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糖尿病学会より日本人における2型糖尿病のアルゴリズム⑥ ~日本での目標HbA1c値設定~

糖尿病学会より日本人における2型糖尿病のアルゴリズム⑥
~日本での目標HbA1c値設定~
2023年11月
猪岡内科
糖尿病療養指導士 中村郁恵
 
次に日本での目標となるHbA1c値設定の決め方です。
【日本での目標HbA1c値設定】
JDSによるアルゴリズムでは次のようになっています。

 
・インスリンの適応の評価と目標 HbA1c の設定
 2 型糖尿病の薬物療法は安全性を大前提とし、まずインスリンの絶対的および相対的適応があるかどうかを判断します。
・合併症予防の観点からはHbA1c 7 %未満が妥当であるが年齢や併存症等を考慮して目標となるHbA1cを個別に設定します。
HbA1cの目標値の決め方は、ガイドラインによるHbA1cの目標値、“厳格な血糖コントロール”を推奨する熊本スタディ、 J-DOIT3をもとにしたHbA1cの目標値、高齢者のガイドラインのHbA1cの目標値と様々なのでまとめていきます。
 
●糖尿病ガイドラインでのHbA1cの目標値
従来のガイドラインの糖尿病患者さんの血糖コントロールは、年齢、罹病期間、臓器障害、低血糖の危険性、サポート体制などを考慮して個別に設定されます。
 
 
 
下の図のように。血糖正常化を目指すときはHbA1c6.0未満を目指します。
合併症の発生と進行を抑えるために、治療強化が困難な場合を除き、できるだけHbA1c7.0未満を目指しますが、治療の強化が困難である場合にはHbA1c8.0未満を目指します。


 
●高齢者ガイドラインでのHbA1cの目標値
超高齢化社会と言われている日本では65歳以上の人口が30%に及びます。
そして2型糖尿病の半数以上は65歳以上の高齢者です。
高齢者の糖尿病ガイドラインでは “厳格な血糖コントロール”を推奨する熊本スタディ、 J-DOIT3などの結果とは裏腹に、低血糖のリスクを考慮して目標のHbA1cがもともとの糖尿病ガイドラインより、より個々に合わせてより緩めに設定されています。

注1) 認知機能や基本的ADL(着衣, 移動, 入浴, トイレの使用など), 手段的ADL(IADL:買い物, 食事の準備, 服薬管理, 金銭管理など)の評価に関しては, 日本老年医学会のホームページ(外部リンク)を参照する.エンドオブライフの状態では, 著しい高血糖を防止し, それに伴う脱水や急性合併症を予防する治療を優先する.
注2) 高齢者糖尿病においても, 合併症予防のための目標は7.0%未満である.ただし, 適切な食事療法や運動療法だけで達成可能な場合, または薬物療法の副作用なく達成可能な場合の目標を6.0%未満, 治療の強化が難しい場合の目標を8.0%未満とする.下限を設けない.カテゴリーIIIに該当する状態で, 多剤併用による有害作用が懸念される場合や, 重篤な併存疾患を有し, 社会的サポートが乏しい場合などには, 8.5%未満を目標とすることも許容される.
注3) 糖尿病罹病期間も考慮し, 合併症発症・進展阻止が優先される場合には, 重症低血糖を予防する対策を講じつつ, 個々の高齢者ごとに個別の目標や下限を設定してもよい.65歳未満からこれらの薬剤を用いて治療中であり, かつ血糖コントロール状態が図の目標や下限を下回る場合には, 基本的に現状を維持するが, 重症低血糖に十分注意する.グリニド薬は, 種類・使用量・血糖値等を勘案し, 重症低血糖が危惧されない薬剤に分類される場合もある.
高齢の方では、年齢や認知機能・身体機能、併存疾患、重症低血糖のリスク、推定される余命などが様々であり、一律の目標設定が困難です。
また、低血糖のリスクがある薬を使用する中で血糖コントロールを厳しくすることは、前述の通り高齢者では特に危険であり、血糖を下げすぎないように目標の下限値を決めることが適切と考えられます。これらの考え方をもとに、2016年に高齢者糖尿病の血糖コントロール目標が作成されました。
治療目標は、年齢,罹病期間、低血糖の危険性、サポート体制などに加え、高齢者では認知機能や基本的ADL、手段的ADL、併存疾患なども考慮して個別に設定されます。
 
●熊本スタディ、 J-DOIT3の復習
熊本スタディは、1日4回注射の強化インスリン療法による厳格な血糖コントロールにより血糖値をより正常に近づけることで、糖尿病の合併症を抑制できるかを検討した前向き試験です。
対象患者には一次予防(腎症、網膜症ともなし)群と二次予防(単純網膜症あり、24時間の尿中アルブミン排泄量300mg未満)群の両方が含まれていましたが、
熊本スタディで明らかになった解析結果は両方の群で厳格な血糖コントローをして血糖値を正常に近づけることで糖尿病の合併症の発症と進展を抑えられるということでした
 
J-DOIT3は高血圧または高脂血症のある2型糖尿病患者さんを対象に、従来のガイドラインに沿った従来療法または、従来の治療法よりも目標をより厳しく設定した強化療法のどちらかを受けていただき、どちらが糖尿病に伴う大血管症(心筋梗塞や脳卒中)の発症や進行を防止できるかどうかを調べることを目的としています。
解析結果は、強化療法では介入期間中の主要評価項目(心筋梗塞・冠動脈血行再建術・脳卒中・脳血管血行再建術・死亡)の発症がおおいに抑制され、特に脳血管イベントについては58%有意に抑制されたということです。
 
【HbA1cの目標値まとめ】
ADAでの個別化した目標HbA1c値設定の基本方針を示している表の方が簡潔明瞭ですが、日本でも欧米でも共通して言えることは、糖尿病の合併症を考慮して7%未満を目標として治療方針を進めていき、低血糖のリスクも考慮してより厳格なHbA1cを目指せる方はより厳格な治療を進め、高齢やインスリンなどのリスクのある方はより緩めなHbA1cを設定していくという点です。
 
 
目標HbA1cが決まったところで次に治療方針についてです。
次回は欧米と日本、それぞれの治療方針についてまとめていきます。
 

2023-11-10 13:29:59

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糖尿病学会より日本人における2型糖尿病のアルゴリズム⑤ ~欧米での目標HbA1c値設定~

糖尿病学会より日本人における2型糖尿病のアルゴリズム⑤
~欧米での目標HbA1c値設定~
2023年10月
猪岡内科
糖尿病療養指導士 中村郁恵
 
糖尿病のアルゴリズムでは“‌日本と欧米の 2 型糖尿病に対する治療戦略の違い”について前回までにお話ししたように欧米人の2 型糖尿病の多くはインスリン抵抗性が主たる病態ですが、日本人 2 型糖尿病はもともとインスリン分泌能が低く、インスリン抵抗性とインスリン分泌不全の程度に個人差があることが特徴でした。
今年改定された部分も含めて欧米と日本での目標とするHbA1cの決め方や治療法の違いについて話していきたいと思います。
これから糖尿病を治療しようとする患者さんにはまず目標となるHbA1cの設定をします。
 
【欧米での目標HbA1c値設定】
 ADAでの個別化した目標HbA1c値設定の基本方針は下の図のようになっています。

1ページの表をご覧ください。
目標となるHbA1cは7%を基準にして、上から順に低血糖や薬物副作用のリスク、罹患期間、余命、重大な併存疾患、血管合併症、患者の志向、経済面も含めた資源や支援の体制を考慮しながら個別に設定します。
例えば、低血糖のリスクが少なく、罹患期間も短くて、合併症も少なくて、年齢が若い患者さんには目標となるHbA1cを低めに設定します。
反対に、高齢で罹病期間が長くて合併症があり、低血糖時にリスクのある患者さんには目標となるHbA1cを緩めに設定します。
欧米での目標HbA1c値設定はとてもシンプルでわかりやすいのが特徴です。
 
近年では徐々に自己血糖測定器や持続グルコース測定器が進化と普及したことでtime in range(TIR)という指標がさらに重視されています。

米国糖尿病学会によると、time in rangeとは“血糖値の目標範囲”のことです。
一般的に70〜180 mg / dlで、これには食前と食後の血糖測定値が含まれます。
連続血糖モニター(CGM)や自己血糖測定を行っている人は身近な話かもしれません。
目標となる血糖値の範囲が70〜180 mg / dlですので、次のステップは、自分の随時血糖値がこの範囲内に何パーセントくらい収まっているのかを算出してみます。
そして、目標としてクリアできそうな範囲を設定してフィードバックしていきます。
次ページの図はどれもHbA1cが7.0%の方ですが、右のグラフは低血糖もなく食後の血糖値もなだらかに見えるのに対して、左のグラフでは低血糖が頻発しており食後の血糖値も高くなっていますね。
できるだけ右側のグラフに寄せられるように、食後の高血糖や低血糖を補正して平坦になるような治療目標を個別的に立てていきます。

 
特に今回のADAの改定では、低血糖頻度や重症度の指標となる
time below range(血糖70mg/dL未満の時間が4%未満目標)の意義が強調されています。
 
【グルコーススパイクについて】
血糖値の数値の乱高下の波を“グルコーススパイク”と呼びます。
上のグラフをみると、一番左の血糖の波が激しく、一番右の血糖値の波が平坦なことがわかります。
この数値は健康診断などではわからず、連続血糖モニター(CGM)や自己血糖測定を行っている人などはご自身で把握することができます。
 
グルコーススパイクは、インスリンの分泌が大きく影響しています。
インスリンを分泌する能力が衰えると、分泌量が減ったり、分泌するタイミングが遅くなったりします。
すると、細胞がブドウ糖を取り込むことができず、血糖値の急激な上昇を招きます。さらに急上昇した血糖値を抑えるために、後からインスリンが大量に出てしまうと、今度は血糖値の急降下を招きます。
 
 
ところが、食後血糖値の検査は一般的ではないので、糖質の多い食品を大量に一気に食べ、我が身に血糖値スパイクが起こっているかもしれないことを、ほとんどの人が気づいていません
グルコーススパイクが起きると血管の中ではどのようなことが起こるのでしょうか。

グルコーススパイクが起こると、活性酸素が大量に発生し、血管内皮細胞を傷つけます。傷ついた血管を元に戻そうと、免疫細胞が血管壁に張り付き中に入り込みます。
この免疫細胞により血管の炎症が治まれば修復されますが、治まらなければ免疫細胞の死骸や修復材料のコレステロールなどが酸化して、酸化型コレステロール(=超悪玉コレステロール)ができます。これが、血管内壁に付着し、盛り上がり、血管の内壁が硬くなる動脈硬化となります。
動脈硬化が進むと、血管が狭くなり詰まってくる状態になると、心臓や脳に十分な酸素などが供給されなくなり、心筋梗塞、心不全や脳梗塞などを引き起こします。この機序についてはそのうち深堀します。
 
time in rangeではできるだけ平坦な血糖値を目指すことが新たに重要な指標として強調されているのは、動脈硬化の観点からも大切なことだと考えられます。
 

2023-11-10 13:21:51

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糖尿病学会より日本人における2型糖尿病のアルゴリズム④

糖尿病学会より日本人における2型糖尿病のアルゴリズム④
2023年9月
猪岡内科
糖尿病療養指導士 中村郁恵
 
先月は日本人と欧米人の 2 型糖尿病の病態では、欧米人は主にインスリン抵抗性が多い病態なのに対して、日本人は遺伝的にもインスリンの分泌能の低下が関わっているという違いがありました。
このような結果を踏まえて、果たして患者さんご自身はどちらのタイプの糖尿病なのか?それぞれの特性に合った薬剤はなにか?の見方について解説していきたいと思います。
 
【糖尿病の検査】
糖代謝の変動をあらわす検査結果の指標としては、血糖値HbA1cがあり、当院ではほぼ毎月血液検査をして変動を診ておりますが、
インスリン分泌能やインスリン抵抗性の程度を示す指標としてあげられる検査にはHOMA-β HOMA-IRと呼ばれる項目があります。
 
【HOMA-β HOMA-IR
HOMA-β(=homeostasis model assessment for β cell function)
HOMA-IR(=homeostatic model assessment insulin resistance)
こちらの2つの指標が 一般的にはインスリン抵抗性、インスリン分泌能の評価でよく用いられていますが、この指標は本当に歴史が古く、 1979年にイギリスのオックスフォード大学のターナー教授によって提唱されています。
 
空腹時のインスリン値と血糖値を掛け算するもので、今や世の中で広く認められた指標なのですが、初めて出てきたときは、オックスフォード大学で体の糖代謝をコンピュータのシュミレーション装置で計算されていました。
それによって非常に難しい計算をして 出していました。
ところが、そのうちに弟子のマシュー先生が、プロットしてみると一定の曲線上に乗るので、最初は対数曲線上にプロットした数式を提唱されました。
しかし、提唱された数式が、実は変形させると、単なる掛け算で表せるのだと いうことをテキサス大学のハフナー先生が言い出して、臨床的にも使いやすい指標として広まりました。
 
●HOMA-β(=homeostasis model assessment for β cell function)は、インスリン分泌能を評価するための検査です。
 
空腹時の血糖値と血中インスリン濃度(IRI)を測定し下の計算式にあてはめます。
 
 
100%が健常白人の基準です。
明確な基準があるわけではありませんでしたが、もともと白人よりもインスリン分泌能が低い日本人では40%-100%が基準値と判断されている文献が多かったです。
HOMA-βが30%切ってくると軽度インスリン分泌能が低下しているという判断になり、15%を切ると明らかなインスリン分泌能の低下、10%未満ではインスリン廃絶の証明値、3%未満では1型糖尿病に多いインスリン能枯渇の状態と判断されます。
足りていないホルモンを補うインスリン療法導入の指標にしています。
HOMA-βは空腹時血糖値130㎎/dL以下の場合に信頼度が高いとされています。
また、インスリン補充療法中の方の場合には正確な血中インスリン濃度が測定できないため、違う検査項目をみていきます。
 
●HOMA-IR(=homeostatic model assessment insulin resistance)
HOMA-Rはインスリン抵抗性を評価するための検査です。
空腹時の血糖値(FBS)と血中インスリン濃度(IRI)を測定し計算式にあてはめていきます。
 
健常白人のインスリン抵抗性を1としており、1.1以上で軽度インスリン抵抗性と判定されます。HOMA-Rが2.0以上なら明らかなインスリン抵抗性ありと判断されます。
 
HOMA-Rは空腹時血糖値140mg/dL以下で信頼度が高いと言われています。
また、こちらもインスリン補充療法中の場合には正確な血中インスリン濃度が測定できないため使用できません。
 
 
●インスリンを使用している人
インスリン補充療法中の方の場合には正確な血中インスリン濃度が測定できないため、代わりに“Cペプチド”という検査項目をみていきます。
 
Cペプチド
Cペプチドは、膵臓からインスリンが分泌されるときにインスリンにくっついて出てくるタンパク質です。
その後、インスリンからは切り離されて、血液中を通った後に尿に出されます。実際に血糖値を下げるのはインスリンであり、Cペプチドはそのかけらのようなものです。Cペプチドの量を測ると、自分の膵臓からでたインスリンの量を推測することができます。

 
膵臓からははじめ、プロインスリンという蛋白質が出てきます。そこからCペプチドが切り離され、血糖値を下げるインスリンができます。Cペプチドはその後、尿中に捨てられてしまいます。
 
このCペプチドの値が低ければ低いほど、自分の体で作られるインスリンの量が少なくインスリン依存性が高いことがわかります。
 
さて、ご自身のインスリン分泌能やインスリン抵抗性について理解を深めたところでHbA1cの目標値の決め方についての説明に移りたいと思います。
 
 
 

2023-11-10 13:16:49

糖尿病学会より日本人における2型糖尿病のアルゴリズム③

糖尿病学会より日本人における2型糖尿病のアルゴリズム③
 
 
2023年8月
猪岡内科
糖尿病療養指導士 中村郁恵
 
前回は基礎的な糖の流れとインスリンの働きについて、インスリンの基礎分泌追加分泌、のインスリン分泌不全やインスリン抵抗性についてお話ししました。
それらを踏まえたうえで日本人向けに糖尿病のアルゴリズムが作られた背景について触れられていた日本人と欧米人の違いについて解説していきます。
 
【日本人と欧米人の違い】
日本人と欧米人のインスリン分泌能、インスリン抵抗性を比較すると、正常な状態でも日本人は欧米人と比較してインスリン分泌能が低く、欧米人は糖尿病を発症する過程において 急激にインスリン抵抗性が増しますが、日本人はインスリン抵抗性の増大に比してインスリン分泌能が低い傾向を示します。
東アジア人、白人、黒人のインスリン感受性とインスリン初期分泌を比較した研究でも、インスリン分泌能とインスリン感受性のバランスは人種により大きく異なり、東アジア人と黒人は白人よりも糖尿病になりやすいことが示されています。
 
そこで欧米人と比較して日本人のインスリン分泌能が低く糖尿病になりやすいのはなぜか?という仮説を調べてみました。
 
●理由① 昔の食文化の違いにある

 上のグラフは、ブドウ糖を口から摂取した時のインスリン分泌量を、日本人と北欧白人とで比較したものです。
同量のブドウ糖に対し、日本人のインスリン分泌量がかなり少ないことがわかりますが、その原因は、日本人と欧米人の食文化の歴史の違いにあります。
 
その昔、農耕民族だった日本人はお米など穀物中心の食事をとり、肉を食べることがほとんどないという、高炭水化物・低脂肪の食生活でした。
さらに、とても働き者だったため運動量が多く、炭水化物から得たエネルギーはどんどんと代謝されたので、全体的にやせ型で、インスリンが少量で済む生活を送ってきました。
そのため、自然とインスリン分泌量が少なくても良いという体質に進化して膵臓のβ細胞もそれに適応してきました。
 
対して、牧畜民族だった欧米人は、一度に大量の肉を食べても血糖値の上昇を抑えられるよう、十分なインスリン量が必要でした。
その結果インスリンが十分に分泌されるような体質となり、膵臓のβ細胞もそれに適応してきました。その化の過程で高カロリーに強い体質を作り上げることになりました。
 
糖分をとったときのみならず、空腹時のインスリンの出方にも差があります。
欧米人は空腹時血糖が140㎎/dlまではインスリン分泌が保たれるのに対して、日本人は空腹時血糖が125㎎/dlを超えるとインスリン分泌が落ちてしまうという違いがあるようです。
 
健康診断の通知でもよく見られる、肥満度を示す体格指数「BMI」の基準も異なり、日本人は肥満の基準が25であるのに対し、欧米では30以上に定められています。

このようにインスリンの「分泌量」が少ないのは前述のとおり、食生活や先祖が暮らしてきた背景などより日本人に遺伝的に備わった先天的素因になります。
 
●理由② 昔と現代とで食生活が変わってしまった
高度経済成長期を迎える昭和30年ごろを境に、日本人の食生活は大きく変化します。
 島国である日本は、戦前は今のように海外との行き来や文化交流をすることがほとんどなかったため、農耕生活をしながら、それに沿った食生活をし、その食生活に合った体質がつくられていきました。
 しかし、昭和20年に終戦を迎え、高度経済成長期へと突入した昭和30年ごろから、日本にも海外の文化が流入し始め、食生活は急速に欧米化していきます。肉料理を頻繁に食べるようになったため、それまでほとんど摂っていなかった動物性のたんぱく質と脂肪の摂取量が急激に増えました。

 先述のように、日本人は穀類中心の生活をし、エネルギーの8割を炭水化物から摂っていたため、インスリンの分泌が少なくて済みました。
しかし、その体質は変わらないまま、食生活は大きく変わり、さらに経済成長とともに自動車が普及したことで運動量も大幅に減らしてしまったので、糖尿病を発症してしまう人が急増しました。

そして現代では、共働き家庭の増加などで、子供が親の手料理を食べる機会が減っています。そのため、調味料などを使用せずに食材由来の成分だけで味付けした、体にやさしいだし料理などは日常的に食べられなくなり、代わりにハンバーガー、ピッツァ、牛丼など、糖質、たんぱく質、脂質を一緒に体に入れてしまうファストフードを食す機会が増えてきました。 
 また、血糖値を急上昇させないためには、時間をかけて食事をとることも大切で、日常的には会話をしながら食卓を囲む家族のだんらんがその機能を果たしていますが、今の日本では孤食が進んだうえ、勤勉で効率を好む日本人には、食事の時間をなるべく短くして、仕事や学業、遊びに充てようとする人も多いため、食事時間はますます短くなる傾向にあります。
 こういった背景により、大人はもちろん、子供の糖尿病患者も増えています。
 
まとめ
このような先祖の時代から進化し続けてきた元々持っている遺伝子に加えて現代での食生活の変化が、より日本人の糖尿病を発症させやすくしています。
 

2023-11-10 13:07:04

糖尿病学会より日本人における2型糖尿病のアルゴリズム②

糖尿病学会より日本人における2型糖尿病のアルゴリズム②
2023年7月
猪岡内科
糖尿病療養指導士 中村郁恵
 
前回はアルゴリズム作成の背景や、日本の糖尿病研究の結果について熊本スタディやJ-DOIT3についてお話ししました。
日本人向けに糖尿病のアルゴリズムが作られた背景について欧米人と日本人の違いについても述べられていたので、今月はそれを解説するうえで必要な基礎的な糖の流れとインスリンの働きについて説明します。
 
インスリンは血糖値を下げる唯一のホルモンでその分泌には基礎分泌追加分泌の2種類あります。
【インスリンの基礎分泌】
基礎分泌とは下の図参照のように、空腹時の血糖値を正常域(おおよそ70-110㎎/dlの範囲)に保つために常に分泌されているものです。
●空腹時寝ているときのインスリンの働き


肝臓からのブドウ糖の供給と脳や全身の細胞での消費がつり合い血糖値は70-110㎎/dlの範囲に保たれています。膵臓からは常に少量のインスリン基礎分泌がされています。
【インスリンの追加分泌】
追加分泌とは食事により上昇した血糖値を低下させるために分泌されるものです。ブドウ糖が細胞の中に取り込まれるのはインスリンの作用によります。
 食事をすると小腸から栄養素が取り込まれ門脈という血管に流れ込みます。栄養素の中でもごはん、パン、うどんなどに多く含まれる炭水化物がブドウ糖に分解されて血糖値が上がります。
血中のブドウ糖が増加すると、それを感知した膵臓のランゲルハンス島にあるβ細胞からただちにインスリンの追加分泌が起こります。そして門脈中のインスリン量がふえて肝臓のブドウ糖の取り込みが増加し、肝臓の中でグリコーゲンに変化して蓄えられます。
●食事をした時のインスリンの働き

食事をして炭水化物がブドウ糖に分解されると小腸で吸収されて血液に入り血糖値が上がります。そうするとインスリンの追加分泌が起こります。
インスリンの作用で肝臓にブドウ糖が取り込まれ、グリコーゲンとして蓄えられます。
肝臓に取り込み切れないブドウ糖は肝臓を通り抜けて血液中に流れます。それにより血糖値が上がり、さらにインスリンの追加分泌が起こります。
 
血液中のブドウ糖は、インスリンの働きで筋肉に入りエネルギーとして利用されたり、グリコーゲンとして貯蔵されたりします。同じくインスリンの働きで脂肪細胞に入り中性脂肪として貯蔵されたりします。
このようなことがスムーズに行われると血糖値は速やかに食前の値に戻ります。
 
すべてのブドウ糖が肝臓に取り込まれるわけではなく、一部のブドウ糖は肝臓を通り抜けて全身の血液中に流れて、インスリンの作用により筋肉や脂肪組織に取り込まれて、最終的に食事前の血糖値に戻ります。
 

このような糖の流れとインスリンの働きにより通常では血糖値は一定に保たれています。これらの過程でうまくインスリンが働かずに糖の取り込みができなくて高血糖になってしまった状態が糖尿病ですが、主な原因はインスリン分泌の低下や、インスリン感受性の低下(インスリン抵抗性)の2つあります。
 
 
【インスリン分泌不全】
1型糖尿病の場合は、主に自己免疫(自分自身の細胞を異物として排除しようとしてしまう事)が原因で、インスリンを産生する膵臓のランゲルハンス島のβ細胞が破壊され、インスリンの基礎分泌と追加分泌の両方が低下・消失しています。
 

 2型糖尿病の初期では、インスリンの基礎分泌は正常人と同様か、インスリン抵抗性のため軽度に増加しています。
そして、追加分泌の遅延や低下のために食後高血糖を生じています。
上がってしまった血糖値を正常域に戻そうとしてインスリンの分泌細胞に負担がかかります。それが、長く続くと膵臓のβ細胞が疲弊してしまい機能が落ちてきます。

そしてグラフに示すようにβ細胞機能が約50%程度に落ちた時点で2型糖尿病を発症します。その後、経過年数とともにインスリン分泌不全が進行していく過程をたどります。
 
【インスリン抵抗性】
インスリン抵抗性とは血液中にあるインスリンの濃度に見合ったインスリンの働きが得られない状態と定義されています。この原因としては、インスリンの作用を弱めるインスリン拮抗物質の存在や、インスリンを受け取る受容体の減少、インスリン受容体を介する細胞内への情報伝達能力が低下した状態などが考えられます。
インスリン抵抗性を引き起こしてしまう主な原因は、生活習慣です。肥満による内臓脂肪の増加や高脂肪食などによる筋肉・肝臓・脂肪組織でのインスリン感受性の低下、運動不足などがあります。インスリン抵抗性があるとインスリンを大量に分泌しないと血糖値が正常域まで低下しなくなります。

 
このようにインスリン分泌低下やインスリン抵抗性をきたす複数の遺伝因子に過食、運動不足などの生活習慣、その結果としての肥満が環境因子 として加わりインスリン作用不足を生じて2 型糖尿病が発症します。
 
 
 

2023-11-10 12:46:05

糖尿病学会より日本人における2型糖尿病のアルゴリズム① 

糖尿病学会より日本人における2型糖尿病のアルゴリズム① 

2023年6月
猪岡内科
糖尿病療養指導士 中村郁恵
 
2 型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム
世界の糖尿病人口の 3 分の 1 はアジア地域に集中しています。
そして、世界の糖尿病患者さんの傾向とアジア地域の糖尿病患者さんの傾向を比較したときに、最も大きな違いがあります。
それは、糖尿病のある人の肥満の程度を含めた病態が大きく異なっていることです。
 
2022年糖尿病学会より「2 型糖尿病治療アルゴリズム」 が発表されました。
少し医療者目線の話題になってしまいますが、スタッフが糖尿病学会に参加して勉強してきたことを皆さんにもお伝えしたいと思っています。
世界とアジア地域の違いや、アルゴリズムが発表された背景と日本においての糖尿病治療の研究結果を示す熊本スタディ、J-DOIT3の概要についてまとめました。
 
【アルゴリズム作成の背景】
アルゴリズムが作成された背景として,3 つのことが挙げられます。
1 つ目は、欧米人と日本人の糖尿病の病態の違いです。
欧米人においてはインスリン抵抗性主体の肥満糖尿病、いわゆる「太っていてTHE生活習慣病です」という見た目の方が多いのに対し、日本人では肥満と非肥満が半々で、インスリン分泌低下と抵抗性の程度が個人毎に異なっています。「痩せているのに糖尿病」という人が欧米よりも多い印象を受けます。
 
2つ目は、欧米と日本の2型糖尿病の治療戦略の違いです。
欧米では 先ほども述べたようにインスリン抵抗性主体の肥満糖尿病が多いことを踏まえて、2021 年度版まで、初回処方薬としてビグアナイド薬(メトグルコ)が推奨されてきました。
また併存症、特に動脈硬化性心血管疾患、腎機能障害、心不全に対して有効性を示す薬剤の推奨を優先してきました。
一方、我が国においては、学会で発表されている
熊本スタディ (Diabetes Res Clin Pract. 28:103-117, 1995)」や
「J-DOIT3(Lancet Diabetes Endocrinol. 5:951-964, 2017)」等の結果も踏まえて(後述します)、血糖マネジメント及び血糖をはじめとする多因子介入 が合併症抑制に重要で、これらを踏まえてそれぞれの患者さんを診てどのクラスの糖尿病治療薬を使用するかを決定することが推奨されてきました。
 
3つ目として、National Database の解析により日本の 2 型糖尿病の初回処方の実態が実際に欧米とは大きく異なることが明らかになったことが挙げられます。
高齢化社会の日本では、高齢者へのビグアナイド薬(メトグルコ)に関する注意喚起が広く浸透しており、それに伴い高齢者には DPP-4 阻害薬 が選択される傾向が認められました。
一方で、糖尿病学会非認定教育施設では初回処方にビグアナイド薬が一切使われない施設が 38.2 %も存在したことより、2 型糖尿病治療アルゴリズムを作成する必要があると考えられました。
 
我が国における 2 型糖尿病治療アルゴリズム作成のコンセプトとして、糖尿病の病態に応じて治療薬を選択することを最重要視し、エビデンスと我が国における処方実態を勘案しています。
 
●熊本スタディの要約
熊本スタディとは
2型糖尿病患者を対象に、1日4回注射の強化インスリン療法による厳格な血糖コントロールにより血糖値をより正常に近づけることで、糖尿病の合併症を抑制できるかを検討した前向き試験です。
対象患者には一次予防(腎症、網膜症ともなし)群と二次予防(単純網膜症あり、24時間の尿中アルブミン排泄量300mg未満)群の両方が含まれていましたが、
熊本スタディで明らかになった解析結果は両方の群で厳格な血糖コントローをして血糖値を正常に近づけることで糖尿病の合併症の発症と進展を抑えられるということでした
 
●J-DOIT3の要約
J-DOIT3(Japan Diabetes Optimal Integrated Treatment study for 3 major risk factors of cardiovascular diseases の略称:ジェイ・ドゥイットスリー)は、厚生労働省の研究事業として実施される臨床試験です。
 
高血圧または高脂血症のある2型糖尿病患者さんを対象に、従来のガイドラインに沿った従来療法または、従来の治療法よりも目標をより厳しく設定した強化療法のどちらかを受けていただき、どちらが糖尿病に伴う大血管症(心筋梗塞や脳卒中)の発症や進行を防止できるかどうかを調べることを目的としています。
従来療法と強化療法の管理目標は下の図の通りです。


「J-DOIT3」で明らかとなった主な解析結果として、強化療法では介入期間中の主要評価項目(心筋梗塞・冠動脈血行再建術・脳卒中・脳血管血行再建術・死亡)の発症が19%抑制された。また、喫煙情報などの危険因子での補正を行なうと、発症は24%抑制されるという結果でした。
 さらに事後解析では脳血管イベント(脳卒中・脳血管血行再建術)に関しては、強化療法で58%有意に抑制されていた
 また、強化療法では糖尿病特有の合併症として腎症の発症・進展を32%抑制し、網膜症の発症・進展を14%抑制されました。
 

 
結果をまとめると、現行のガイドラインにそった治療でも2型糖尿病の合併症を抑制できるが、強化療法により厳格な治療を行なうことで、脳梗塞や心筋梗塞糖尿病固有の合併症(腎臓、眼)の発症をさらに抑えれることを示しています。
 
まとめ
アルゴリズムの背景として、日本人と欧米人の違いやそれに伴う治療方法の違いについて、日本人を対象として行われている糖尿病研究について紹介しました。まずは、従来のガイドラインの目標値を目標として治療を進めて低血糖などを起こさない範囲で目標が達成できたら、よりよい状態を保つために強化療法に進むと様々な合併症の予防に効果的であるという事です。
次回はインスリンの分泌についてです。
 
 
 

2023-11-10 12:41:02

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花粉症について③ 2023年5月号

花粉症について③ 2023年5月号
猪岡内科
糖尿病療養指導士 中村郁恵
 
日本では森林面積の28%が花粉症の原因といえるスギとヒノキで占められています。
特にスギは18%と日本にある人工林の中では最も多い木です。
なぜ、これほどまでに杉が植えられてしまったのでしょうか。
それは、1950年代から1970年代に行われた、拡大造林政策が始まりでした。
戦後は、材木の需要が高まり、さらに住宅建設ラッシュがありました。これにより、質よりも多くの木が必要だということになり、成長が早いスギやヒノキを植える拡大造林政策を行ったのです。
その後も、スギは植え続けられただけでなく、外国産の材木の登場により、売れることなく放置されることになってしまいました。
スギの成長は30年すると花粉を飛ばし始め、それから100年は勢いが止まらないといわれています。
近年では花粉か少ない品種の杉も開発されていますが、杉の木は二酸化炭素の吸収率がとても高く、地球温暖化を防ぐ役割を担っているので伐採されることは考えにくいです。
そのためこれからのスギによる花粉は増え続けることが考えられています。
 
先月は内服薬を中心に解説したので点眼液についてまとめたいと思います。
 
花粉症の時期は目のかゆみが非常につらいですが、目をかいてしまったら、角膜を傷つけてしまいます。飲み薬でも多少は効きますが、やはり目のかゆみに一番良いのは点眼薬です。
 
【花粉で目がかゆくなる原因】
目からスギ花粉を外に出そうとする防御反応です。かゆくなることで目が潤されて、結果として花粉を目の外へ追い出そうとします。
その防御反応は以下のようになります。
 
  • 気中に浮遊空する花粉が目に侵入します。
  • マクロファージが異物と認識して花粉を貪食します。
  • マクロファージがT細胞、そしてB細胞へとバケツリレーのように花粉の情報を次々に渡します。
  • 花粉が次に入ってきたときに撃退するために、B細胞がIgE抗体を作り、肥満細胞に保管しておきます。
  • 花粉が再び侵入して、肥満細胞にくっついた時に保管しておいたIgE抗体が花粉にくっつく。
  • IgEをきっかけに、ヒスタミンなどの化学伝達物質が放出されます。 

この放出されたヒスタミンなどの物質が目の神経や血管を刺激して、かゆみや充血を生み出します。目のかゆみや充血が起こると、涙が出てきます。涙によって花粉を目の外に追い出そうとするのです。
【点眼液】
当院で取り扱っている点眼液はアレジオン、リボスチンと2種類あります。
どちらも抗ヒスタミン薬と呼ばれる点眼液ですがそれぞれ特徴があります。
 
【点眼液の作用】
アレジオン点眼液もリボスチン点眼液も第2世代の抗ヒスタミン薬として目に働きます。
 
抗ヒスタミン点眼液は、アレルギー反応により放出されたヒスタミンの働きを邪魔し、ヒスタミンが引き起こすさまざまなアレルギー症状をおさえます。
作用機序は、ヒスタミンが結合するヒスタミンH1受容体を遮断することによります。その結果、目のかゆみや充血を即効で抑える効果が期待されます。

さらにアレジオン点眼液には、もう一つの効果があります。
それは、「ケミカルメディエーター遊離抑制作用」です。


肥満細胞を安定化させて、結果として肥満細胞からのヒスタミンなどのケミカルメディエーターの遊離・放出をおさえる作用です。こちらはアレルギー作用機序の④・⑤で登場する肥満細胞が、IgEを放出するのを防ぐ効果があります。
リボスチン点眼液は抗ヒスタミン薬のみでケミカルメディエーター遊離抑制作用はないお薬です。
 
アレジオンの良い点は、コンタクトレンズを装着したまま点眼できる点です。アレジオンは2014年12月から防腐剤を、ベンザルコニウムからリン酸水素ナトリウムとホウ酸に変更しました。
ベンザルコニウムはコンタクトレンズが傷つき、同時にコンタクトレンズに吸着して直接角膜を傷つけてしまいます。一方でリン酸水素ナトリウムとホウ酸の成分は、ソフトコンタクトレンズに吸着されないため装着したまま点眼することも可能となりました。
それぞれのまとめです。
●アレジオンLX点眼液0.1%
抗ヒスタミン作用とケミカルメディエーター遊離抑制作用、2つの働きにより目の症状を抑える。
用法容量 通常、1回1滴、1日2回(朝、夕)点眼する
薬価 541.5円/1mLあたり 1本5ml
コンタクトレンズ可

●リボスチン点眼液0.025%
抗ヒスタミン作用により目の症状を抑える
用法容量 通常、1回1〜2滴を1日4回(朝、昼、夕方及び就寝前)点眼する
薬価 98.3円 /1mLあたり 1本5ml

薬価が5倍ほど違いますが、用法容量をみるとリボスチンのほうが2-4倍ほど多く使用するため、思ったより大きな差はありません。
 
コンタクトをしておらずこまめに目薬したい人はリボスチン点眼液、コンタクトをしている人、目のかゆみが酷い人はアレジオン点眼液をお勧めします。
 
もう少しで花粉シーズンも終了ですね。
天気の日は外に出て体を動かしましょう。
 

2023-04-24 11:47:38

花粉症について② 2023年4月号

花粉症について② 2023年4月号
猪岡内科
糖尿病療養指導士 中村郁恵
 
【花粉症の有病率って?】
2008年に行われた全国的な鼻アレルギー(花粉症)の有病率調査では、国内の約4割の人がアレルギー性鼻炎と答え、花粉が原因の鼻アレルギーは3割にものぼることが分かりました。そのなかでも、スギを原因とする花粉症は26.5%と、1998年の調査結果に比べ10ポイントも増加し、約4人に1人が発症しています。全国でも特に患者が多いと言われる東京都の調査では、スギ花粉症の有病率は3割近くにのぼります。
また、30・40代に多かった花粉症が、近年では花粉の飛散量の増加とともに、低年齢化が進み、若いうちに発症する人が増えています。10代でも約3人に1人が、10代以下も約15%近い人が花粉症を発症していたことが分かりました。2008年の調査から約10年近くたった現在ではさらに増加しているものと思われます。
日本では60種類もの原因花粉があり、スギやヒノキだけでなく、シラカンバ、ブナ、ハンノキ、ケヤキ、コナラ、ブタクサ、ヨモギなど、1年中、何かしらの花粉が飛んでいるので注意が必要です。
 
【花粉症の治療薬】
一般的な抗ヒスタミン剤について解説します。
【抗ヒスタミン剤の効果と作用機序】
肥満細胞から放出されるヒスタミンの働きを抑えることでアレルギー反応を抑えて花粉症によるくしゃみや鼻水、咳など、蕁麻疹による皮膚の腫れや痒みなどの症状を改善します。
 
●薬理作用
花粉症などのアレルギー性鼻炎、蕁麻疹などは食物、花粉、ハウスダストなど何らかの原因により体内のアレルギーを引き起こす物質が放出されることで症状があらわれます。

ヒスタミンは、アレルギー反応などを引き起こす体内の神経伝達物質のひとつで、H1受容体(ヒスタミンH1受容体)へ作用することで、くしゃみ、鼻水などのアレルギーの諸症状を引き起こします。
抗ヒスタミン剤はH1受容体への阻害作用によりヒスタミンの働きを抑えて、アレルギー性鼻炎、蕁麻疹などによる症状を改善させます。
 
また抗ヒスタミン作用により脳の活動が抑えられるために副作用として眠気などがあらわれる場合があります。
薬の種類によって強さや飲み方の特徴が違うので解説していきます。
 
【薬剤の特徴の比較】
●強さの比較
抗ヒスタミン薬には大きく分けて第一世代、第二世代があります。
第一世代の「ポララミン」などは作用が強く、ポララミンにステロイドを配合した「セレスタミン」はさらに強力です。
第二世代の抗ヒスタミン薬は、第一世代よりも弱めですが、副作用の眠気も抑えられるため、一般的によく処方されています。
 
第二世代間の正確な比較試験はありませんが、目安としては以下のようになります。(個人差があります。)

 
●副作用の比較
脳内ヒスタミン受容体占有率(眠くなりにくさの目安)は以下の通りです。

添付文書に「眠気による運転注意」の記載がないのは「アレグラ」「クラリチン」「ビラノア」です。
抗ヒスタミン作用による眠気は耐性ができるといわれているため、しばらく服用していると弱くなる場合がありますが眠気の出やすい薬を使用する際は車の運転などには注意しましょう。
 
●速効性の比較
第二世代の抗ヒスタミン薬には「季節性の患者に投与する場合は時季の前から服用を開始することが望ましい」とある通り、安定した効果を発揮するまでに時間がかかることがあります。
その点、第一世代は比較的速効性に優れます。
「内服で第二世代、頓服で第一世代」といった併用療法も行われることがあります。

当院取り扱いしている薬剤の一覧です。
●アレジオン
 エピナスチン製剤
 通常、1日1回の服用で1日効果が持続します。 

●フェキソフェナジン(=アレグラ)
 フェキソフェナジン製剤
通常1日2回服用します。 他の同系統の薬剤に比べ、一般的に薬効がマイルドで眠気の副作用が少ないため、高所での作業や自動車の運転などへの危険性が少ない。
 
●ビラノア
 ビラスチン製剤
 通常、1日1回の服用により、速やかに効果が発現しその効果が1日持続します。
通常「空腹時」に服用します。(食後に服用した場合、空腹時に比べて薬の吸収が低下する可能性があります)
 
●ルパフィン
 ルパタジン製剤
 通常、1日1回服用します。
 ルパフィンは他の薬と同様に抗ヒスタミン作用を持ちますが、ほかに抗PAF作用という働きを持つという特徴があります。
PAFとは血小板活性化因子のことで、血管を広げる作用や血管と周りの組織の間で水分などが行き来する血管透過性を持ち、鼻づまりや鼻水の原因となります。ルパフィンはPAFのはたらきをブロックして鼻づまりや鼻水の症状を抑えるように働きかけます。


作用や副作用に個人差があるため、自分のライフスタイルに合ったお薬を選びましょう。
 
花粉症の症状を感じたら早めの対策を
今年は花粉の散布量が過去最多と言われており、これから3月、4月のピークを迎える予想で、シーズンの花粉総数は昨年の1.2~1.5倍に達する予想です。症状を重くしないためにも、外出時には、花粉に触れないことが大切です。
サングラスやメガネ、マスク、帽子、そしてツルツルとした花粉を落としやすい服装を心がけて帰宅したら、玄関に入る前に花粉を払い、うがいや顔を洗う習慣をつけましょう。
 
 

2023-04-24 11:39:51

悪玉アディポカイン2023年2月号

悪玉アディポカイン2023年2月号
猪岡内科
糖尿病療養指導士 中村郁恵
 
深々と冷え込む季節になりました。皆さん暖かくしてお過ごしでしょうか。
さて、前回はアディポカインに善玉と悪玉があり生活習慣の乱れにより肥満となることで悪玉アディポカインが増えてしまうことをお話ししました。
今回は代表的な悪玉アディポカインについて紹介したいと思います。
 
【代表的な悪玉アディポカイン】
TNFαとIL-1β
炎症を引き起こす作用のあるTNFαIL-1βは主に白血球の一種であるマクロファージから分泌されていますが、貯まった内臓脂肪の中にある大型脂肪細胞からも分泌されています。
そのため、肥満となり脂肪細胞が大きくなると悪玉アディポカインが多く作られてしまいます。
 
●TNFα
TNFαは Tumor Necrosis Factor-αの略で和訳すると腫瘍壊死因子です。
名前の通りに「がん細胞に対して出血性の壊死をさせるように働きかける因子」として同定されました。
「がん細胞を破壊してくれる因子」と聞くといい細胞のような気がしてしまいますが、代表的な悪玉なのでその働きについて述べていきます。
 
 
●TNFαと疾患の関連
【TNFαと骨粗しょう症】
骨の代謝は新しい骨を作る働きのある骨芽細胞の骨形成古い骨を壊す働きのある破骨細胞の骨吸収によりバランスを保っています。
TNFαはこの破骨細胞を増やす働きがあり、保っていたバランスが崩れて骨を壊す側に傾くために骨粗しょう症になりやすくなります。
TNFαのほかにも女性ホルモンが減ってくると破骨細胞を止められなくなる働きがあります。

 
【TNFαと関節リウマチ】
リウマチは自分の免疫が自分を攻撃してしまう、炎症性の自己免疫疾患です。
免疫や炎症に関わるTNFαは、リウマチの患者さんの関節の中でたくさん生産されます。
そして、TNFαは関節の痛みや腫れ、関節破壊を起こします。
それだけでなく、されにほかの炎症を起こす物質(炎症性サイトカインといいます)を作らせて関節リウマチを悪化させる働きもあります。
治療にはこのTNFαを抑える薬が使われています。

【TNFαと糖尿病】
インスリンと糖の取り込みについて
膵臓から分泌されたインスリンは、筋肉や肝臓にあるインスリン受容体に結合します。そして、細胞内のシグナル伝達機構を活性化させて細胞の中に糖を取り込みます。
 
TNFαはインスリンを細胞の中に取り込むためのインスリンの受容体や、細胞内にあるシグナル伝達機構のGLUT4を抑制します。(図参照)
そのため、インスリンは出ているのにうまく細胞の中に取り込めない状態であるインスリン抵抗性の状態になります。
インスリン抵抗性についてはそう簡単ではないためTNFαと関係のある代表的な例をお示ししました。

トランスロケーション (translocation) とはタンパク質の移動のこと。
例えば、糖輸送体のGLUT4はインスリンの刺激によって細胞内から細胞膜へと移動するトランスロケーションを起こします。
しかし、TNF-αによりその働きは阻害されます。
 
減量をかんばって肥満から適正体重になると肥大していた大型肥満細胞は小さくなり、悪玉アディポカインの分泌が減ります。
悪玉アディポカインの代表であるTNFαが減ると、インスリン抵抗性の改善が期待されます。
 
実際に自分のインスリンがきちんと出ている人では減量すること数か月で、お薬をのまなくてもよい状態にまで糖尿病のコントロールができることがあります。
 
【ストレッチ】
長期的な運動習慣は炎症性のアディポカインを減らし、抗炎症性アディポカインを増やすという結果が出ています。
寒い冬に負けないように室内でできるヨガのポーズを紹介します。
 
 
英雄のポーズ
期待できる効果☆
肩こり・腰痛の予防
脚のむくみの予防
歩行時のふらつき・つまずき予防
 
  • イスに浅く腰かけ、骨盤を起こせる程度に脚を大きく開きます。
かかとを軸に、左つま先を横に向けます。左ひざとつま先を同じ方向に向けましょう。
  • 両手を腰におき、できるだけ骨盤を起こし、背中をまっすぐにしましょう。
  • 息を吸いながら左手を真横に上げ、目線を右側に向けます。余裕がある方は、右手も肩のラインまで上げます。3〜5呼吸キープしましょう。お腹の力を使って上体を保ちます。肩の力は抜いて、リラックスしましょう。
  • 息を吐きながら両腕を下ろし、正面を向きます。
 
反対側も同様に2〜5をおこないます。
 
 
寒さに負けずに体を動かして暖めていきましょう。
 

2023-03-03 11:50:56

花粉症について① 2023年3月号

花粉症について① 2023年3月号
猪岡内科
糖尿病療養指導士 中村郁恵
 
3月上旬は肌寒い日々が続きますが、桜のつぼみも膨らんできて暦上では春になりました。春は卒業や新生活のシーズンでもありますね。
日本人の約4割は花粉症と言われており、3月はスギ花粉が飛び交う季節でもあります。花粉症について特集していきたいと思います。
 
【花粉症の症状】
花粉症(季節性アレルギー性鼻炎)の代表的な症状としてあらわれるのは鼻水、鼻づまり、くしゃみなどの3大症状に加え、目のかゆみなどです。
風邪の症状と似ている部分もありますので症状の違いを載せていきます。
 
鼻水●風邪などによっておこるやや粘性が高く黄・黄緑がかった鼻水とは違い、花粉症の鼻水は「水のような」粘り気がなくサラサラした透明のものが止まらずに出てきます。
 
鼻づまり●鼻粘膜が腫れて鼻からのどへの通り道が狭くなることによって、鼻づまりが起こります。
口で呼吸をしがちになりますので、口の渇き、咳といった症状が出たり、においを感じにくいため食べ物の味が分かりづらくなったりします。
 
くしゃみ●くしゃみは、鼻の粘膜についた花粉を取り除こうとして起こる症状です。
花粉症のくしゃみは、風邪やインフルエンザの際のくしゃみより回数も多く、ほとんどの花粉症の人が悩まされる症状です。
その他にも症状が重い方は、皮膚のかゆみ、頭痛、倦怠感や寝つきにくいといった症状が伴うこともあります。
 
【花粉症を発症する原因とメカニズム】
花粉症とは、鼻腔内に入ってきたスギ等の植物の花粉に対する免疫反応によって鼻水などの症状が引き起こされることをいい、季節性アレルギー性鼻炎とも呼ばれます。
メカニズムとしては、アレルゲンが鼻腔内の粘膜に付着すると、体内に抗体が作られマスト細胞という細胞に結合します。
その後再びアレルゲンが侵入すると、マスト細胞からアレルギー誘発物質が放出されることにより鼻水等のアレルギー反応が引き起こされます。

また、花粉症の他にダニなどのアレルゲンによって引き起こされる鼻炎は通年性アレルギー性鼻炎と呼ばれます。最近では花粉症と通年性アレルギー性鼻炎の併発や、複数の花粉に反応する花粉症など、ほぼ一年中症状に悩まされるという人も少なくありません。


【鼻の症状を引き起こす原因とメカニズム】
鼻に花粉が入ると、下図のような仕組みで症状があらわれます。
  • 空気中に浮遊する花粉が鼻に侵入します。
  • 花粉が鼻の細胞内のマスト細胞にくっつくと、ヒスタミン、ロイコトリエン、トロンボキサン、PAFなどの物質を放出します。

目の症状を引き起こす原因とメカニズム
目に花粉が入ると、下図のような仕組みで症状があらわれます。
  • 空気中に浮遊する花粉が目に侵入します。
  • 花粉が目の粘膜内のマスト細胞にくっつくと、ヒスタミンなどの物質が放出されます。
  • 放出されたヒスタミンなどの物質が目の神経や血管を刺激して、目の諸症状を発症します。
 

季節を問わず、いつまでも花粉が飛散し、花粉の種類もかなり多いのが関東です。春先にピークがくるスギやヒノキ科だけではなく、秋のブタクサ属をはじめ草本花粉の時期も長いのです。
 
今年は特に花粉の散布量が多いそうです。
症状を軽くするためにも、本格的に花粉が飛散する前に先手を打って抗アレルギー薬を飲んでおくことで症状が緩和されるように効果を発揮してくれるので対策してみましょう。
 

2023-03-03 11:35:34

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