く摂取できているか?については、前のページの図で示した「EPA/AA比」の結果に比例するように、
70歳以上の平均摂取量が高いという結果でした。
「高齢者のほうが魚を多く食べている」世間のイメージはそのまま数字で反映されていすことがわかります。
どの世代においても、意識的に体にいい油を摂取することが大切ですが、
日本でオメガ3系の体にいい油をとるにはどの方な方法があるのでしょうか。
- 青魚をたべること
- いい油をとること
- サプリで補充すること が考えられます。
具体的な食事からの摂取方法については次回詳しくまとめます。
2024-08-15 10:45:55
体にいい油をとろう
2024年8月
猪岡内科
糖尿病療養指導士 中村郁恵
前回は血圧をコントロールする薬や血圧を下げる食事について特集しました。
今回は血圧を下げる働きのある“DASH食”でも少し触れた“体にいい油”について特集したいと思います。
まずは、主な油脂の分類についてです。
【脂肪酸の分類】
油脂はどれも1g=9kcalですが、それぞれ違う性質をもっています。
油脂を主に構成している脂肪酸の種類が異なるからです。
脂肪酸は、大きく 飽和脂肪酸 と 不飽和脂肪酸 に分けられます。
不飽和脂肪酸は、炭素間の二重結合がありますが、その二重結合のまわりの構造の違いにより、
シス型とトランス型に分けられます。
【シス型とトランス型】
脂肪酸の場合は、水素原子(H)が炭素(C)の二重結合をはさんでどの位置にいるかで
トランス型とシス型に分けられます。
トランス(trans)とは“あちら側” ”横切って”という意味で、炭素(C)の二重結合に対して水素原子(H)が反対側にあるものです。
シス(cis)とはラテン語で“同じ側の” ”こちら側”という意味で、炭素(C)の二重結合に対して水素原子(H)が同じ側にあるものです。
そしてこれが二重結合のあそび、ゆらぎで示される部分になります。

【飽和脂肪酸】
以前にトランス脂肪酸について特集した際に、常温で固体の脂は、主に動物性油脂に多いことをお話しましたが、この固体の脂は、まさに「飽和脂肪酸」です。二重結合がなく、きっちりと密になって整列しているため常温でも固まりやすい状態です。
飽和脂肪酸を多く含む食品としては、バターなどの乳製品やラード、ココナッツオイル、カカオバターなどがあります。
【不飽和脂肪酸】
“二重結合”を持っている脂肪酸と言う意味です。
上記に示した通りに、二重結合とはトランス型、シス型とありますが、その二重結合が少ないと脂肪酸同士がきっちり整列できるので、常温で固まりやすくなります。
反対にシス結合のような結合が多いと、ゆらぎがあるため固まりにくい状態となります。

さらに不飽和脂肪酸は、1個の二重結合を持つものを 一価不飽和脂肪酸 と、2個以上持つ 多価不飽和脂肪酸 に分けられます。
【一価不飽和脂肪酸】
一価不飽和脂肪酸を多く含む油脂の代表的なものはオリーブオイルやこめ油です。最近では、品種改良した一価不飽和脂肪酸のオレイン酸が豊富に含まれているベニバナ油やヒマワリ油などもあります。一価不飽和脂肪酸は飽和脂肪酸に次いで固まりやすいため、オリーブオイルを冷蔵庫で保存すると白く濁ってしまいます。
飽和脂肪酸と一価不飽和脂肪酸の一番の役割はエネルギー源です。これらのあぶらは直接摂る以外に、私たちの身体の中でも炭水化物から作ることができます。消費するエネルギー以上に取っている場合には体重を増加させているので気を付けましょう。
【多価不飽和脂肪酸】
不飽和脂肪酸のうち、オメガ3脂肪酸とオメガ6脂肪酸は 「必須脂肪酸」 といわれています。この二つの必須脂肪酸は、
体内で作ることができないため、食品から摂取する必要があります。

【
オメガ3の種類-EPA、DHA、α-リノレン酸 】
オメガ3(n-3系脂肪酸)は、皮膚の健康を助ける栄養素として2015年4月より、「栄養機能食品」の対象成分になりましたが、現代の日本の食生活では、食生活の欧米化により、オメガ6(リノール酸)を多く摂る傾向があり、オメガ3(α−リノレン酸)は不足しがちです。
EPAとDHAは先月号の表に記載しているように
アジ、イワシ、サバなどの青魚に多く含まれることで知られています。
α-リノレン酸は、
えごま油やアマニ油などの植物性の食品に多く含まれており、体内に入ると一部EPA、DHAへと変換されますが、そのEPAやDHAは生活習慣病の予防に効果的と言われています。
EPAは、脳卒中を二次予防する効果があることが国内のJELIS(Japan EPA Lipid Intervention Study)という研究で示されました。
また、心臓病のリスクを減少させる可能性があります。
これらの脂肪酸は血中の中性脂肪レベルを下げる、血圧を改善する、抗炎症作用を持つことで知られています。
また、DHAは脳の健康をサポートし、認知症やアルツハイマー病のリスクを減少させることが知られています。
【オメガ3の割合】
次のページの表のとおりに「えごま油」や「アマニ油」は脂肪酸の構成比のうち約6割にα-リノレン酸が含まれています。えごま油やアマニ油を意識的に摂取することで、不足しがちなオメガ3を効率的に取り入れることができます。

【まとめ】
体にいい油はオメガ3系です。
オメガ3系の中には、EPA、DHA,αリノレン酸があります。
食事から摂取する方法は「EPAやDHAが豊富に含まれている青魚、αリノレン酸が豊富に含まれているえごま油、アマニ油を意識する」です。
次回はオメガ3についてイヌイットでの例をまとめていきたいと思います。
2024-08-15 10:24:33
アメリカの動脈硬化の基準について
~血圧のコントロール②編~
2024年7月 猪岡内科
糖尿病療養指導士 中村郁恵
先月は「
Cardiovascular Disease and Risk Management: Standards of Care in Diabetes—2024」「
糖尿病患者における心血管疾患(ASCVD)のリスク管理」
の高血圧の部分の定義や治療目標についてお話ししました。
今月はこちらの表に示すように
高血圧薬のコントロールの方針や血圧を下げる働きが認められている食事療法の
DASH食について紹介します。
当院の薬剤
ACE阻害薬:タナトリル、チバセン、コバシル、レニベース
ARB:イルベサルタン、アジルサルタン、オルメサルタン、テルミサルタン、カンデサルタン、バルサルタン
CCBカルシウム拮抗薬:アムロジピン、アテレック、ヘルベッサーR,
利尿剤:ラシックス、ナトリックス、アルダクトンA、アゾセミド
β遮断薬:アロチノロール、カルベジロール、セレクトール、テノーミン、
ARNI:エンレスト
配合薬 アムバロ、アテディオ、カムシア、テラムロ、バルヒディオ、レザルタス
前のページの表をもとに療の過程について説明していきます。
【治療開始】
●
血圧が ≥120 / 80 mmHg以上の方
まずは、生活習慣の見直しをします。
塩分摂取量の見直し、定期的な運動の取り組み、必要な方は禁煙しましょう。
定期的に自宅血圧を測定して日々の血圧の変化をみてみましょう。
●血圧が ≥130 / 80 mmHg以上の方
上記の生活習慣の改善に加えてまずは
1つの薬から薬物療法がすすめられます。
●血圧が ≥150/90 mmHg以上の方
生活習慣の改善に加えて
薬の種類を組み合わせた治療法がすすめられます。
Multiple-Drug Therapy=多剤併用療法と呼ばれるものですが、
特に血圧が高い方、糖尿病性腎症の方は血圧目標を達成するために2剤以上の薬を組み合わせて治療することがよくあります。
次に薬の選び方についてです。
●糖尿病の方、冠動脈疾患、尿微量アルブミンのある方
糖尿病や冠動脈疾患がある方、微量アルブミン尿が出ている方は、
第一選択治療薬として
ACE阻害薬、ARBが推奨されています。
当院で取り扱いの薬剤は上記青色に示しているので参照してください。
ACE阻害薬、ARB製剤は心筋梗塞などの心臓のイベントリスクを減らすことが実証され、進行性の腎臓病を抑えることが期待されています。
●定期的な血圧の評価と副作用の確認。
血圧が治療目標の ≥130 / 80 mmHgに到達した方は今の治療を続けましょう。
目標に到達しない方は、カルシウム拮抗薬や利尿剤などほかの薬剤の追加を考えます。
めまい、ふらつきなどの副作用のある場合には薬を変更することを考えます。
【DASH食】
DASH食(
Dietary Approaches to Stop Hypertension =高血圧を防ぐ食事療法)
の略語でアメリカで行われた調査・研究からまとめられた
血圧の改善に効果のある食事療法です。この食事療法で収縮期血圧10mmHg、拡張期血圧5mmHg下がったという効果が確認されています。
DASH食のポイント
脂肪の多い肉類、全脂肪乳製品、砂糖、お菓子、ナトリウム
具体的には
肉類から魚類に切り替えて「不飽和脂肪酸」を増やし、
低脂肪の肉と低脂肪の乳製品をとることにより「飽和脂肪酸」の脂肪摂取を減らします。不飽和脂肪酸のEPAやDHAはマグロ、サンマ、サバなどに多く含まれます。
- 意識して摂取する食べ物
- 、果物、全粒穀物、低脂肪の乳製品、魚、鶏肉、豆、ナッツ、種子、植物油
ナトリウムを排出する働きのある「カリウム」をはじめ、カルシウム、マグネシウムのミネラルを含む果物、食物繊維を多くとることで血圧を下げる効果が期待できます。
これらのミネラルにはそれぞれ異なった血圧を下げる働きがあります。
油についてはオメガ3系が多く含まれるえごま油、アマニ油がお勧めです。
血圧を下げる効果のある“α-リノレン酸”が多く含まれています。過熱に弱く、酸化しやすいため小さいものを選ぶと良いです。
血圧を下げる働きがあるといわれている食品を1つではなく、組み合わせることにより効果的に血圧を下げると考えられています。
「DASH食」は日本高血圧学会の治療ガイドにも掲載されています。
アメリカと日本では体質や食文化の違いはありますが、血圧に良い食品は共通した面が多くありDASH食は日本人でも応用できます。

血圧が気になる方は、DASH食で紹介した食材を意識してみましょう。
2024-08-15 09:56:22
アメリカの動脈硬化の基準について
~血圧のコントロール編①~
2024年6月
猪岡内科
糖尿病療養指導士 中村郁恵
先月に引き続き、「Cardiovascular Disease and Risk Management: Standards of Care in Diabetes—2024」
「
糖尿病患者における心血管疾患(ASCVD)のリスク管理」
今月は“血圧の部分”についてまとめました。
【高血圧】
高血圧は、
≥130 /80mmHgと定義されます。
2回以上測った測定値の平均を出しますが、 血圧が
≥180/110 mmHg で心血管疾患のある人は、1 回の診察で
高血圧と診断されます。
これは、米国心臓病学会および米国心臓協会による高血圧の定義と一致しています。
高血圧は、糖尿病の方にもよく見られますが
アテローム性動脈硬化性心血管疾患(atherosclerotic cardiovascular disease: 以下 ASCVD)の主要な危険因子でもあります。
多くの研究により、血圧を下げる降圧療法は心筋梗塞などのASCVDイベント、および糖尿病の合併症である微小血管合併症を減少させることが判明しています。
【白衣性高血圧と自宅血圧】
また、普段自宅で測る血圧は高くないけれど医師の前だけで血圧が上がってしまう
“白衣高血圧”の方もいます。
そのような方は“ストレスや緊張による血圧の変動”を受けやすい体質で、徐々に高血圧へ移行する場合があります。
自宅の血圧測定は、外で測る血圧よりもASCVDリスクとの相関が高いことが判明しており、日本の高血圧学会やアメリカの各学会でも
「自宅での血圧測定」は推奨されています。
自宅血圧と病院での血圧の差は一般的に5mmHgほどです。
そのため、自宅血圧では高血圧の基準が125mmHg以上を目安とします。
それ以上に血圧の差がある場合には、まず血圧計が正しくつけられているかを確認しますが、それでも差がある場合には白衣性高血圧の可能性を考えます。
・自宅血圧測定方法
1回目 朝起きて、済ませた後。ごはんや薬を飲む前に測定
2回目 夜寝る前
可能であれば2回測定します。
ご希望の方には血圧手帳を配布していますので、自宅で血圧をつける習慣をつけてみましょう。
自宅血圧が正常範囲であるのに病院で血圧が上がってしまう方は血圧手帳を持参して医師にご相談ください。
【治療目標】
糖尿病のある方の血圧の目標は 130/80mmHg以下です。
血圧の研究ではSPRINT、ACCORD BP試験、ADVANCE試験などが有名ですが、どの研究でも高血圧の患者さんを対象に
- 標準的な血圧治療群
- ①よりも目標血圧を下げて厳格な治療をした群
に分けて、脳梗塞、心筋梗塞、心不全などのイベント発症の差、薬剤による副反応の差を調査しています。
その結果より「
血圧の目標は 130/80mmHg以下」とされました。
また、厳格すぎる治療により血圧が下がりすぎてしまうと、個人によっては低血圧、失神、徐脈、高カリウム血症、血清クレアチニンの上昇などの副作用がおこりうる可能性があります。
それも踏まえて、お薬での治療介入の目安は血圧が130/80mmHg以上が目安となっています。
【治療戦略】
ライフスタイル介入
高血圧とは診断されないけれど血圧が120/80mmHgを超える方は、まず生活習慣を見直してみましょう。
生活習慣の管理は主に、
運動、食事、禁煙の3つです。
●運動
運動面では、“適正体重” “活動の増加”を意識します。
糖尿病の基準に準じて
週に150分の有酸素運動がすすめられています。
「毎日少しずつ“30分×週に5回”」「まとめて“50分×週に3回”」
ご自身のライフスタイルに合わせて
習慣化しやすい方法を考えてみてください。
●食事
食事面では主に“ナトリウム”と“カリウム”を意識します。
アメリカのガイドラインでは、ナトリウム摂取量
(<2,300mg/日=5.85g)がすすめられています。
しかし、栃木県の平均塩分摂取量は<男性10.7g、女性9.1g>と倍量近くあります。
まずは、厚生労働省が示す<1日の塩分摂取
8.0g>を目標に満足いく味付けの範囲で減らしてみましょう。
アメリカでは1㏖を基準に考えられています。
㏖は国際単位系における物質量の単位です。
Na=23 Cl=35.5
NaClの分子量58.5がそのまま58.5gという質量になり、
その1/10がナトリウム摂取量
(<2,300mg/日=5.85g)という基準になりました
。
当院では定期的に、塩分チェック表、1日の塩分摂取量の尿検査も行っています。
高血圧を予防するための食事療法(DASH食)については後で解説します。
●禁煙
タバコを吸うと血管が収縮して血圧があがることは一般的に知られています。
実際に心筋梗塞になると“これを機に”とスパッとタバコを辞められるものの、
”強いきっかけ”がないとなかなか難しいものです。
健康に悪いとわかりながらも吸い続けてしまうのは、ニコチン中毒の怖いところだと感じます。
“浮いたたばこ代で何を買おうかな?”“旅行に行こうかな?”と禁煙することをプラスに考えてみるといいかもしれません。

このような生活習慣の改善に加えて、さらに血圧が
130 / 80 mmHg以上の方は内服薬にも頼ってみましょう。
さらに、血圧が
≥150/90 mmHg以上の方は2種類以上の薬を飲み合わせる治療法もすすめられています。
次回は血圧の薬についてです。
2024-05-26 14:15:20